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久しぶりにきゅんとする漫画に出会った話|ゆびさきと恋々

ふと「最近、漫画を読んでないなあ」と思い、週末2日間をかけて作品漁りをしたところ、本当に久しぶりにきゅんとする漫画に出会ってしまいました。

それが、森下suuの『ゆびさきと恋々』

作者さんのTwittrで、作品の一部(序章)が公開されていたので、読んだことがない人は是非このツイートをご覧ください。これだけでも作品の魅力が伝わるはずです。

ネームのマキロさんと作画のなりやんさんの二人組ユニット・森下suu。過去作も素敵ですが、現在「デザート」(講談社)で連載中の作品がこの『ゆびさきと恋々』

生まれつき聴覚障がいのある(ろう者)の女子大生・雪が、同じ大学の先輩・逸臣に出会い、恋心を抱きます。少しずつ距離を縮めてゆくふたりの関係性とあたたかい空気感が魅力のラブストーリーです。


この作品は、本来紙の上で表現することが難しい「間」を丁寧に描いていて、その表現の巧みさに思わずため息、そしてきゅんとします。雪は手話と口話(時には相手に合わせたテキストメッセージ)を主に使って会話をする一方、逸臣をはじめとした周囲の人たちは発声での会話やテキストメッセージ、学びたての手話を使って雪とコミュニケーションを取るのですが、そこに少しの「間」が生まれます。

逸臣の慣れない手話を、雪がじっと見つめている時間。
雪が綴る文字を、逸臣がひとつずつ追いかけている時間。
友人や家族が、ゆっくりと発声する時間。

心の距離が近いからこそ一切苦にならない「相手を待つ時間」が、コマ割りや登場人物たちの表情、そして指先の描写で丁寧に美しく表現されています。音のない漫画という世界でそれらを表現することの難しさもさることながら、その「間」をまさしくいとおしい相手を待つ大切なものとして描くその巧みさに感動するとともに心が温まります。

(余談ですが、作中で雪の幼馴染の桜志と逸臣が一緒に飲むシーンがあります。ろう者ではないふたりは発声で会話をし、かつ、桜志が逸臣に敵意があることも手伝って彼らの会話には「間がない」という逆の印象を受けます。紙の上で時間を操る森下suuの能力に脱帽です)


登場人物たちはみんな魅力的ですが、やはり逸臣の人間力が「きゅん」の根源だと思います。幼少期にドイツに移住、日本で大学生になってからはバックパッカーとして旅を続ける逸臣。人間としての器が大きく、物事にあまり動じないその安心感に雪が惹かれるのも納得です(明らかにモテそう)。

個人的には、恋人同士ではないふたりが逸臣の家でピザを食べるシーンがとても好きです。すり寄る雪に肩に手を回したまま「甘えてんの?」と質問する逸臣。しぐさにも言葉にも余裕が滲むその態度を前に、好きにならずにいられる強者は存在するのでしょうか。ちなみにこのシーンも1ページにセリフはこのひとつだけ。「間」が綺麗なシーンです。


決して強引にはならず、それぞれが相手を思いやる姿勢は、雪と逸臣だけでなく幼馴染の桜志や友人たちも含め登場人物全員に共通しています。落ち着いた空気とあたたかい関係性が、この作品にきゅんとしてしまう理由なのだろうと思います。

現在7巻まで発売中。次巻も楽しみです。




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