ひとさじぶんのしあわせ/『365日のスプーン』
さかずきに
金色の菊の花をうかべて、
ゆうぐれの月を見ながら
お酒を飲む。
さかずきにも、うつる月。
月入りの菊酒。
たまたま、ネットで見かけたこの詩にどうしても心惹かれてしまって作者と本の題名を調べて急いで買った、一目惚れ本です。
おーなり由子さんの『365日のスプーン』。
365日ぶん、スプーンひとさじぶんの幸せになるような文章が書いてある本です。わたしが惹かれたこの一編が書いてあったのは9月9日。菊の節句に当たる日。
どの文章のとてもやわらかくて、読むというよりも「ふれる」という感覚。ちょっとずつじんわりと沁みていく感覚がとても心地よくて、こういう言葉を綴る本があったのね……と、なんだか感動してしまいました。
365日分あるので、最初から読むのもいいし、毎日開くのもいいし、気になる日にちから読むのもいい。
わたしは我慢できずに全部読んでしまったのですが、その中でもお気に入りをいくつか紹介させてください。
「おぼろ月」
とろけそうな
きいろい春の月を見かけたら
それを、ひとくち、なめてみる想像をする。
・カスタードクリームみたいに、甘いか。
・コーンポタージュみたいに、とろとろか。
・バナナジュースみたいに、いいかおりか。
「シーツを干す」
あっという間にかわく
夏の幸福。
風が
シーツのはしっこを
さわっているのを見る。
だれかの胸ではなく
ひとりでふとんに、つっぷして泣く。
枕に顔をおしつけて泣く。
ひみつの涙を
ぜんぶ
そのなかに
受け止めてもらうため。
ところどころに入る小さなイラストもかわいくて癒されます。この本があんまりにもすきになってしまったので、他の本も続けて買ってしまって寝る前にぱらぱらと読むのがすっかり日課になってしまいました。
毎日をもうちょっとだけ、ほんのちょっとだけ幸せなことがあるといいのにって思ったら開いてほしい一冊です。
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