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波長が合う音

静岡・伊豆半島の大部分は山に覆われている。

そのため内陸地を通るとなれば、峠道を走ることが常だ。

新緑の香りが漂う朝、僕は修善寺から戸田方面へバイクを走らせていた。清々しい風を浴びながら、全身に伝わってくる鼓動と音を楽しむ。

修善寺で泊まった宿では、女将さんと顔を合わすなりこう言われた。

「お兄さんのバイク、ハーレーでしょう? ハーレーはいい音するわよね!」

僕が宿の駐車場に入ってきた時、その音を聞いてすぐ分かったらしい。

「ハーレーはいい音がする」

女将さんの口からそんな言葉が聞けるとは思っていなかった。思いがけない人から相棒を褒められて嬉しくなった。

ハーレー特有の鼓動に憧れて中古車を購入し、ちょうど静岡方面へソロツーリングをしていた旅中のことだった。

ハーレーは、愛好家から”鉄馬”(アイアンフォース)ともよく呼ばれる。

ハーレー特集の雑誌には、「鉄馬カスタム」とか「鉄馬と共に走る」といったキャッチコピーの表紙をよく目にする。

その鉄馬の鼓動や排気音は、愛好家から「3拍子」や「ポテトサウンド」と呼ばれ親しまれている。

「ポテット、ポテット、ポテット、ポテット、ポテット」

ハーレーの本場アメリカでは、そのように聞こえるらしい。

さすがに冗談だろうと思って耳を傾けていると、なるほど、そう聞こえてこなくもない。

ポテトと聞こえるかどうかはともかく、やっぱりリズムカルないい音だなぁと感じる。

ちなみに、70歳現役ライダーである僕の親父もハーレーについて同じようなことを言われたらしい。

地元・大阪の同窓会で再会したクラスメイトの女性からである。たまたま、当時親父が乗っているハーレーの話題になった時、こう言われたそうだ。

「ハーレーは他のバイクと違う音がする。あれはええ音やわ」

音といっても、心地いい音もあれば不快に感じる音もある。

不快な音の例えはさておき、心地いい音は色々な場面で出会う。

自然や生き物から聞こえてくる音は心地いいものが多い。

川のせせらぎ、小鳥のさえずり、海辺で聞こえる波の音、焚き火をする時に薪がパチパチッと鳴る音。

人間が作った物や機械が生み出す音でもやはり心地いい音がある。

僕は蒸気機関車や船の汽笛、ぽんぽん船のエンジン音、機械式フィルムカメラのシャッターを切る音などが好きだ。

そして、僕にとってハーレーもやっぱりいい音に感じる。もっとマニアックな話をすれば、ハーレー以外にも好きなバイクの音はある。

ちなみに僕の2歳の息子は、踏切の音が好きらしい。「カンカンして!」とよく頼まれるが、僕が腕を伸ばして「カンカンカンカン!」と言いながら踏切を作ってあげると、これ以上ないほど満面の笑みを浮かべる。

波長が合う音、といっても良いかもしれない。

修善寺の宿の女将さんは、ハーレーの音と波長が合う人だったのだろう。

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トップ画像は、伊豆・修善寺にて撮影(2012年5月)

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戸田漁港

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土肥港から相棒と共にフェリーへ

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フェリーのデッキから西伊豆の街を望む

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1時間ほどで清水港に到着

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焼津市の海水浴場近くで相棒を撮る 

修善寺 ~ 戸田(へだ)港 ~ 土肥(とい)港 ~ 駿河湾フェリーで清水港 ~ 御前崎灯台まで走った旅だった。

当時の相棒:ハーレーダビッドソン スポーツスター XLH883H ハガー

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