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なんでもない記念日

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365日分の「なんでもない記念日」を祝して。130文字以内の小話を、1日に1つ。1107〜0213 #記念日BL
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2015年2月の記事一覧

2月1日 においの日

ソファで横になった彼からは、規則正しい寝息が聞こえる。

「ただいま」

遅くなってごめんねと、続けようとしてやめた。
気持ち良さそうな寝顔。起こしては悪い。

毛布をかけてやってから、自分のネクタイを外す。
それから彼の襟ぐりに鼻先を寄せて、深呼吸。

ああ、帰ってきた。
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2月2日 情報セキュリティの日

「大学まで一緒とかウケんな!」
カラッとした笑顔の君に「あーまぁね」なんて言って見せるけれど。

君が大学に進むと決めたことも、それがどこの大学でどの学部なのかも、調べるのにどれだけ苦労をしたことか。

「まぁこれからも、よろしくな」

伝えられる言葉は、それが精一杯で。
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2月3日 英雄の日、大豆の日

「やっぱり豆つまむのって難しいよね」

無理に箸など使わなければいいのに、毎年この日だけは、挑戦せずにはいられないらしい。

肩をいからせ四苦八苦する姿からは想像もつかないけれど、彼は僕らの恩人なのだ。

年ごとに増えていく豆の数を眺めながら、彼の過ごしてきた日々を思う。



英雄の日は、日本ではなくモザンビークの記念日です。
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2月4日 西の日

「先輩もう寝ないと」

週末の入試に向け、関西へ旅立った先輩。
今日は疲れをとることに専念し、明日から最終調整に入るらしい。

「試験頑張って下さいね」

受かれば遠距離になってしまうのだから、もどかしいけれど。

「おう、ありがとな!」

僕ほどには悩まない先輩の成功を祈る。
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2月5日 笑顔の日

「いっつも笑ってんのなんで?」

胸元を捕まれ、乱暴に押し付けられながら投げられた言葉に、やっぱり僕は笑顔を返す。

「お前マジきもいな」

そうだね。
でも、その「きもい」僕以外じゃもう、満足できないでしょう。
罵倒しながらでなきゃ達することも。

ざまをみろ、いい気味だ。
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2月6日 抹茶の日

「駅ナカの抹茶カフェ、今週フェアやってるってよ」
「マジか! 行く! 行こう?!」

駅舎改装で、こいつの好きな抹茶モノばっか扱う喫茶店のテナントが入った。
多分、一番感謝しているのは俺だろう。

「おう、行こう」

デートもどきに誘うのが、こんなに楽になるなんて。
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2月7日 フナの日

「川魚料理店なんてあるんですね。フナの食い方も初めて知りました」

趣味は釣り、という無口な彼。
「つまらない人間だ」と言うあなたのおかげで、俺は随分と新しいことも知った。

「春になったら釣り行きましょう」

無言で頷く顔は僅かに微笑んでいて、いいもの見たなと心から思う。
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2月8日 〒マークの日

規則的に割り振られた7桁の数字。

使う機会などほとんどないにも関わらず、覚えてしまっている自分のイタさに飽き飽きとする。

年賀状と、暑中見舞いの時くらいか。

遠い海の向こうへ送る、メッセージを込めた紙の頭にそえる7桁を記す時、僅かに高揚し震える指先にもまた。
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2月9日 肉の日

焼肉屋で見られる彼の姿は壮観だ。

網の上の肉が滴りを見せる。
喉が鳴り、彼の唾液もまた湧き出ていることがわかる。
肉を返す箸の扱いは意外と繊細。
くわっ、と開けられた口に、一口でおさめられるタン、カルビ、ロース。

噛み砕かれ咀嚼され、ビールで流し込まれる肉を羨ましく思う。
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2月10日 ふきのとうの日

昔から家が貧乏だという彼は、食える野草等を見つけてくるのがうまい。

「おぉぉ天婦羅!」

料理に関しては壊滅的に不器用な彼に料理してみせるわけだが、俺の手元を眺め目を輝かせている間は年相応の幼さで、可愛らしい。

食ってる姿も色気があって好きだ、と思っていることは秘密。
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2月11日 干支供養の日

使い古した感のある、多量の馬柄のパンツを丁寧に畳む彼。
今年は羊柄のそれがまた多量、タンスの中にあることを僕は知っている。

何をしているんだろう。
僕の視線に気づき、彼が言う。

「一年お世話になった供養」

やはり全然わからない。

下着の下以外の彼への興味が募っていく。
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2月12日 ブラジャーの日

「まさか女装趣味だなんて驚きです」
「女装ではない。ブラジャーは機能性下着だよ。俺は胸がでかいからな…」
「でもそれレディスじゃないんすか」
「メンズブラはレースの繊細さにかけるものが多いんだ。…幻滅したか?」
「してない自分に驚いてる最中ですよ。キスさせて下さい」
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2月13日 苗字制定記念日

「俺らも渋谷に引っ越すか」
「パートナー法みたいなのの話?」
「ん。いいよな。同じ苗字とかなってみたかったし」
「そこどうでもいいだろ。同棲とか相続とかもっとこう」
「まぁ国の法律は変わらんし、苗字一緒にってのも今まで通り縁組しかないけどな」
「渋谷関係ねぇのかよ」
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