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台湾の募金精神はきっとここから

台湾留学中に、台湾の中学校で自分の経験をシェアする機会を頂いた。台湾の南部にある中学校で2日間、色んな学年のクラスで授業した。2023年の夏、最近のことである。

私は元々日本の中学校での教員の経験があり、台湾の中学校の違いを知るには絶好のチャンスだから、喜んで引き受けた。

この体験の結論から言おう。

giveの精神とそれを教える教育

これが日本では考えられないレベルで凄かった。

まず、最初のクラスで授業をした後、先生が生徒に対して何やらめちゃくちゃ怒ってる。

あとから理由を伺うと、こういうことだった。

『事前に明日は外部講師が授業をしにくるので、そのお礼として各個人で何かを渡しましょう、という話を事前にしておいた。なのに生徒たちは何にも持って来なかった。だから、私は厳しく指導した』

驚き過ぎて、
聞き間違えたかと思った。
聞き直したけど、マジだった。

先生はさらに続けて、

『私は金銭的な価値があるものじゃなくて良いと生徒たちには伝えていた。家にあるフルーツ1個でいい、家にあるもの何でもいい。ありがとうの手紙でいい。』

『そういうことを大事に思えなかった生徒たちにとてもがっかりして、もう一度みんなに考え直して欲しかった』

ちなみに私の本来の担当教科は体育であり、事前に決めたスケジュールでは午後は叱られていたあのクラスに私の体育の授業をする予定だった。

ところが、

『あなたには本当に申し訳ないのだけど、生徒には何にもギフトを用意してこなかったペナルティとして体育の授業をキャンセルしてもいいかな…。本当はお楽しみの時間にしたかったけど、ここはひとつ彼らの為に…』

とてつもない衝撃だった。

こういう外部講師から授業を受けた場合、
日本なら感想文を書いてまとめてお渡しして、
謝金は学校から支払われる感じで、
サラリと終わるのに…。

それがまさか、生徒が講師へのギフトを用意してこなかったことで、授業が飛んでしまうなんて…。

色んなことを考えた。

実は私は授業後、クラスの何人かの生徒から手紙や手作りのパイナップルケーキ等をすでに頂いていた。それは先生も知っているが、それでは足りないのである。

私としたら、それだけで本当に充分である。

さらにクラスでお叱りを受けた後、
この日の給食に出たパンを持って
職員室まで渡しに来た男子生徒がいた。

育ち盛りの男の子で、
パンを抜いたらお腹を空かせてしまうと思って
断ったが、それでも貰って欲しいと
懇願されて受け取ってしまった。

正直、これだけ頂いて本当にもう充分すぎるほど、涙が出るほど、気持ちがありがたいので、もうこれ以上必要ない。そして中学生から何かを頂く行為は、大人として強い抵抗があった。

この気持ちを先生に言おうかと思ったが、
なんだか言わない方がいいような、
先生の考え方に水を差さない方がいい気がした。

それは、先生が一番生徒に伝えたいことが、

少しでいいから分け与える

このgive精神を私を使ってこの機会に、
生徒たちに教えたいんじゃないかと思ったからだ。

台湾は日本のような部活動がないかわりに、
小学生から塾に通う子が多い学歴社会である。

だからこそ『学校における人格教育が大事』という教師のプライドと、台湾人のgive精神の真髄のようなものをこの先生から感じた。

この台湾人のgive精神については、東日本大震災の際、台湾から日本への多額の募金額のことが忘れられなくて、なんとなくずっと考えていた。

台湾が日本に行った募金額は253億円を記録した。東日本大震災における日本への支援金は台湾が2番目であり、特筆すべきなのは、台湾の募金のうち大半の200億円は個人からの寄付金であることだ。

台湾の平均年収は日本円で約300万円。小さな島国で人口も少ない。どれだけの多くの台湾人が日本に関心を寄せて、募金をしたのか。

この募金精神はどこから来るのだろうか。

そしてこの出来事で、ピンと来た。

もしかしたら、こういう風に学校で教育されているのかも知れない。

そうであるならば、ここでは先生方の教育方針を尊重して、遠慮なく生徒からお気持ちを頂くことにした。

早速、お叱りを受けたクラスの担任の先生から、

『生徒と話し合って、生徒たちから集めているクラス費の中から、ランチをご馳走させて欲しい』

と素敵なランチを頂いてしまった。

ゆっくりお昼を食べてから学校に戻ったら、先ほどのクラスの出来事が急速にシェアされたのか、

次のクラスからは、
生徒たちが思い思いの方法で、
ユニークで心のこもったあの手この手で、
究極のおもてなしラッシュが始まった。

この学校は公立中学ながら普通科や特進クラスの他、様々な専攻があり、音楽や絵、スポーツ専攻の生徒らは選抜試験で選ばれた特技を極める生徒たちである。

その一つの音楽専攻のクラスを授業した後、生徒たちから、

『マリオのゲームは好きですか?』

と聞かれて

『もちろん、大好きだよ』

と答えると、

みんなで目を合わせて
リーダーの子が合図をすると、

「タタッタ、タラッタ〜♪」

なんと、アカペラでスーパーマリオブラザーズを、
見事なボイスパーカッションと合わせてみんなでハモッて歌ってくれた。

その次のクラスは授業後に胴上げすることを提案してくれた。しかし、自身の過度な体重を考えると怪我をさせたら申し訳なさ過ぎるので、これに関してはさすがに丁重にお断りさせて、お気持ちだけ頂いた。

ひと通り授業が終わって放課後になった。
職員室に戻ると、自閉症を持つ生徒が職員室で私を待っていてくれた。プレゼントを渡したくて、放課後も残ってくれていた。

私に渡すまでずっと待っていてくれたことと、お母さんが持たせてくれた、丁寧に包装された手作りの巾着袋に目が潤んだ。

2日目は凄いことになった。

授業を終えると生徒たちが列を作って、
色んなものをプレゼントしてくれた。

家で栽培しているマンゴーやライチ、
屋台で買ってきたグァバ、
コーヒーやお茶、
お母さん愛用のフェイスパック、
台湾名物のお菓子、
絵葉書やお手紙、
手作りの石鹸、
自分で描いた日本のアニメの絵、
UFOキャッチャーで取った人形、
ボトルワインまで持ってきた子がいた。

最終的にすごいことになった
中には3カ国語でメッセージを書いてくれた子も

みんなニヤニヤしながら、自分のとっておきのプレゼントによる私の反応を楽しんでおり、クラスには終始笑いが絶えなかった。

職員室にいると、生徒がわらわらやって来る。昨日、最初に授業して怒られてしまったクラスの子だ。昨日の授業で私が日本の居酒屋文化を楽しそうに話していたのを覚えてくれて、お酒をプレゼントしてくれた。

今回特にお酒をもらうことに関して、
日本では当然だが、お酒を学校に持ってきてはいけないし、生徒から先生がお酒をもらっては、もっといけない。
びっくりしたし、ものすごい背徳感があったがありがたく受け取ることにした。

あるクラスではみんなで話し合って、クラス費を使って評判のお店のタピオカミルクティーとスイーツ買って用意してくれた。


ある生徒は、お寺で伝統舞踊を小さい頃から習っており、それを私に披露したいと言ってきてくれた。



本格メイク付きで。

いや、本気すぎるでしょ


ある生徒たちは、私に台湾式クレープ(ダンピン)の作り方を教えたいから、放課後に家庭科室まで来て欲しいと言われた。


屋台で働いているお母さんも連れてきて。

本気すぎるでしょ(2回目)


日本の中2の思春期ど真ん中を相手にしてきた私にとっては信じられない光景だった。この世代に対する自分の価値観と自分の経験がまるごと覆されたような気持ちになった。


最後に全ての授業を終えて私が学校を去るとき、走って追いかけてきた生徒がいた。帰る私を見かけて、わざわざ遠くから走ってありがとうを伝えにきてくれた。その気持ちだけでとても嬉しかった。

でもその子はお礼だけじゃなく、何か渡せるものがないか、カバンの中を懸命に探していた。そして、とっさにカバンに付けていた鬼滅の刃のキーホルダーを引きちぎって渡してくれた。


カバンに付けておくほど、お気に入りのキーホルダー。自分の大切なものを躊躇なく引きちぎって渡してくれた。

その行動に、最後に泣かされた。


台湾人とは、こういう人たちだ。

今回の能登地震でも台湾から短期間で信じられない額の寄付金が集まった。それも個人から。


このgive精神を育てる台湾の教育の現場での鮮烈な体験したことをシェアしたくて、書くことにした。

台湾のみなさん、いつも本当にありがとう。

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