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【訪問看護×データ】訪問看護は在宅看取りを可能にするのか

 高齢化社会の進展に伴い、終末期ケアの在り方が大きな課題となっています。
 日本財団の調査によれば、67歳以上の高齢者の58.8%が人生の最期を自宅で過ごしたいと望んでおり、33.9%が医療施設を選択しています。子ども世代に対して「親が最期を過ごす場所」について尋ねたところ、58.1%が自宅と回答しました(1)。しかし、実際には65歳以上の在宅死は17.4%に過ぎず、最も多いのは病院での死亡であり、その割合は64.5%に達しています(2)(図1)。


図1:療養場所の希望と実際の死亡場所



 患者が自宅で最期を迎える「在宅看取り」は、患者自身の希望を尊重するだけでなく、医療費の削減や病院の負担軽減といった点でも重要です。
この記事では、日本および海外の研究をもとに、訪問看護が在宅看取りにどのように貢献しているのかを考えてみます。

訪問看護と在宅看取りに関する日本の研究

 まずは、日本における訪問看護と在宅看取りに関する研究を見ていきたいと思います。

Nakanishi et al., 2017
「Factors associated with end‐of‐life by home‐visit nursing‐care providers in Japan」
方法: 本研究は、日本における訪問看護サービスの提供要因を調査するための後ろ向きコホート研究です。データは2007年、2010年、2013年における訪問看護サービスを受ける高齢患者を対象に収集されました。
結果: 138,008人のうち2,280人が終末期に訪問看護を受けていました。特に看護スタッフの多い訪問看護ステーションの存在や病床数の少ない地域の患者が在宅での終末期ケアを受けている傾向がありました。訪問看護サービスの提供が、非がん患者に対する在宅終末期ケアを促進することが示されました(3)。

Ikeda T et al., 2021
「Place of Death and Density of Homecare Resources: A Nationwide Study in Japan」
方法: 本研究は、2014年と2017年の厚労省の公開データを用いて、在宅看取りの割合と訪問医療サービスの充実度の関連を調査しました。訪問診療を行う診療所と訪問看護ステーションの充実度を評価し、在宅死との関連を分析しました。
結果: 訪問診療と訪問看護ステーションの充実が在宅死と正の関連があることが示されました(訪問診療:回帰係数2.14 (1.12-3.15), 訪問看護:回帰係数2.19 (0.99~3.39))。訪問診療や訪問看護サービスが充実している地域ほど,在宅死の割合が高い傾向が示唆されました(4)。


厚生労働省医政局指導課からの報告も見てみましょう。

厚生労働省(年度不明)
「在宅医療の最近の動向」
方法: 都道府県別の高齢者人口千人あたりの訪問看護利用者数と総死亡数に対する自宅死亡の割合を調査しました。
結果: 訪問看護利用者数と自宅死亡の割合には正の相関があり(r = 0.64)、訪問看護の充実が在宅看取りを促進する要因であることが示されました(5)。

訪問看護と在宅看取りに関する海外の研究

海外における同様の研究動向も見てみましょう。

Shepperd et al., 2011
「Hospital at home: home-based end of life care」
方法: 終末期ケアを受ける成人患者(18歳以上)を対象に、在宅終末期ケアの効果を評価しました。データはCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、Ovid MEDLINE、EMBASE、CINAHL、およびEconLitから収集されました。
結果: 4文献がレビュー対象となりました。在宅終末期ケアを受けた患者は、通常のケアを受けた患者と比較して自宅で死亡する確率が有意に高いことが示されました(リスク比 1.33 (1.14-1.55))。また、患者満足度の向上が観察されましたが、介護者への影響については不確定でした(6)。

Seow et al., 2016
「Does Increasing Home Care Nursing Reduce Emergency Department Visits at the End of Life? A Population-Based Cohort Study of Cancer Decedents」
方法: 後ろ向きコホート研究として、2004年から2009年のオンタリオ州の行政データベースを使用しました。週ごとの訪問看護サービス利用と救急外来受診との関連を調査しました。
結果: 訪問看護を受けた週は、翌週の救急外来受診率が31%減少し(リスク比 0.69 (0.68-0.71))、特に週に5時間以上の看護を受けた場合、1時間/週と比較して救急外来受診率がさらに減少し、在宅看取りの増加が観察されました(7)。

Scott et al., 2023
「Nurse practitioner and physician end-of-life home visits and end-of-life outcomes」
方法: 本研究は後ろ向きコホート研究として、2018年1月1日から2019年12月31日までに死亡した成人自宅ケア利用者のリンクデータを使用しました。訪問看護(ナースプラクティショナー)と医師の訪問が患者の医療アウトカムに与える影響を調査しました。
結果: 職種に関わらず訪問を受けた患者は、入院率や救急外来受診率が減少し、在宅での看取りが増加することが示されました。訪問看護のみでも、在宅看取りが増加しました(オッズ比2.98 (2.75-3.24))。訪問が複数回行われた場合、さらに良好な結果が得られました(8)。

まとめ

 訪問看護は在宅看取りを促進する重要な役割を果たしており、日本および海外の研究からその効果が示されています。
 しかし、因果関係の明確化や介護者への影響の評価、地域ごとのサービス質のばらつきに関するさらなる調査が必要です。また、具体的にどのような看護が効果的なのかを考察することも求められるでしょう。

文献

1) 日本財団(2021). 「高齢者の生活と意識に関する調査」.
2) 厚生労働省. 「日本における高齢者の死因統計」.
3) Nakanishi, M., Niimura, J., & Nishida, A. (2017). Factors associated with end‐of‐life by home‐visit nursing‐care providers in Japan. Geriatrics & Gerontology International, 17(6), 991-998.
4) Ikeda, T., Tsuboya, T. (2021). Place of Death and Density of Homecare Resources: A Nationwide Study in Japan. Ann Geriatr Med Res, 25(1), 25-32.
5) 厚生労働省医政局指導課. 「在宅医療の最近の動向」.
6) Shepperd, S., Wee, B., & Straus, S. (2011). Hospital at home: home-based end of life care. The Cochrane database of systematic reviews, 7, CD009231.
7) Seow, H., Barbera, L., Pataky, R., Lawson, B., O'Leary, E., Fassbender, K., McGrail, K., Burge, F., Brouwers, M., & Sutradhar, R. (2016). Does Increasing Home Care Nursing Reduce Emergency Department Visits at the End of Life? A Population-Based Cohort Study of Cancer Decedents. Journal of Pain and Symptom Management, 51(2), 204-212.
8)  Scott, M. M., Ramzy, A., Isenberg, S., Webber, C., Eddeen, A., Murmann, M., Mahdavi, R., Howard, M., Kendall, C. E., Klinger, C., Marshall, D., Sinnarajah, A., Ponka, D., Buchman, S., Bennett, C., Tanuseputro, P., Dahrouge, S., May, K., Heer, C., Cooper, D., Manuel, D. G., Thavorn, K., & Hsu, A. T. (2023). Nurse practitioner and physician end-of-life home visits and end-of-life outcomes. BMJ Supportive & Palliative Care.

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