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スタートアップが大企業と上手に事業提携するためのコツ

本業はスタートアップ経営なのに、スクワットについての書籍を出版したためにラジオやテレビ出演の依頼がきています。また、先日サウナについての投稿をFacebookにしたらそちらも非常に反響があり、本業がなんなのか皆さんが勘違いしてる気がしてきました。ちゃんと本業の方にフルコミットしてることをnoteでも示さないと。。

スタートアップにおける事業提携

さて本題ですが、今回はスタートアップにおける事業提携をテーマに書いてみようと思います。事業にある程度尖りが出てきたり、ちょっと目立ったりすると大企業から声がかかって事業提携について提案があるのはスタートアップの事業者であれば経験はあるのではないでしょうか?

誰もが知っているような大企業からのオファーに舞い上がり、皮算用の事業計画はバラ色です。最初の打ち合わせではこれまで自分たちでは考えてもいなかったような規模のどでかい話になるものの、「いざはじめてみるとまったく旨味がない提携になってしまった」ということはよくある話かもしれません。今回はこのような事案を避けつつ、どう進めたらいいかということをスタートアップ側の視点から解説してみたいと思います。こちら是非大企業側からの視点でもご意見、ご感想いただけると嬉しいです。

事業提携をうまくいかせるためのコツ

まず、なぜ大企業が事業提携を持ちかけてくるのかについて正しく理解する必要があります。また、大企業がどういう理屈で物事を推進しているのか、意思決定機構はどうなっているのか、社員が何を考えているのかなどなど組織が大きいということはどこを突くかで反応が全く違います。本質を突けばいいというのはある意味正しく、ある意味で間違っています。このあたりは好きか嫌いかという主義主張の部分がけっこうありますが、事実は事実です。

また、重要な点としてスピード感の違いがあります。スタートアップの場合、大企業との提携は重要案件なので社長や役員クラスがべったりの案件でも、先方は現場の担当者が打ち合わせには出てくるでしょう。スタートアップ側は最終意思決定者が打ち合わせに臨んでいるのでその場での意思決定が可能、一方で先方は「お前とりあえず担当してみるか」という下っ端の可能性は大いにあります。当然ですが彼 / 彼女に意思決定権はありません。「あいつ何も決められない」となり、スタートアップ側がイラ立って破談になることもあるのではないでしょうか。

このような場合でも意思決定まで持っていく方法や提案のタイミングを見極めるテクニックは色々あります。私もあまり上手い方ではないですが、これまでいくつか失敗をする中で学んだことも多いので書いてみようと思います。なお、機密のことも多々あるのでやや抽象的な内容になってしまうかも知れませんがご容赦ください。

私が過去うまくいった提携の事例

私が過去行った提携で最もうまくいったのはGunosyでKDDIとの提携でつくったニュースパスです。ニュースパスは全社一丸となってつくったプロダクト、提携なので特に思い入れがありますし、提携の難しさやうまくいったときのインパクトを身を持って知りました。

圧倒的なユーザー基盤を持ちながらアプリプロダクトとしてなかなかユーザーに使ってもらえるものが作り出せていなかったKDDIとプロダクトづくりに自信のあったGunosyとでニュースパスは作り上げました。

むちゃくちゃなスケジュールでしたが、いまはLayerXにいる松本くんmosaが死ぬんじゃないかという猛烈な勢いでプロダクトを作り上げ、私が社内外にキレ散らかしながら契約やその他座組をまとめ、実際の運用は河野さんがハゲるんじゃないかというくらい悩みながらも爆速で進めたのがニュースパスです。

ニュースパスは初速から爆発的に成長し、同じニュースアプリを出してカニバリズムを起こす(ユーザーが重複して食い合ってしまう)のではないかという懸念も払拭し、再成長の足がかりとなりました。

思い起こすと色々大変でしたが、ちゃんと結果がでて本当によかったし、あのとき苦労を分かち合ったみんなとは今でもけっこう仲良しです。

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2017年5月期 第1四半期決算説明資料より抜粋

ノインでうまくいった提携について

この経験があったからというわけでもないですが、ノインでもうまくまとめて成長の足がかりとなった提携はいくつかあります。本noteでもご紹介済ですが、大丸松坂屋百貨店やファミリーマートとの提携はかなりうまくいった事例ではないかと思います。

両方の提携について、日経MJさんに記事にもしていただきました。

大丸松坂屋百貨店との提携についても触れています

ファミリーマートとの提携はこちら

うまくいった事例だけ挙げていても仕方ないので私なりに意識しているうまくいくコツについて以下で触れてみようと思います。

コツ①誘惑を断ち切る

メディア露出が増えたり、大企業から調達を決める過程などで色々と提携のご相談を頂きました。2年前くらいにけっこうあったのが「リアルへの出店」のお誘いです。結局やらなかったのですが、やっていたらうまくいっていたかもしれませんが、後悔はしていません。

今でもリアルの出店については魅力的な選択肢の一つですが、リアル進出は進出も撤退にも大変なコストが掛かります。これは金銭的にも人材リソース的にもです。スタートアップで重要なのは選択と集中であり、たとえ魅力的なオファーであっても主力リソースをフルで突っ込み、かつ現状の主力事業との関連が薄い場合は取り組むべきではないと判断すべきです。

実際店舗を探したり、かなり具体的な提案を受けたりと話は進みましたが、まずは主力事業に集中すべしということですべてお断りしました。たとえ魅力的でも本当に必要なのかは見極めないと、途中で「違った!!」となった場合主力メンバーを引き剥がすこととなり、先方からの信頼も失ってしまいます。

「ちゃんと断る」こともうまくいく提携を見つけるためのコツとも言えます。

コツ②現場のキーパーソンを見つける

提携において最も重要なのは相手を動かすことです。まず一番接する相手を味方につけないと話になりません。相手に常駐してもらう、こちらが先方に常駐するなど専任担当をつくり、本気の姿勢を示すことも成功の第一歩です。

ときにはケンカをするくらい腹を割って話せる相手を現場で見つけ、味方につけられるかどうかは提携を進めていく上で非常に重要です。コロナ禍のいまだと難しいですが、頻繁に先方に出向いたり、来てもらったりという物理的な接触回数をある種のKPIとしてもいいくらいです。

大丸松坂屋百貨店との提携においても先方社員の方が週3,4で当社のオフィスで仕事をされていましたし、GunosyでのKDDIとの提携においても気づけばKDDIの方がほぼ毎日オフィスにいました。現在ノインでは伊藤忠の社員の方に出向していただき、当社の社員として様々提携を進めています。

実際の業務を進めるのは現場の人間なのでここで敵をつくってしまうとおしまいです。

コツ③組織のキーパーソンを見つける

かなりハードルは高いですが、組織の長に気に入られて「Go」といわれるか「NO」と言われるかで結果はガラッと変わります。いくら現場が頑張ってもここを落とせないと提携は大きくなりにくいです。

組織図を把握しておくことは重要ですし、仲のいい人、悪い人なんかはちゃんと握っておく必要があります。役員会議で重要な意思決定がされる場合には本来は全く関係のない役員の方にうまく根回しをするなんていうのが有効に働いたりもします。報告してもそっけなく

「そんなことわざわざおれに報告しなくてもいいよ」

と口では言われるかもしれません。しかし、内心気に入ってもらえて、役員会議で強く推薦してくれる可能性だってあります。媚を売れということではなく、うまくキーパーソンを掴む必要があるということです。

キーパーソンの見つけ方はまず②でお話した、現場のキーパーソンから探るのが基本です。

コツ④組織のロジック、ストーリーを探す

ここが一番重要な点かも知れませんが、「提携が何のために行われるものなのか」これを大企業側の視点でしっかり語れるものにロジック、ストーリーを組み上げる必要があります。

スタートアップ側にとって提携は

「うまくいったら事業が超成長する」

でしかないので説明の必要すらないことがほとんどです。しかし当たり前ですが、「我々が超成長するんです」は相手の大企業が動く理由にはなりません。提携による相手のメリットをきちんと伝わるストーリーに落とし込む必要があります。特にこれは大きな文脈に乗れると相手が動いてくれる可能性が高いです。

例えば大丸松坂屋百貨店との提携においてはコロナウィルスの蔓延によって店舗を閉めている = 他の売上増施策としてのECの重要性という文脈に乗せてストーリーを構築しましたし、ファミリーマートとの提携においてはコンビニが食品で集客を図っている = 女性若年層の取り込みにおいて日用品棚のスペースが有効活用できていないというストーリーがハマりました。

相手が困っている本質的な部分が提携によって解消できるというのが最も効果的です。誰に話すのかによってもストーリーを微妙に変える必要はありますが、文脈はとても重要です。

コツ⑤誠実さ

できないことをできると言ったり、OKをもらうためにスケジュールを捻じ曲げたり、契約でうまいことやろうとしたりという不誠実な行為はその場ではいいかも知れませんが、絶対に先につながりません。ついついやりたくなる気持ちは分かりますが、ビジネスパートナーとは誠実に付き合うのが基本です。

誠実にやっておけば明らかなミスで失敗してしまっても先方が助けてくれることも意外とあります。かく言う私も何度も助けてもらいました。もし途中で嘘をついてごまかしたりしていたら助けてもらえなかったと思います。

仕事の評判はずっとついてきます。一生信用されないようなことをやらかしている人も見てきましたがやはりどこにいってもその噂は消えません。その場限りの嘘はやめておいたほうが賢明です。

やっぱり採用強化中

ここまで読んでもらったら分かると思いますが、やっぱり採用強化中です。今もここでお話した以外の提携も色々と進めていますし、まだnoteでは話せないようなプロジェクトも進行中です。人数も少ない今なら手をあげればやりたいことにアサインされるのも今のフェーズならではと言えるかも知れません。プロダクト開発、営業など色々な職種で募集していますので是非話だけでも聞きに来てください。


サポートいただいた場合とくに収入とするよりは書籍購入やセミナー参加等してその内容をまとめるなどの方法で還元予定です。