あなたのための一冊。米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』
「あなたのための一冊。」
最近、お話をしたその人にぴったり合う一冊を一緒に探してみることを始めてみました。
今日はお話したのは、会うたびにお互いの読んだ本の話をよくするお友達。その子自身もよく本を読むし、本屋さんに一緒に行くこともあるからなんとなくどんな本がすきなのかは把握できている(はず)
お互いに書くことを仕事にしていることもあるので、それなら一冊ずつ選んでそれについて書いてみようよ、という話になりました。
今回の条件は一つだけ。
・わたしが読んでほしいと思う本。
いまの気分や希望はあえて聞かずに、ただ純粋にわたしが読んで欲しい本。読んでもらって一緒に感想を語り合えたら嬉しい本。そう思って選びました。
優しい物語もいい。柔らかなのも、おいしそうなのも。だけど、せっかくならば読んだときの衝撃をなかなか忘れられないようなのもいいかもしれない。
そう思って選んだのは米沢穂信さんの『儚い羊たちの祝宴』。
この物語は、夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」をめぐる5作の短編集。
まるでおとぎ話のような、現実味のないふわふわとした世界のようで、見てはいけない深淵に足を踏み入れてしまったような不安な気持ちにさせられます。
初めの4章は最後の一行でそれまでをぐっと引きしめてぞくぞくっとさせてくるのですが、最後の章でこれまでの4章をぜんぶぜんぶまとめて引き摺り下ろしてくる感覚がたまらなくてだいすき。
なかでもわたしが特にすきなのは『玉井五十鈴の誉れ』という章。
玉井五十鈴という使用人と、一人のお嬢さま・純香とのお話。『儚い羊たちの祝宴』では全編通して小説のタイトルが出てきて、それもまた魅力のひとつなのだけど、この章でも五十鈴と純香が仲良くなるのも『荘子』と、エドガー・アラン・ポーを交換することで、初めて小説を読んだ純香が新しい世界を知ったことから始まるのです。
使用人という立場でありながら純香の人生の先輩のような立場でもあった五十鈴。だけど、その純香の伯父が殺人を犯した疑惑がかかることにより、純香の家での立場が大きく変わり、そんななか屋敷が火事に見舞われ……。
と、使用人とお嬢様の垣根を超えたブラックすぎるラストをぜひ楽しんでもらえたら。
「氷菓」や「<小市民>でシリーズ」で米澤さんを知ったわたしは、初めて『儚い羊たちの祝宴』を読んだとき、米澤さんが本当に同じ作者だなんて思えないくらい衝撃的でした。
それからこういうジャンルのミステリーもはじめましてだったので、とてもドキドキしながらのめり込むようにして読んだのを覚えています。
結末はわかっていてもこの独特な世界観に浸りたくて、時折手に取ってしまうだいすきな作品です。
普段は選んだ相手がその本を読んだか読まないかはあまり気にしていないのだけど、今回は同じ読書好きの彼女だからこそ、ぜひ語り合ってみたいなと思います。
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