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虫とり(後日談)

 あれから約3年が経った。
 張江という人物は私の頭の中だけの存在になっている。本当に私が記憶違いをしていただけなのか、なにか見えないものの力によって張江瑠輝也という人間がこの世から消滅してしまったのか、私にはまったくわからない。
 ただわかっているのは、張江瑠輝也という人物は私の記憶の中には確実に存在していて、大学時代にはよく麻雀をしたし、大学卒業後もしばしばあって麻雀をしていたということだ。それが事実かどうかはわからないが、私の記憶の中では間違いのないことなのだ。
 あともう一つ気になっていることがある。
 それは私が、張江の友達には「変わった名前が多い」と言ってしばらくしたときの張江のなにかに気づいたような態度だった。
 張江はなにに気づいたのだろう? たしかにあのとき張江はなにかに気づいたような表情をしていた。そしてそのあとの張江は目に見えて狼狽した。きっと張江はなにかに気づいたはずなのだ。
 その「なにか」とはなんなのだろうか?
 私は存在が消滅した人物をノートに書き留めた。「柿平源治(かきたいらげんじ)」、「爪下翔(したつめしょう)」、「張江瑠輝也(はりえるきや)」の三人がこの世から消滅してしまっている。私は彼らの名前を何度も何度もノートに書いてみた。
 そのとき私はあることに気づき戦慄が走った。
 彼らの名前はいずれ消えることを示唆するアナグラムだったのではないか。
 つまり「柿平源治(かきたいらげんじ)」はひらがなを並び替えると、「異次元から来た(いじげんからきた)」。
 「爪下翔(したつめしょう)」は「消滅した(しょうめつした)」、「張江瑠輝也(はりえるきや)」は「やはり消える(やはりきえる)」と。
 柿平源治とは異次元から来た人間で、彼の排泄物を見た爪下翔は消滅し、それに関わった張江瑠輝也もやはり消えてしまう。
 張江はこのことに気づいたのではないだろうか。そして自分もやがてこの世から消滅すると思い、愕然とした。
 そこまで考えて私はさらにあることに気づいた。
 私の名前「赤星香一郎(あかほしこういちろう)」も文字を並び替えると「あうかこほしいちろう」つまり「合う過去欲しい。散ろう」になってしまうではないか。
 まさか私まで彼らと同じように消滅してしまうのではないだろうか。
 夜眠りについたら、それが最後で翌朝には存在自体が消滅している。わたしもそんなことになるのではないか。
 あれ以来私は起きるたびに「よかった。消滅していない」と安堵する毎日を送っている。
 いや、もともと私がいた世界では、赤星香一郎という存在はとうの昔に消滅していて、私のいまいる世界こそが新しい世界なのではないだろうか。
 私はいまだにその問いに対する答えを見いだせずにいる。

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中学受験 将棋 ミステリー 小説 赤星香一郎
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