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「魂がフルえる本」 その4《生きている実感— 『自分の体で実験したい』レスリー・デンディ+メル・ボーリング》

いつも立ち寄る近所の古本屋さんでこの本を発見したとき、タイトルだけでズキュン!  ときめいてしまいました。

目次をご紹介します。

1)あぶり焼きになった英国紳士たち
2)袋も骨も筒も飲みこんだ男
3)笑うガスの悲しい物語
4)死に至る病に名を残した男
5)世界中で蚊を退治させた男たち
6)青い死の光が輝いた夜
7)危険な空気を吸いつづけた親子
8)心臓のなかに入り込んだ男
9)地上最速の男
10)ひとりきりで洞窟にこもった女

『自分の体で実験したい』

ワクワクする見出しが並んでいます!
どの章も、自分の知りたいことを徹底的に調べるために、痛くても、辛くても、具合が悪くなっても、気を失っても!、自らの体を使って実験しつづけた、奇人たちの物語が描かれています。

第一章の「あぶり焼きになった英国紳士たち」は、人間はどれほどの熱に耐えられるのか、サウナのような小部屋に籠もって実験した、ウィリアム・フォーダイズと、その仲間、チャールズ・ブラグデンほか3名のお話。

・・・金属でできた物はどれも熱くなりすぎて、触れることができなかった。時計の鎖さえ例外ではない。体に力が入らず、手が震える。ブラグデンも目眩におそわれ、頭の中で雑音がした。

・・・室温は104度、113度、127度と上がっていく。温度計が狂っていないことを確かめるため、また熱がどれほど強烈かを示すために、室内に生のステーキと生卵を置いてみた。玉子が固く焼けるまでに約20分。ステーキ肉は33分で焼きすぎの状態になる。

・・・ブラグデンはその7分後にこう書いている。「不安になるほどの圧迫感を肺に覚える。それが1分もたたないうちにしだいに強まっていったので、実験を終わらせるのが何より賢明であると考え、ただちに部屋を出た」
部屋から逃れたブラグデンの心拍数を計ると、普段の2倍以上になっていた。それなのに実験した男たちの体温は、37度を超えることがない。暑さに一日中あぶられていたのに、見たところまったくの健康体である。

『自分の体で実験したい』

感動しました!

「なにもそこまでしなくても・・・」と、〝普通の人〟なら思うことを、このどこか〝おかしい人達〟は、脇目も振らず知りたいことに突き進んでいく。
わたしは、このような人間が大好きなのです。

たぶん、こういう類いの人たちが求めているのは、知識ではないのです。
「これをこうして、このようにすれば、あなたの知りたい答えは得られますよ。」という、言葉としての論理や知識だけでは満たされない、もっともっと切実な〝なにか〟があります。

〝なにか〟とは、もちろん『自分の体で実験したい』でしょう。

私も同じような人間なのでその気持ちがよ〜く分かります。
和太鼓に向かうと、必要以上に打ち込んでしまうんです。

もう無理〜となっても「これでもか!」と肉体を思い切って動かすと、不思議とまた力が湧き上がってくるんです。  もちろんしんどいし、苦しいけども、それを無視してその力に乗っかっていくと、またまた力が湧いて打ち続けることができるんです。

そんな時、「生きてるなぁ〜〜〜!!」と感じます。

単に情報を知って「分かった」とする頭の理解よりも、私は〝肉体〟で、丸ごと感じたいし、逆に理屈は分からなくても、いまある自分の感覚こそが真実なのだ、と思うのです。

のちにチャールズ・ブラグデンは、フォーダイズの実験にかんする最初の科学報告書をまとめ、その中でこう記している。
「われわれはみな喜んでいた。生物の限界とみなされているよりはるかに高温の空気にさらされたら、いったい人間はどうなるのか。それを観察できる機会に恵まれたのだから」

『自分の体で実験したい』

あぶり焼きになってみたり、骨も筒も飲みこんだり(消化の仕組みを探るため!!)、世界中で蚊を退治させたり、ひとりきりで洞窟にこもったり・・・
この愛すべき奇人の皆さんも、ぶっ飛んだ実験を繰り返しながら「生きてるなぁ〜〜〜!!」という喜びを感じていたんだ、と私は確信しています。

『自分の体で実験したい』命がけの科学者列伝
レスリー・デンディ+メル・ボーリング
イラスト:C.B.モーガン
梶山あゆみ 訳
紀伊國屋書店


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