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とびきりの友だち/『デトロイト美術館の奇跡』

全く違う時代を生きた、全く知らない人の作品なのにまるで自分のために存在しているような気がする…って、おこがましいけどそんな風に思ってしまう作品との出合いがこれまでいくつかあったような気がします。

そんな作品との出合いが、いまの自分の少なからずの支えになっていると思うことも。

そういうこと、きっと誰にでもあるって思っているけど、でももしかしたらそんな図々しいことを考えているのはわたしだけかもしれない。そう思って、ひっそりと胸の内におさめていました。

でも、この物語を読んでやっぱり誰しもが持っていて、それが窮地に立たされたとき、すごい奇跡があるのかもしれません。

原田マハさんの『デトロイト美術館の奇跡』

デトロイト市美術館にはピカソやモネ、セザンヌなども珠玉のコレクションが揃っていました。ところがあるとき、市の財政破綻のために美術館に売却の危機が訪れます。守るべきものは、市民の生活なのか、市民の誇りなのか…。

物語はDIA(デトロイト美術館)を愛する一人の市民、美術館に絵画を寄付するコレクター、美術館のチーフ・キュレーター、それぞれの目線から描かれたDIAの危機を描きます。

なかでもぐっとくるのは、第一章。主人公であるフレッドの立ち位置は、他でメインに描かれるコレクターやキュレーターに比べると、美術館との直接の関わりは少ないかもしれません。

でも、フレッドの勇気をもった行動が確実に大きな流れを作るのです。そのフレッドの勇気も、また亡くなってしまったジェシカとの思い出から出てきたものでした。

初めてフレッドにDIAを紹介したときジェシカが話した言葉は、フレッドにとっても大切なものになりました。

━━友人たち?いったい誰のことだい?
フレッドが尋ねると、ジェシカは、少しだけてれくさそうな笑顔になって
━━アートのことよ。アートはあたしの友だち。だから、DIAはあたしの「友だちの家」なの。
うれしそうに答えたのだった。

ジェシカと何度も何度も訪れたDIAには、思い出がたくさんたくさん詰まっています。

なかでもセザンヌの描いた《マダム・セザンヌ(画家の夫人)》はとびきりの友人であり、またフレッドにとってはジェシカでもありました。

その友だちが売られてしまうなら、と動き出し、そして生まれた結末がもうとびきり素敵。

実話を基に描かれたこともあり、途中の差し込まれる写真もまたぐっと世界を近づけてくれます。

きっとわたしが大切に思っている作品も、“友だち”って思ってもいいのかもしれない。“友だち”が危機に陥ったら、ちゃんと動きだせる一歩を持っていたいな。

ますます美術が、美術館がすきになれる一冊。

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