あの寝苦しい夜
「もう夏が終わるね」
寝苦しい夜に君が唐突に呟く
「蝉って最近寿命延びたらしいよ」
常夜灯の灯りが残像となって僕の目に張り付く
「一週間ってのは昔の話だったの?それともデマ?」
僕は寝返りを打ちながら呟き返す。
「昔の話だよ、小学生の頃親が言ってた気がするなぁ」
「そうなんだ、人間と似てるね」
「人間も医療が発展して長生き出来るようになったもんね」
「この十数年で蝉は進化をしたってことになるのかな、何世代も経て」
「そういうことだろうね」
「…」
「…」
布団一枚、男女2人背中合わせのワンルームに訪れる静寂に、時計の秒針だけが水を差していた。
「蝉って…自殺するのかな」
秒針のワンマンに水を差したのは僕だ
「蝉に意思はないんじゃない?」
「人間以外は意思がなく生きてるって言うけどさ、」
「それじゃ自殺を考えない人たちは人間じゃないってこと?」
「なにそれ、難しい…」
少しの沈黙に扇風機のモーター音が顔を出してくる
「だって…“意思があるから自殺する”と“意思があるから人間”から導き出されるのは“人間は自殺する”ってことでしょ?じゃあ自殺しないのは人間じゃないんじゃない?」
「…」
扇風機をバッキングにメロディ役の秒針はご機嫌だ
「まぁ…これは飛躍が過ぎるというか、命題がそもそも間違ってるんだけどね、ふふっごめんね」
「あなたは死にたいと思ってるの?」
「少なくとも人間らしくありたいとは思ってるよ」
「どういうこと?」
「…君が人間らしくなったらまた話そう」
「うーん…わかった……」
「ごめんね、眠れなくなったよね、散歩でもする?」
「うん…いこ?」
扇風機が止まった部屋で時計はただひたすらに同じ景色を廻っていた
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