割れたマグカップ
ガシャーン!
やってしまった。ハウスの備品のマグカップを割ってしまった。
これはパリ滞在にもすっかり慣れた頃の出来事だ。
借り物だから丁寧に扱っているつもりだったのに
ふとした瞬間に手から滑り落ちるマグカップ。飛び散る破片。
中身が入っていなかったのでカーペットを汚さなかったことだけが救いだ。
人のものを壊してしまったショックも大いにあったのだが、
同時に冷静に対処を考える自分がいた。
まずは綺麗に治る可能性を信じて接着剤を買い、かけらを集めて直してみた。
それから同じものが手に入らないか、お店に行ったが残念ながら同じものはなかった。
その代わりお詫びの品として新しいマグカップを二つ買った。
割ってしまったマグカップは同じものが二つあったので、
きっと同じものが二つある方が良いと思ったから。
案の定、接着は結局うまくいかず、不恰好なコップを見つめながら
どう伝えようかと考えていたときにコップが語りかけてきた(ような気がした)。
“一度壊れてしまったものを完璧に元に戻すことは難しい、
しかし、新しい形で、新しい関係を始めることはできる。
起こったことに何を見出すかは自分の心次第である。”
そうか、完全に元に戻すことはできないけれど、新しい関係を築くことができるんだ。
と気づいたことで、なんだか勝手なことだけど、赦されたような気持ちになり、
正直にことの次第を報告すればいいと思えた。
ちょうどオーナーさんが仕事から帰宅したので
新しい二つのマグカップと割ってしまったマグカップを持って
素直に謝り、自分の気づきを伝えた。
オーナーさんにとっては特段思い入れのあるコップではなかったらしく
笑って許してくれた。
安堵の気持ちと共にとても大切な気づきを得た出来事だった。
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