11月の詩(うるさい)
11月の悲しいが、三百幾日かぶりに声をかけてきた。
僕は見渡して、11月の嬉しいはどこに行ったんだと聞いた。
お前らは大体一緒だろうと。そして大概俺はお前には興味ないんだと言った。
悲しい顔をした11月の悲しいはあれから声をかけてこなくなった。
お陰で僕は月と日をただ歩いていくオートマタに成り果てたのだ。
行き道のふちに、なんちゃらとかいう詩人の言葉が石に掘ってあったから、僕はわざわざ木の枝を折って、土を被せて隠してやった。
詩人なんてものは大概呆けだ。自分の気持ちが人に伝わると信じて、自分がどこかの歯車になって何かを動かせると慢心してる。自分には才能も技能もなく、努力すらできないからと創作に逃げ、音楽から逃げ、絵画から逃げ、小説から逃げ、詩を書いて、それでも誰の目にも留まらず、諦めて、実家に帰り不貞寝して、誰とも合わない日々に居心地を感じ、祖父の葬式から逃げて日本の端まで辿った所、旧友からの連絡に声が震え、そこでの縁に都合よく乗っかり、リハビリを施されるかのように日々少しづつ勤しみ、やがて創作の心を忘れてしまって、過去の自分と今、鳩尾の奥で疼く葛藤に苛まれ、遂に筆をとるも何を伝えたいのかも分からない散雑な言葉たちに呆れ果て、そして作品の中にいる自分を殺める。俺がよく知る詩人はこんなもんだ。こんな程度だ。
そう夕日に吐き出し終えて、それが眩しくて目を瞑ったとき、11月の悲しいが涙を携えて僕の肩を叩いた。
あぁ、お前と一緒だと悔しいけど落ち着くな。本当は俺は嬉しいといたいんだけど、報われないな。
11月の悲しいを認めてやって、抱きしめると11月の悲しいは嬉しい顔をして、11月の嬉しいがそこにいた。ようやく受容できた悲しいがいなくなってまた居場所がなくなった俺は、悲しい顔をして、11月の嬉しいと歩こうと思った。
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