マガジンのカバー画像

小説

4
運営しているクリエイター

#日記

「初めまして」

「初めまして」

 あなたが初めましてと言ったとき、私は意識が散漫になっていて、とりとめもないことをあれこれと考えていた。散漫になっていたと言っても、それは散らかった部屋みたいに無作為なものではなくて、もっと均等に、まんべんなく分かれたものだった。少なくとも私はそう思っていたけど、あなたの目に私がどう映っていたかは知らない。よく夢うつつの狭間で誰かに名前を呼ばれた気がして、きっと私はもう夢の中にいるのだなと思っても

もっとみる
「ハッピーライフ」

「ハッピーライフ」

 部屋のブレーカーが落ちたとき、君は手にドライヤーを握りしめていた。薄闇のフローリングには月明かりがレースカーテンを通して水面のような模様を映している。それは君の足元にも不規則な影を落とす。君はそのままの姿勢で硬直して、影の形を目で追いながらふと、まるで忘れていた遠い記憶を思い出したみたいにふと、自分は何のために生きているのだろうかと考えた。
 それはある程度年を重ねてから人並みに考えてきたことの

もっとみる