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【パロディ】あさましきもの(駄ネタ) (『あさましきもの』太宰治)

 賭弓(のりゆみ)に、わななく/\久しうありて、はづしたる矢の、もて離れてことかたへ行きたる。

 こんな話を聞いた。
 男が小学生の時、国語のテストで、「『まさか……ろう』を使って短文を作りなさい」という問題があった。男は「まさかりかついだ金たろう」と答えた。
 次の日。「『しかも』を使って短文を作りなさい」の問題があった。男は「牛もいる。馬もいる。しかもいる」と答えた。
 さらに次の日には、「『うってかわって』を使って短文を作りなさい」に「彼は麻薬をうってかわってしまった」と答えた。
 日暮れて、男は一人教室に立たされた。
「いい加減にしなさい」先生は叱った。
「すみません」男は小声で言ってぴょこんと頭をさげた。真実わるいと思っていた。
 その翌日、再び問題が出た。『もう……してしまった』を使って短文を作りなさい。
 「もうしわけないことをしてしまった」男はそう答えた。
 先生は何も言わなくなったそうである。
 男は最近ハゲが目立ってきたが、地味な生徒であったらしい。あんなせつなかったことございませんでした、としんみり述懐して、行儀よく茶を一口すすった。

 また、こんな話も聞いた。
 地下鉄に乗っていた時のこと、こんなアナウンスが放送された。
「次は日本橋、日本橋、おでぶちんは右側」
 女は疑問に思ったが、この先に左の急カーブでもあるのだろうと考え、「はいはい、おでぶちんの私は右側ね」と素直に右側に寄ってしまった。
 正しくは「お出口は右側」であった。
 女はハゲの知人の妹であった。満員電車の中で、なに股間にしわ寄せているの、と大声で質問されたこともありましたよ、本人は眉間のつもりだったんでしょうけどね、と男は苦笑していた。

 また、こんな話も聞いた。
 その男は甚だ身だしなみがよかった。鼻をかむのにさえ、両手の小指をつんとそらして行った。洗練されている、と人もおのれも許していた。その男が洒落たレストランに入った。男はウエイトレスに微笑んだ。
「ミケランジェロとかいろうピラフ下さい」
「は?」ウエイトレスは五秒ほど固まった。
 キリマンジェロとエビピラフ(海老)のことだと分かったのは、十分後だった。ウエイトレスは、肩を震わせながら、笑いを堪えていたそうである。
 男は髪の毛がごっそり抜けた時よりも、みじめな思いをした。男はそのときのウエイトレスの笑いを思うと、いても立っても居られません、とやはり典雅になげいて見せた。男はやはり例の知人の村山であった。

 愚かで、滑稽な人の世の姿を、冷く三つ列記したが、さて、そういう乃公自身はどんなものであるか。
 缶コーヒーを飲みながら、車を運転中のこと。咳き込んでしまい、飲んだコーヒーをフロントガラスに吐きかけてしまった。そのせいで前が見えなくなって大いにあせり、思わずワイパーを動かした。意味のないことに気づいたのは、車がガードレールに突っ込んだ後のことだった。あきらかにこれ、愚かしとも、はずかしとも、ひとりでは常識人のような気で居れど、誰も常識人と見ぬぞ悲しき。一笑。


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小説が面白いと思ったら、スキしてもらえれば嬉しいです。 講談社から「虫とりのうた」、「赤い蟷螂」、「幼虫旅館」が出版されているので、もしよろしければ! (怖い話です)