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出産とは排便である。


4月8日23時、話に聞いていた陣痛っぽいものを体験。

ほーこれが前駆陣痛か。
これが5分ごとになったら病院に連絡。
大変ですね。
まあ予定日まであと2週間弱あるし、すぐ鎮まるやろ。

そう思っていたその日の夜中3時、
いきなり痛みが7分間隔くらいで発生するようになった。

しかし私は自分の楽観的観測を最も重んじるので、

こんなに早くその時が来るはずない。
これは食あたり、若しくはストレス性の腹痛だ。

と思うことにした。
実際この前日は精神的負担のデカい日だったから。

ところが3時間後、早朝6時
痛みの感覚が5分ほど、歩行困難レベルに達した。
うーんこれはさすがに陣痛かもしれん。

ちょうど定期健診の日でもあったので、少し急いで朝イチで病院に行った。
定期健診の日じゃなかったら昼過ぎまで理由をつけてウダウダしてたと思う。
定期健診の日で良かった。
ありがとう定期健診の日。


病院に到着、いつも通り内診、
先生がおやコレはといい、体内をありえん強さでグリグリする。
医療現場で叫ぶのは私の美徳じゃないので、
おお~!とデカい声を出して威嚇する。

うーん、入院ですね。今日産まれます。

と、いつも通りの冷静な口調で言われる。

あまりにも表情声色がフラットすぎて、
意味が頭に入ってこず、30秒後くらいに
今日から、今から、即、入院なんですか?
と聞き返した。

この後グランドバーガー行こうと思ってたのに!

「今日」「出産する」!?

夫に連絡。
入院セットの運搬、向こう2日の仕事をすべて白紙にして貰った。
ありがとう。
(仕事を被ってくれた会社メンバーには頭が上がりません。)

希望していた個室に案内されて5分も経たず、昼食の時間が来た。

マジうま魚

マジで即入院ってあるんやな。

とりあえず、食べよ~。

モグモグ

腹痛すぎやろ。

腹痛すぎやろ。

腹痛すぎやろ。

あれ、痛い場所が下がってきた。

尻だ。尻穴らへんが痛い。

尻痛すぎやろ。

尻痛すぎやろ。

尻痛すぎやろ。

いやこれもしかして、便意か?

この
「陣痛と便意の類似性」の気付き。
コレとの出会いが、分娩時間開始の合図やと思う。
(正確には陣痛が10分感覚になった時刻より)
(私の場合は計21時間)

そこからは只管、

「存在しない異物を永遠に尻から放出しようと試みる作業」

を行うことになる。

その異物はありえないくらいデカいのだ。

質量の話ではない。

「移動」の枠組みから切り離された、
摩擦係数を持たない透明な排泄物。

これを早く体外に出したい!

そんな意思しか持てなくなる20時間。

暖簾に腕を押し続けて20時間。
糠に釘を打ち続けて20時間。

自分の全部が痛覚由来になるから、ことばを作るアタマの工場がエラーを起こす。

ついでに感情もことばに依るので、それもエラーを起こす。

20時間、存在しないスパイスカレー屋の事と、存在しそうな飲んだくれ大学院生のことを考えて折り合いをつけるしか、正気を保つ方法が無くなった。

そのスパイスカレー屋はグルメ系インフルエンサーを毛嫌いし、
白いTシャツで来店しないと写真撮影は不可とのルールを設ける。

しかしインターネットで目立ちたがる奴というのはドレスコードが好きだ。

喜んで治外法権に従い、白いTシャツで来店。
器用に完食し、白いTシャツを白いTシャツとしたまま退店する。
勿論、食前に映える写真を撮っているし、
5分後にはインスタに投稿。
その店の客層はグルメ系インフルエンサーに偏っていく。

ああ、この店がスパイスカレー屋ではなくカレーうどん屋だったら!

そう思わずにはいられない。


店主の苦悩を肩代わりすることで3時間稼げた。



暖簾に腕を押し続ける20時間のうち、3時間。

陣痛はますますデカくなる。

私は、度が過ぎた痛みは好きじゃない。
好きじゃない事に20時間対峙するのは嫌だ。
せめてどうしようもない「対峙理由」が欲しい。

どうしようもない対峙理由によく挙げられるのは
「自業自得」概念である。

あんな事したんやから、こんな仕打ちはしゃあないね。
そう思わされたい。

「妊娠したんやから陣痛を経験するのはしゃあないね」
そんなタダの事実再確認ではいけない。程度が低い。

そこにある全ての事象が不条理100%じゃないと、
糠に釘工場では勝てないのだ。

だから、ここに愚かな飲んだくれ大学院生を2人用意する。

愚かAは酒に強く、愚かBは酒に弱い。
しかし二人の酒に対する愛情量は、良い勝負をしている。

いつも通り二人はAの家で宅飲み。

いつも通りBはAより先に酩酊状態となる。

Aはこの日上機嫌だったのか、Bにもっと酒を煽る。

Bも楽しくなり、追い酩酊。

しかしAは気付いた。

あれ俺たちが飲んでたやつ、
よく見たら

ヤクルト1000じゃないか?

ヤバいヤバいこのままじゃ、

異常にお通じが良くなってしまう!!!!!

気付いた時には手遅れ。

Bはトイレに籠ることになる。

まさに自業自得である。

自業自得だから、Bが腹を下すことになるのは仕方がない。

Bは嫌でも納得するだろう。

私はこのBの納得する部分のみを掠め取りたいのだ。

人の納得を、横取りしたい!

という事で、酷い陣痛の波がくるたび、

俺もうここで排便するからな!とA宅のリビングで宣言するB、
お前ふざけるなよ!と言いながらも酒(ヤクルト1000)を煽り続けた負い目から追い出せずにいるA

を頭に置いた。

結論から言って、彼らの陣痛処理能力はピカイチだった。

糠釘工場の21時間は彼らのおかげで乗り越えられたと言っていい。

事実を指摘する以上の罵倒がもはや存在しない、そんな愚かさ100%のキャラクター。
大切にしような。

しかしここまで解説してきた便利ライフハックは、
精神の内側にしか作用しない。

いくら思考をこねくり回そうが、痛覚は鈍らないのだ。

1から10まで出産に向き合った夫の手

思考をこねくり回して時計の針を無理に進めることは出来ても、
その針が進んだ過程はスキップ出来ない。
「ドラえもん短編第45巻第8話」にも学んだことですよね。

まあ、だからこそ、今私の隣には新生児がいるという事です。

なので、まあ良いんじゃないかと思います。

可愛すぎワロタ

以下、もっと詳しく出産を知りたい人向け。

糠に釘工場を稼働させている間、助産師さんが何度か様子を見に来てくれます。

いや、様子を見に来るというか、股に拳を挿れに来てくれます。

助産師さんはすごいぞ。

冷静な顔をして拳を膣に潜らせ、
「あっ今子宮口〇cmですね~」

とか教えてくれます。
どんな技術やねん。すごすぎるやろ。

しかしこれが超痛い。
ただでさえ糠釘工場の稼働はどえらい痛みを伴っているのに、
追い打ちをかけるかのような拳の侵入。

※6/29追記
今思えば、痛かったのは拳がデカいからではなくて、「陣痛に耐えるポーズ」を中断して仰向けにならなきゃいけなかったから、痛みが増して感じるだけだったような気もします。

絶えず息を深く吐き、酩酊大学生にヤクルト1000を補充する。

担当助産師さんがしみじみ呟いた
「大美さんは本当に強い人ですね。」
という慰めが忘れられない。

そうだぞ私は強いんだぞと確かな事実を再確認しながら、
糠釘工場から分娩室へ移動した。
(ここまではすべて入院個室での出来事)


この日は新月の前日。

どうしてか、満月と新月の日は分娩件数が跳ね上がるらしい。
つまり、お産は特定の期間に集中する。

私の出産日はドえらい混雑だったそう。

床数は18、
分娩室数(LDR含む)は2。

これらの部屋すべてが埋まった日と言うと、ヤバさが伝わるだろうか。

中でも私が分娩室に移った時間はすごかった。
3人同時に「もう生まれる~!」になったらしい。

分娩室は2つなのでどうなることかと思ったが、
今回で3人目だというベテラン産婦さんが私に譲ってくれたので事なきを得た。

後で聞くと、彼女は私の絶叫を聞きながら、瞑想をして耐えてくれていたらしい。
あなたはもう瞑想しなくても仏陀級に達したお人ですよ。とお礼を言っておいた。

てな混雑具合だったので、分娩室でさあ排出するぞという時にも
助産師さん達が分娩室から出払う瞬間が多々あった。

夫がいなかったら狂ってたと思う、普通に。

なんやかんやあって無事出産完了し、赤子と対面。

顔面がほやほやで、本物の赤ちゃんで、腹の中では出せなかった泣き声を出してて、作り話みたいだった。
さっきまで体内に宿していたものがコレだと言われても、像と像が結びつかない。

切開した股を縫い合わせられながら、記念撮影をした。

傷を縫い合わせるなんて今考えたら超痛いはずなのに、
全然気にならなかった。アドレナリンってすごい。

車椅子に乗せられて、夫と一緒に病室に戻った。

部屋には食べ損ねた夕食があったので、食らった。
人生で一番うまい食事。

落ち着いた頃には夜中2時を回っていたけど全く眠れず、夫の「お前コレどう落とし前つけるねん!」というどうかしてる寝言を聞きながらぼーっとしていた。
部屋に赤ちゃんはいないので、さっき出産をした現実味はまったくなかった。
痛みの詳細は既に忘れ、早くあの物体に会いたいなーと考えるだけの時間だった。

ところで妊娠中•出産自体よりも、産後が一番キツかったかもしれない。

股を切開した傷跡は当然痛いし、
頭蓋骨を通すために開いた骨盤、尾てい骨も痛いし、
てかずっと出血してるし。
産後2ヶ月以上経ってもまだ本調子じゃない。

笑えるくらいデカいナプキンで出血量を察してほしい。


もう、仕事も試験勉強もせずに田舎で子育てしたい。
働かせるなよ、一生物の仕事をしたばかりの私を!

まあ、子の為もとい自分の為に、がんばります。

以上。



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