植田日銀総裁の答弁に見る、全部民間の心理のせい、というエスタブリッシュメントの呪術的思考

参議院財政金融委員会質問 令和6年4月9日にて極めて重要な答弁を西田昌司先生が植田和男日銀総裁に求めました。


「30年間に及ぶデフレの原因は、BIS規制の端を発する民間の信用創造(企業の借金による国内投資)の抑圧(企業の貯蓄超過)ではないか?」

というものです。これは私がnoteでもたびたび書いてきた内容でもありま
す。

植田総裁の答弁を見てみましょう。

委員ご指摘の貯蓄投資バランスは確かに企業部門を見ますと、90年代後半以降、貯蓄超過で推移しております。

これは90年代の資産バブル崩壊、金融危機を経て、残念ながら企業の成長期待が低下し、設備投資を抑制するなど、企業の支出行動が総じて慎重化した結果、あるいはそれが続いているという事だと思います。

ただ、デフレの原因について考えてみますと、それだけでなく様々な要因があると思います。私共は、加えまして、デフレ期に定着した、賃金や物価が上がらないという事を前提とした、考え方、あるいは企業行動
これの転換に時間を要してきたという事も、大きいかなと考えております。

つまり、要は民間の人々の心の問題で企業が貯蓄超過になりデフレが続いている、政府はなんも悪くないもん!という回答です。

おいおい民間のせいにするなと言いたいですね。

企業が借金を増やさないのは合理的な行動で心理の問題ではない

下記の研究結果を見てみます。
融資を受けている企業のほうがデフォルト(倒産)の確率が2倍も高いことが分かります。
これは企業が融資を受けて投資をしないことが心理的問題ではなく合理的選択である証拠の一つとなります。

https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/ronbun1805_01.pdf

次の研究結果も銀行の貸し出し態度がきつい企業(産業)ほど現金を保有(内部留保)を増やすと結論付けられており、企業の貯蓄超過(つまり投資より貯蓄が多い)が企業心理の問題ではないことが示唆されます。

金融機関の貸出態度がより厳しいと判断された産業で現預金の保有比率が高い傾向にあるかどうかを検討した。(中略)全体としてみると製造業と非製造業いずれにおいても右下がりの関係が観察される。このことは,金融機関の貸出態度が「厳しい」と判断した企業の比率が高い産業ほど現預金比率が高く,逆に金融機関の貸出態度が「緩い」と判断した企業の比率が高い産業ほど現預金比率が低くなる傾向にあることがわかる。

企業の資金余剰と現預金の保有行動 財務省財務総合政策研究所 福田 慎一

他にも企業側の様々な証言があります。

企業が現預金を保有する理由について、「リーマンショック後に、当社の業績は問題ないにも関わらず金融機関に返済を求められたことがあり、そのような不確実なリスクに対応するためになるべく積み上げておきたい」、「リーマンショック等の経験から、現預金保有の必要性を痛感している」、「リーマンショックの時を経営者はまだ忘れていない」、「財務体質を気にしており、リーマンショック等の過去の出来事を鑑みると慎重にならざるを得ない」といった声が複数あった。

日本企業の現預金保有行動とその合理性の検証 奥 愛,髙橋 秀行,渡部 恵吾 PRI Discussion Paper Series (No.18A-05)

2015年だったか、ある自動車メーカー役員が講演会で、「私たちは1997年の金融危機の際、貸し渋りで困難を経験しましたので、それを教訓にして、今はしっかりと手元資金を貯め込んでいます」と誇らしげに語っていた。

「日本ひとり負け」戦犯は誰だ?安宅和人×河野龍太郎×尾河眞樹×小林慶一郎 緊急特集

銀行は幾ら大きくても、長期の金はリスクが大きいということで、BIS規制の枠からはみ出てしまうのです。だから、我々のような企業に貸せば貸すほど銀行自身の格付けが下がるというような仕組みになっているらしくて、我々に貸す限度はここまで、と。不動産業に貸す限度と我々の格付けがさらに上がれば出してもいいけれども、我々のやり方だと格付けが上がらないのです。とにかく先行投資が先ですから上がるわけがないのです。ですから、実績を見て格付けしてもらうなら良いのですが、そうではないBIS規制みたいな格付けだと銀行も貸したくても貸せないというわけです

「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」第3巻『日本経済の記録-時代証言集-』 森ビル  元代表取締役 森稔

企業は借金を増やさない原因は政府の政策のせい

なぜ企業が借金=国内投資を忌避する(もしくは借金ができない)のかというと政府の金融行政のせいです。
何度もnoteに書いていますが、

民間銀行に対する

BIS規制+罰則(早期是正措置)+不良債権の定義の押し付け+不良債権比率の低下の強要 

が銀行が金を貸せない、貸せたとしても企業の経営が傾くと問答無用で銀行が貸しはがしして企業をつぶしにかかってくる行動の原因となっているので、企業は銀行に金なんか借りたくないのです。

この金融行政は90年代以降始まり、今でも基本的には変わっていません。

※金融庁の最新の民間銀行向けの監督指針を久々に読んだら、事業再生、円滑な資金供給を行うべきなどの項が増えており多少銀行の信用創造を解放しようとしている努力の跡が見られます。しかし下記のような記述も残っており、結果、資料が矛盾をきたし訳が分からない監督指針になっていましたw

(民間金融機関は)一定の収益を確保することにより、持続的に内部留保の蓄積が進むような体質になれば、銀行のリスク負担能力が高まり、より高次の金融サービスの提供が可能となる

主要行等向けの総合的な監督指針 令和6年4月

→利息が必ずとれるすでに儲かっている企業にしか金貸すんじゃねーぞ という意味です

信用リスクとは、信用供与先の財務状況の悪化等により、保有する資産(オ
フバランス資産を含む。)の価値が減少ないし消失し、銀行が損失を被るリスクをいうが、銀行は当該リスクに係る内部管理態勢を適切に整備し、財務の健全性の確保に努める必要がある。
特に、近時の急激な信用リスク顕在化の過程では、与信集中の弊害、厳格な
資産査定やグループとしての信用リスク管理の必要性などの問題が明らかになっており、的確な与信ポートフォリオ管理や信用リスク管理手法を選択することにより、再度、不良債権問題を引き起こさないような態勢を整備すべきである。
(中略)
不良債権問題の再発を防止するためにも、このように、不良債権への適切な
対応がなされることによって、主要行全体としての不良債権比率が平成 17 年3月末時点の水準以下に維持されることが重要であり、各行において最善の努力が果たされることを期待する。
(中略)
危険債権以下の債権については、信用リスクが大幅に高まっている状況にあるため、そのような債権を早期に認知し、早期に不良債権処理を実施することは極めて重要である。

主要行等向けの総合的な監督指針 令和6年4月

→俺らが勝手に決めた不良債権の定義に従い、企業から貸しはがしして、さっさかつぶしてもいいから平成17年3月以下の不良債権比率を絶対維持しろよ という意味です

なお、銀行の個別取引先に対する与信判断は、あくまでも当該銀行の経
営判断で行われるものであることに留意する必要がある。即ち、銀行監督当
局の職責は、
銀行の検査・監督を通じてその財務の健全性を確保することに
ある。銀行監督当局として債務者区分や債権の自己査定結果を検証する際、
債務者の経営改善計画等の実現可能性等を検証することがあるが、その結
果は銀行の不良債権額と償却・引当額に反映されるにとどまる。

主要行等向けの総合的な監督指針 令和6年4月

→俺ら金融当局は、お前ら銀行の自己資本比率を好き勝手に棄損させたり(引当)、貸し出しを償却させる(任意の企業を貸しはがしで倒産に追い込む)権限があるんだからな。俺らは民間のお前らに対して行政のくせに好きなように経営を左右するような超強力な判断と強要ができるんだから、忘れんじゃねーぞ! という意味です

ーー

企業が借金をして投資をしたがらない理由は、政府が作り上げた90年代以降の金融行政の構造的な問題に端を発するのです。(構造的に銀行も企業も借金そのものを忌避している)

それなのに、彼らは責任を回避したいのか眼をそらしたいのか、民間の心理にデフレの原因を求める非理性的オカルト思考=呪術的思考に陥っています。エスタブリッシュメントがデフレを民間のせいにしていてはいつまでたっても問題は解決できないと思います。


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