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壮大な伏線の回収

■エラリー・クイーン『レーン最後の事件』

※心配される方が多いと思うので先に書きますが、ネタバレはありません。


ドルリー・レーンを探偵役に据えた「四部作」(『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』)を読み終えた。

この四部作には、全体を通して何やら仕掛けがあるらしい──と以前から聞いていた。

だから「絶対に、順番に読まねばならない」とも。

そのような事情(ハードル?)のせいだろうか、本作『レーン最後の事件』の知名度は他と比べてかなり低いように感じる。個人的には『レーン最後の事件』もかなり面白かったので、もったいないなぁと思う。

しかし、「絶対に、順番に読まねばならない」というハードルは確かであり、もっと言えば、この『レーン最後の事件』だけを読むなど完全にナンセンスである──ということが読んでわかった。このような高難度な、それゆえちょっともったいない(一部の人しか味わえない)仕掛けを実行してしまうところが、いかにもエラリー・クイーンといった感じ。

いったい最後はどうなるのか?久しぶりに、一息で読んでしまった本。

私がクイーンのミステリーで最も好きなところは、その論理的で緻密な推理もさることながら、人間心理の「思い込み」をつくような、読者に対する罠である。

読んだことがない方の楽しみを奪いたくないので具体例を挙げられないのが残念だが、犯人解明の決定的な手がかりは、いつも、ごく小さい。あまりに日常的なこと。「当然そうだろう」と思い込んでしまうような事実。

明かされてみると「確かにそうだ」とうならされ、それが小さければ小さいほど、推理のシーンで感動する。

ただし、犯人自体の意外性やトリックの新奇性はあまり高くない場合もある。前回書いた『Zの悲劇』の感想でも述べたように、やはりクイーンの真骨頂は「意外な真相ではなく意外な推理」だ。と私は思う。

(ただし今回は、一冊だけでなく四冊の「オチ」をつけねばならないという事情もあってか、いつもに比べて「ここどうなってんのや」とツッコめるところが多かった)

私個人としては、探偵エラリーのキャラのほうが好きなのだけど、レーン四部作の完成度はエラリーシリーズより高い気がする。

少し苦言を呈すならば、今回特に気になったのは、女性蔑視的な発言と「知性」に対する過度の信仰心を感じさせる描写だ。まぁこれは(作家)クイーンの個性のようなもので、時代も古いので大目に見たほうがいいんだろうけど。今の時代、引っかかる人は多いと思う。キャラクターはわりと金太郎飴的である。

何はともあれ「本格ミステリー」に興味のある方なら、頑張って読んでみてもいい四冊だと思います。読んだ後には誰かと語りたくなることうけあい。

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