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【読書】のマガジン

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#ミステリー

読書感想文一覧【随時更新】

noteに投稿した読書感想文が増えてきたので、自分の整理も兼ねて一覧にしてみました。随時更新します。脱線している場合も多いですが、気になる本があればぜひ読んでみてください。 2022年■アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』 ■有元葉子『レシピを見ないで作れるようになりましょう』 ■ジョージ・オーウェル『一九八四年』 ■ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』 ■日高敏隆『ネコの時間』 ■加藤文元『人と数学のあいだ』 2021年■志賀直哉『暗夜行路』

【読書】エンタメ“謎解き”ミステリーはなぜ売れたのか

■ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』(ネタバレなし) 📖 言わずと知れたベストセラー。もう15年近く前になるだろうか、とにかく大ヒットしたことを覚えている。私の母は流行りの小説を読みたいタイプの人で、母が買って読んだ単行本を私も借りて読んだ。その数年後、母と二人でパリを旅行した際に、ルーブル美術館ですごーくワクワクしたのは言わずもがなである。 なぜ再び手に取ったのか……は自分でもよくわからない。ストーリーは忘れてしまっていたものの「圧倒的なハラハラドキドキ感」が心に

「詩人はつねに有限なものを愛する」

■G・K・チェスタトン『木曜日だった男 一つの悪夢』 哲学者は時に無限なものを愛するかもしれない。詩人はつねに有限なものを愛する。彼にとって偉大な瞬間は、光の創造ではなく、太陽と月の創造なのだ。(P.304) 海外の古典ミステリーを読むうちに、「チェスタトン」という名前を頻繁に目にするようになった。 「どうやら『チェスタトン』という作家がミステリー界における重要人物らしいぞ!」……とAmazonで検索するも、どれを選べばいいのか今ひとつわからず、長らく手を出せずにいた。

作家の老成と劇化

■アガサ・クリスティー『象は忘れない』 久しぶりのポアロシリーズ。長編全33作品のうち、最終作『カーテン』を除いて最後に位置するのがこの『象は忘れない』だ。しかし実際は『カーテン』の方が先に書かれていたとのこと。というわけで執筆順では『象は忘れない』がポアロシリーズ最後の作品らしい。 刊行されたのは1975年、当時のアガサ・クリスティはなんと85歳!これには驚いた。85歳になってもこんなにキレのある物語を書けるものなんだ。いかにもクリスティらしい頭脳明晰さに感心する。

「その不気味さが、言いしれぬ魅力となって、私をそそのかすのでございます」

■江戸川乱歩『江戸川乱歩傑作選』 でも、その不気味さが、言いしれぬ魅力となって、私をそそのかすのでございます。(「人間椅子」) 数年ぶりの再読。江戸川乱歩に関してはこの『江戸川乱歩傑作選』と『江戸川乱歩名作選』の二冊しか読んだことがないが、やはり、魅力的な作家である。 ぱっと見はその、(言ってしまえば)趣味の悪い奇怪な世界観に一歩ひいてしまうのだけれど、グロテスクというベールに隠された文章力に気づくとき、ハッと驚かされる。 江戸川乱歩とエドガー・アラン・ポー江戸川乱歩

一体、誰が演じている?|演出型ミステリーの魅力

■アガサ・クリスティー『予告殺人』 「殺人をお知らせします──」 突然地方紙の個人広告欄に掲載された、ギョッとするような広告。殺人が起きること、その時間、場所が「予告」される。 さてこの「お知らせ」通りに殺人は起きるのだろうか? ポアロシリーズの人気作『ABC殺人事件』を彷彿とさせるような、センセーショナルで非現実的な事件だ。私はまずその、読者を一気に惹きつける設定に「これこそアガサ・クリスティだなぁ」と感心した。難しいことを抜きにしたスリルが体験できる。 殺人犯は

壮大な伏線の回収

■エラリー・クイーン『レーン最後の事件』 ※心配される方が多いと思うので先に書きますが、ネタバレはありません。 ドルリー・レーンを探偵役に据えた「四部作」(『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』)を読み終えた。 この四部作には、全体を通して何やら仕掛けがあるらしい──と以前から聞いていた。 だから「絶対に、順番に読まねばならない」とも。 そのような事情(ハードル?)のせいだろうか、本作『レーン最後の事件』の知名度は他と比べてかなり低いように感じる。

「私は彼の心を研ぐ砥石だった。刺激剤だった」

■アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの事件簿』 私は彼の心を研ぐ砥石だった。刺激剤だった。彼は私を前において、考えることを口に出してしゃべりながら、思索をすすめるのが好きだった。 (P.245) 2020年1月に『緋色の研究』から読み始め、順を追って読み進めたシャーロック・ホームズシリーズ。ついに最後の一冊を読み終えてしまった(厳密には新潮文庫の場合『シャーロック・ホームズの叡智』が残っているが)。 長編を除くと、短編集では5冊目ということになる。ここまで

クイーンの魅力は〈意外な真相〉ではなく〈意外な推理〉

■エラリー・クイーン『Zの悲劇』 ドルリー・レーンが探偵役をつとめる 『Xの悲劇』 『Yの悲劇』 『Zの悲劇』 『レーン最後の事件』 は通称「レーン四部作」とされ、その一連の流れの中にも何やら仕掛けがある──という噂だ(まだ私は知らない)。 ミステリーをほとんど読んでいなかった頃、『Xの悲劇』と『Yの悲劇』が人気で、特に後者の評判が良いらしい。と、様々なレビューで知った。 『Zの悲劇』はそれらに比べて、あまり名前が挙がらない。でもまぁここまで読んだし……「レーン四部作」

「僕の知性は空転するエンジンみたいなものだ」

■アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』 「僕の知性は空転するエンジンみたいなものだ。仕事をさせるために製作されたのに、その仕事が与えられなかったら、破裂してこなごなになってしまう」(「ウィステリア荘」) ー 9ページ 長編4冊、短編6冊(新潮文庫の場合)、合わせて10冊あるホームズシリーズも、これで8冊目となった。 短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』がこの後に出版されているが、この『最後の挨拶』に収録されている短編「最後の挨拶」が、物語の時

「若くて美しいというのは、罪なことです」

■アガサ・クリスティー『ゴルフ場殺人事件』(最下部にネタバレあり) 「無分別もいいところだが、それはきっと若くて、美しい女性なんでしょうな。若くて美しいというのは、罪なことです」(P.159) 『スタイルズ荘の怪事件』に次ぐ、ポアロシリーズの二作目。 ある意味でとてもミステリーらしく、同時にとても物語らしい。ミステリーが好き!……というわけでは“ない”人にとって、読みやすい小説だと思う。 この頃のクリスティはまだ、ホームズとワトスンを意識しているような気がする。ポアロ

ミステリーと冒険譚、最後にして最高の出会い

■アーサー・コナン・ドイル『恐怖の谷』 ホームズシリーズの長編4作のうち、個人的にはこの『恐怖の谷』が紛れもなく最高の出来だと思った。 ホームズを読むといつも感じる。言語化できる教訓めいたもの──つまり一般的に「哲学」と呼ばれるような内容があまりなく、それでいて単純に、ものすごく面白いのだ。 長編1作目『緋色の研究』でとられたような二部構成。第一部はホームズが殺人事件に立ち向かい、第二部は過去に遡る、という構成自体はほぼ一緒。 しかしまぁ……『緋色の研究』の時にも思っ

「歳月も習慣も、どうやら僕の才能を腐らせる力はなかったらしいね」

■アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの帰還』 久しぶりに読んだホームズ! ただ純粋に、面白いなぁ、ワクワクするなぁと、胸を躍らせながら読み終えた。ミステリーがどうの、謎解きがどうの……という理屈の入り込む余地はそこになかった。 ホームズとワトスンの再会にはじまり、なぜか一緒に暮らしている風の(妻はどうした?)二人に懐かしみを覚え、毎回起きる事件がひとつひとつほんとうに面白かった。心境の変化なのかわからないけれど、今までのホームズシリーズの中では一番面白く読

「迷宮入り事件」

■アガサ・クリスティー『火曜クラブ』 「迷宮入り事件」  レイモンド・ウェストは満足そうに一座を見まわした。 初めてのマープルシリーズ。原題は”The Thirteen Problems”、訳すなら『十三の事件』といったところかな。原題もかっこいいのですが『火曜クラブ』という邦訳もなかなかイカすなと思う。 ミス・マープルはポアロにひけをとらない人気らしい。いわゆる「安楽椅子探偵」で、小さな田舎町に住む普通の老女だが、人間を観察する眼に非常に優れていて、ぴたりと事件の真相