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良い奴なんだけどなぁ


 俺、中学からずっと仲良い友達がいてさ。
 まあ、すげえ良い奴なんだよ。嘘つかないし、素直だし、明るくて誰とでも仲良くなれるし。あと他人のこと全然悪く思わねえの。だからみんなアイツのこと好きになるわけ。
 ただちょっと心配なとこもあって、アイツ一切他人のこと疑わねえのよ。
 言われたこと鵜呑みにしちゃうし、第三者から悪口吹き込まれても「でも俺には嫌なことしてこないしなぁ」とか言っちゃう感じ。
 良い奴なんだけどなぁ、ホントそこだけは馬鹿だなって思う。
 でさ、先月地元帰ってソイツに会ったんだけど、まーた変なことやらかしてんの。
 なんかね、ソイツが言うにはこんな感じの話。

『なんかねー、俺、夜に散歩すんのが好きなんだけど、住宅街とか歩いてっとたまにぼけっと玄関先に突っ立ってる爺ちゃん婆ちゃんいたりすんじゃん?
 それと似た感じで、ガキ座ってたの。
 一軒家の門の前で。
 俺ね、あーこれ幽霊だって思ったんよ。
 だって真冬だぜ? しかも真夜中。そこで半袖短パンランドセルは不自然じゃん。しかもなんか、頭がさ。半分ぶっ潰れてんの。右目とかでろっと落っこちかけてて。うわやべ、グロすぎ! って思ったけど、取りあえず子供だしなんか可哀想に思っちゃって、俺も隣に座ったの。
 どしたんよ、役に立つか分かんねーけど兄ちゃんが話聞くだけ聞こうか? って話しかけたら、なんかそのガキちょっとキョドって、ちっちゃい声でソウタロウって名乗ったの。
 そっかそっかソウタロウかぁっつって、兄ちゃんは五十嵐恭介だよーって答えたら嬉しそうに何回か頷いてた。
 でそれは可愛いんだけど、でもなんか頷くとさぁ、でろっと落ちかけてる右目ぶらんぶらんするし、なんか赤黒いやつとくすんだ黄色いやつが混じったみたいなドロっとしたのがさ、頭とか鼻とかボタボタ垂れるの。それはなんかやだった。めちゃくちゃ臭かったし。
 ソウタロウは成仏しないのー? って聞いたら、どうしようかなぁって言ってた。
 未練あるの? って聞いたら、ママに怒られてそれっきりだから家に入れてほしいんだって。んで謝って許しもらいたいらしいんだけど、表札に書いてあんのが三人分の名前で、三人家族だとしたら明らかに子供の名前女の子なワケ。
 一応ソウタロウに苗字聞いたら、ヤマモトだって。でも表札は齋藤で、これもう、あれじゃん? 引っ越してるじゃん、確実に。
 俺もさぁ、どうしよ、言ったら傷つけちゃうかなーって思ったけど、このままでも可哀想だしめちゃくちゃ言葉選びながら、ママもうこの家にはいないっぽいぜって伝えたの。
 したらソウタロウ、そっかぁって言ってしょげちゃって。
 余計なコトだったかなぁ、ごめんなぁ、って謝ったんよ。でもソウタロウはまた右目ぶらんぶらんしながら首を横に振って、ううん、ありがとう恭介お兄ちゃんって言ったの。いい子だよなぁ、ホント。
 俺、ママ探す? って聞いたら、ううんいいや、そろそろもうあっちに行くことにするって言ってて。成仏するんだなぁって思った。
 恭介お兄ちゃんありがとうね、お礼になるか分からないけど嫌じゃなかったら受け取ってって、これ貰ったの。
 なんか、これ持ってるとソウタロウがやなやつを遠ざけてくれるんだって。ほんと良い子だよなあ。
 なんであんな子が死んじゃう羽目になったんだろって悲しくなったけど、でも最後に笑ってくれたの嬉しかったな。』

 そう言って巾着から取り出して俺に見せてくれたのがさ、なんかカピカピに乾いて黒ずんだ何かがこびり付いたちっちゃい黄ばんだ白い欠片と、あと……干しぶどうのもう少し大きくて、これもまあ、ベースとしては白いんだけど黄色とか黒とか茶色っぽい斑点がついてるカサカサの『何か』でさ。それに黒茶けた紐? みたいなのがついてて、それがなんなのか考えるのは止しといたよ。

 まあ、あと、関係あるか分かんねーけど。
 その友達……まあ恭介って名前もう出てるしいっか。恭介の彼女死んだんだよ。風呂場で溺死らしい。自殺……ってことになったみたい。
 俺、あの彼女の悪い噂嫌になるくらい聞いてたから早く別れろよって言ってたのに聞く耳持ってなくてさ。
 恭介は悲しんでるんだかなんだか分からなかった。なんか悩んでたのかなぁ、気づいてやれなかったなぁって困ったみたいな顔して、それだけ。
 葬式は、バイトの夜勤が入っちゃって出なかったみたい。

 うーん。恭介、良い奴なんだけどなぁ。
 俺が地元に帰るまでに二人死んでて、その彼女で三人目なのになぁ。
 良い奴だよ? 本当に。
 でも、なんというか。
 ……いや、ううん。なんでもない。良い奴だよ。

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