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一年草

インスタを見てたらフォローしている園芸ショップの投稿で「パンジービオラの入荷始まりました」というのがあった。あ、そうか今年もそういう季節か、とそれを見て思うのだった。日々草や、ペチュニアともそろそろさよならか。

我が家の庭では今、ペチュニア、日々草、マリーゴールド、アゲラタム、ルドベキアなどの一年草があるが、どれもおしなべて元気がない。元気がないどころか、日々草意外ほとんど花を咲かせていない。寒くなってきたからという訳ではなく、梅雨明けに切り戻してから、盛り返すことなくテンションは低空飛行を続け、日に日に弱っている感じだ。
梅雨明け後も雨が続いたことが大きな要因の一つに思う。
園芸を始めて四年にもなると、大した経験も無いくせに下手に玄人ぶり、雨により草姿の乱れた花をみて「あーこれはこんな感じで切り戻せばすぐに復活するから」と、どんぶり勘定でバサバサ切り戻したのがいけなかった。
また、リカバリー次第でまた復活すると高を括り、雨つづきでも軒下に移動させるということもサボってしまっていた。
それにより低空飛行どころか、梅雨明け頃までに五、六鉢枯らしてしまっている。
生き延びたとて思うように成長しないと興味も薄れ、花がら摘みや肥料を与える頻度も減りますます返り咲く気配は遠のき今に至る。
今シーズンは完全に失敗だ。油断が招いた悲劇だ。

そうして訪れた秋冬シーズンは、何を育てるにしろ反省を生かし頑張って派手に咲かずぞと気概に満ちている。

そもそも植物を育て始めた当初は一年草にあまり興味が持てなかった。
花屋にいって「これいいな」と思って手に取るが、それが一年草とわかるとまた苗を置いてしまっていた。
毎年少しずつ大株に育てていく宿根草に対し、花期の長い一年草はその分命が短く、育てるというより見て楽しむイメージで花自体も小ぶりなものが多く、花全体を覆う儚く淡い女性的な印象がより強く僕には映り、男の自分はなかなか手を出すことができなかったのだ。

「パンジーとかビオラなんてゼッテェ育てねえし」
「俺は宿根草派だし」

と無知や偏見からくるくだらない意地を張っていた。

ところがある時とある理由からパンジーとビオラをあっさり育てることになってしまった。育ててみると意外や意外、全然楽しめるではないか。むしろすごく楽しい、大満足。

手入れ次第で花付きが変わり、見て楽しむだけじゃないことにもすぐ気がついた。
種類、色、形、の多彩さにも驚かされた。
失敗しても後ろめたさもなく捨てられるし、毎シーズン模様替えができるので飽きることもない。未知の品種へのチャレンジもしやすい。
宿根草や球根の花期は一年の内の一割り程度なのに比べ、パンジー、ペチュニア、マリーゴールドなど、季節を代表する一年草はだいたいシーズン中ずっと花をつけている。
うまく模様替えすれば一年中ずっと花を楽しむことができるのだ。

やらない手はない。

この思いに達してからは毎シーズン何かしらの一年草を育てている。
春夏はペチュニア、マリーゴールド、ニチニチソウ、サルビア等。
秋冬はパンジー、ビオラ、シクラメン等。
それをベースにしつつその都度気になったものをちょくちょく育てている。

今年は何を育てようか?どんな配色にしようか?
シーズンの変わり目のこの時期のワクワクはたまらない。
儚く淡く女性的と言って避けていたことがいかに馬鹿だったのか、一年草に魅了された今、はっきりと分かるのである。


少し話が変わるが、数年前、人手が足りなかったようで、取引先の会社の人から横浜の港で開催されるドラゴンボートの大会に出ないかと誘われたことがあった。
ドラゴンボートとは20人ほどで漕ぐ細長いボートで、何チームかでスピードを競う競技だ。
ウチの会社は人数も少ない上、ほとんど女性なので力仕事が望める男の僕は当然駆り出された。が、なぜだか最終的にメンバー選考から外れてしまったのだ。メンバーには女性もいるというのに。
大会後の飲み会でその理由はわかった。
チームのリーダー曰く、ドラゴンボートには闘争心が必要だ。花を育てる奴に闘争心があるはずがない、ということらしかった。

ドラゴンボートに乗れなかったことは全然かまわないが、以前の自分と同類の偏見を持った人は見過ごせない。
もちろん先方も笑い話として喋っていたし、僕が外れたのは別の理由かもしれないが、花に対する凝り固まったイメージは確かに存在するのだろう。

花を育てるというのは側から見たら確かに女っぽいことかもしれない。
ただ、綺麗な花を楽しむための日々の努力はなかなかに過酷だ。
夏は汗をかきかき蚊に刺されつつ、冬は悴む指を酷使して花殻を摘まなければならない。花殻を摘むにも色々な体勢を要求される。腰を痛めることもある。膝を痛めることもある。名も知らぬ蝶は手で払い、イモムシは指ではじく。蜂が来たら逃げ、ナメクジなんかは見つけ次第つまんで遠くへ投げる。バッタが腕に留まることなんて気にしてたらキリがない。ウリハムシが大群で葉を食い散らかしてたら虫取り網で捕まえるだけ捕まえ、網の上から憎しみを込め思い切り足で叩き潰す。ダンゴムシなんかほぼ空気のような存在だ。雨や雪の時は鉢を安全な場所に避難させるのも一苦労だ。毎日重いジョウロを持ち上げなければならない。臭い肥料を月に一度くらい撒かなきゃいけない。時に吸ってはいけない危険な薬剤に頼ることもある。
これらが平気でできるようにならないと美しい花なんて拝むことはできない。

「花を育てる」と、言葉だけ見るとなんとも乙女チックで女っぽいのかもしれないが、やっている行為はワイルドそのものなのだ。

今後、花を育てることに偏見を持っていたり、勘違いしていそうなヤツが目の前に現れたら迷わずこう言ってやろう。
「いっぺんパンジー育ててみろ」と。

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