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私の思考を変えた三冊の本

ちょっと大げさなタイトルになってしまいましたが笑、自己紹介代わりに書いてみようと思います。

好きな本を十冊とか、好きな作家を五人とか、いろいろ考えたのですが……どれも恥ずかしくて尻込みしてしまったので方針を変えました。

これは、好きな本ベストスリーではありません。自分の(主に読書と関連する)思考の転換点となった本たちです。どれも非常に面白い本ですが、オススメするというよりは個人的な体験談です。

キーワードは

・夢
・神と死
・数学

です。


■夏目漱石『夢十夜』|夢

『夢十夜』には、タイトル通り10の「夢」が描かれています。たったそれだけのシンプルな短編集ですが、私にとってはものすごい破壊力をもつ本です。

10の夢はどれも美しく、かつ面白く(滑稽で)、怖い。一言でいうと「魅力的」だなと読むたびに思います。夏目漱石のお手本のように上手い文章と、幻想的な夢の光景が絡まると、この世のものとは思えない(まぁ、この世のものではないんだけど)美しい時間が流れるのです。

この『夢十夜』を読むと、何度でも何度でも感動します。

また、昔から夢をよく見るタイプだった私は、『夢十夜』を読んで以来「夢」そのものに強く興味を抱くようになりました。私の見る夢も、この本に勝るとも劣らない(と思う)くらい独創的です。だいたい悪夢ですが。笑

こんなにも面白い夢を見れるのなら、夢をネタ帳に書き留めていけば、ものすごい本が書けるんじゃないか?それは私であって私でない、もう一人の私が生んだ作品になるのではないか?

……などと考えて、たくさん書き留めた時期がありました。

しかし、ほとんどが悪夢なのでめっちゃ暗いのと、「夢を記していると次第に現実との境がわからなくなり精神に異常をきたす」とどこかで読んで、今はやっていません。本当かな。

「夢」を追いかける気持ちは今もまだあります。

夢の中で私たちは、非常な速さで創作します。あまりの速さに自分たちが創作していることと自分たちの思考とを取り違えてしまうほどです。私たちは本を読む夢を見ますが、本当は本の一語一語を創作しているのです。けれど私たちはそれに気づかず、その本を他人のものだと思うのです。私は多くの夢の中に、その前もっての作業、つまり夢に出てくる物事を準備する作業があることに気づきました。
(ホルヘ・ルイス・ボルヘス『七つの夜』)


■遠藤周作『沈黙』|神と死

『夢十夜』が「魅力的」ならば、『沈黙』はとにかく「衝撃的」でした。

数年前に映画化されたので観た方も多いかもしれませんが(私も本を読んだ後で観ました)、個人的には原作のほうが好きです。

遠藤周作の文章は、夏目漱石とはちょっと違うんだけど、めちゃくちゃ上手いです。情景描写の上手さではなかなか右に出る人がいないんじゃないかな……と私は思っています。やや俗っぽいながらも、読者に映像を与える能力に秀でた人です。

しかし「衝撃」はそこだけではありません。実話をベースにしたこの小説が語るストーリーの耐えられないほどの悲惨さです。

キリスト教が禁止されていた江戸時代。日本を訪れた宣教師の一部始終が描かれています。(本当に面白く読みやすいのでぜひ読んでいただきたいのですが、)宣教師が過酷すぎる試練を経て「神」に対して抱く感情──怒りと、悲しみと、懐疑心と、信仰心の混ざり合った複雑な感情──が心を打ちました。

それからというもの、無宗教の私の内部に「神」に対する純粋な興味が湧き起こりました。それは同時に、『沈黙』が何度も描いた「死」への興味でもありました。

なぜ人は「神」に支えられるのか──。

なぜ、あなたは黙っている。(中略)なのに何故、こんな静かさを続ける。この真昼の静かさ。蝉の音、愚劣でむごたらしいこととまるで無関係のように、あなたはそっぽを向く。それが……耐えられない。
(遠藤周作『沈黙』)


■Simon Singh “The Code Book”|数学

最後は小説ではなく、ノンフィクション。邦題はサイモン・シン『暗号解読』(新潮社)です。

英語にしたのはカッコつけではなく笑、この本をはじめて読んだのが英語版だったからです。なぜペーパーバックを買ったか全然覚えてないのですが、推測するに、学生時代にアメリカに数週間滞在した際に買ったのだと思います。

どうしていきなり暗号の本を買おうと思ったのだろう。よくわからないけど、ビビッと「面白そう」と感じた……のかな。

私の育った家庭は、ほとんどにおいてゴリゴリの文系家庭でした。家でサイエンス系の話題をした記憶がありません。父は数学や論理学に興味のある(?)人でしたが、おそらく、当時なんとなく前に出てたのが母だったのかな。母は歴史や政治が大好きな人で、正直あまり趣味が合いません……。笑

というわけで、学問としての数学は大好きだった私ですが、この本を読むまであまり「科学」「数学」分野について本を読むという発想がなかったのです(今でこそNewtonを集めたりしていますが、そういう雑誌を家で見たことがなかった)。

“The Code Book”は英語でも無理なく読める難易度なので、興味のある方はぜひ挑戦していただきたいのですが、「読書×科学(数学)」が私にはとても新鮮で刺激的な体験でした。

すっかりハマって、続けて”Fermat’s Last Theorem”(『フェルマーの最終定理』)、”Big Bang”(『宇宙創成』)と英語版を読みました。というか当時はまだいずれも日本語に翻訳されていなかったのだと思います。……しかし”Big Bang”は途中で学業が忙しくなったのか難しかったのか飽きたのか、読了していません。汗

今、趣味で数学や物理学の本をよく読みます。これらは文学とはまた違う形で、私の脳に大いなる癒しと安らぎを与えてくれます。その感覚は猫の腹に顔をうずめてる時と近いです。変態かもしれない。笑

もし”The Code Book”との出会いがなかったら、この喜びがなかったかも。そう思うと、本当に読んでよかったと思う一冊です。

自然科学は数学を基礎として発展してきた。「自然という書物は数学の言葉で書かれている」とはガリレオの言葉である。
(加藤文元『数学の想像力─正しさの真相に何があるのか』)


以上、読書好きとしての自己紹介のつもりで、書いてみました。

本当に好きな本をずらっと並べる日は、来ないかもしれません。本性を晒すようでなんだか恥ずかしいという気持ちもあるし、どこかで「もっと好きになる本に出逢えるかも」と考え、ためらってしまうのです。

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