反ユダヤ主義(3)説明と正当化の違い
チャップマン大学の歴史学者で、反帝国主義のリアーム・オマラ氏のインタビュー。3パート、今回は最終第3パート。オマラ先生は米国出身のユダヤ人で、親パレスチナ活動家。前2回は以下。
ニュースの見方
(*訳者注)
イスラエルのハズバラ(プロパガンダ)は非常に強力で米国政府発表(バイデンの「40の赤子斬首!」)も主要メディア(タイムズ紙の「ハマスの大量レイプ」)も確かな証拠なくイスラエルの主張をそのまま鵜呑みにして拡散する。
ジャーナリストの経験の薄いドキュメンタリー作家がなぜかタイムズ紙に抜擢され「10/7にハマスにより大量レイプが起こった」との記事を書いたが証拠が全くない(被害者がいない)事実が後からインターセプト紙の調査で分かった。
このような事例が多くあり、ニュースの見方が難しくなっている。
(*訳者注終わり)
証拠が出るまで主語の大きい判断はしない事が重要だ。
資本・帝国主義が戦争を起こし、戦禍ではとんでもない暴力が起こる。それはどんな人にも起こりうるし、どんな人も加害者になり得る。ハマスのレイプをイスラエルは盛んに取り上げるが、まだ証拠が出揃ってない。それはそれで法の下に裁かれるべきであるので、証拠が出るのを待つしかない。
一方司法手続きに耐え得る証拠が大量に記録されているイスラエルの収容パレスチナ人へのレイプの話はしない。そちらはそちらで同様裁かれるべきなのだ。
イスラエル支持者もパレスチナ支持者も、「奴らは悪だ。レイプする。こっちはしない。」と言ってしまっては話にならない。再度、戦禍では凄惨な暴力が起きてしまう。誰でも加害者になる可能性はある。人間なら当たり前の事なのだ。それをこっちはやらない、やるのは向こうだけだ、と言ってしまう事は「差別」になるだろう。
犯罪はケースバイケースで独立して裁かれるべきものである。
10/7以前の「平和」
「10/7以前には平和があった。それをハマスが破ったのだ。だからハマスに投票したガザ市民全員を殺していい。」そんなロジックをなぜか受け入れている人が多数いる。中東で市民を苦しめる米国政府に投票したアメリカ人は全て悪人なのだから9/11で殺していい、というテロリスト思想と全く同じロジックである。
10/7以前、と言うがパレスチナ人にとっては平和では無かった。1947以降何度も爆撃され、暗殺され続けている。
ジョンロックから現在まで「圧政に抗う権利right to resist tyranny」はリベラル政治思想の根幹である。パレスチナ人が圧政(tyranny)に晒され続けていた事は紛れもない事実だ。軍事占領下で剥奪、殺戮にあって来た。
私はハマスに賛成する者では無い。10/7にイスラエル市民を殺害した事を厳しく非難する立場だ。しかし、彼らがその行動を選んだ背景を理解する事はできる。75年もの圧政に、抵抗の結果が生まれるのは自然な事だろう。
そして10/7があったから自分らもガザ市民を殺していい。という理屈は通らない。繰り返しになるがそれはテロリストのロジックだからだ。「お前がテロをするのはダメだが俺がするのはいい。」と言っている事になる。
個々の犯罪は独立して裁かれなければならない。私は死刑に反対する立場であるが同じ理由だ。「殺しはダメ」との規則を作るのなら「正当に殺していい」状況を作ってはならない。個人が殺すのはダメだけど、政府が殺すのはオッケー、では一貫性がない。
「被害者は正当的に加害できる」。そのロジックでシオニストはユダヤホロコーストの痛みを殺戮の正当化に使っている。
例えば9・11。起こした犯人を逮捕、拘束、起訴するのが順当な対応だろう。その怒りや被害者性を使ってイラク・アフガンで無垢の市民を殺すのは明らかにおかしい。そしてあの戦争でアメリカは更に反抗勢力を生んだ。テロリズムのやり取りが永久に続き、軍需産業が更に儲かる。それこそ資本・帝国主義の目的なのだ。
説明と正当化は違う。explanation is not justification
米国先住民やIRA。彼らが反撃したのは当然だったと今は理解されるだろう。でも当時彼らは「テロリスト」扱いをされたのだ。圧政に苦しむ人々は反撃に走るのは理解に難しくない。そしてそれは貧困だけが原因でない。ハマスの幹部には裕福な者もいる。それでも抵抗するのだ。圧政の「不正義」が人々を反撃に向かわせる。
その背景の理解しようとする事を「正当化だ!」と言って阻んではならない。
イスラエルの資本・帝国主義・差別に基づくアパルトヘイトが打倒するものであるのにも関わらず、パレスチナ人の痛みに寄り添うあまり「ユダヤ人が悪い」などと差別的に誹謗中傷してしまえば、ジェノサイドを引き起こしている民族国家主義の批判にこれまた民族主義を使っている事になる。同じことの繰り返しなのだ。
「イスラエル支持」の根底
欧米の「イスラエル支持」の理由はずばり「反ユダヤ主義」である。ドイツ、米国、カナダ、、、政府が全力でイスラエルを支持する。それは実は自国内に蔓延る反ユダヤ主義を見据え、それを駆逐する努力より、イスラエル支持を声高に叫び金だけを注ぐ方が楽だからだ。
ホロコーストがあった。世界は「あれはヒットラーの差別主義、優生思想が原因だ!」と言った。しかし本当は1800年間のキリスト教によるユダヤ差別がナチス政権を実現させたのだ。それを無視したまま西欧はここまで来ている。
ナチスに参加しユダヤ人を殺したドイツ人は、ユダヤ人が劣った存在だからそうしたのではない。ユダヤ差別蔓延る文化で、敬虔なキリスト教徒としてユダヤ人を憎み差別し育ったからだ。
「ユダヤ人を虐殺したのはキリスト教徒」とは、現在のアメリカのキリスト教徒は嫌がるだろう。「彼らは本当のキリスト教徒でない!」と言うだろう。でも当時のドイツ人達はそれが「本当のキリスト教徒」だと思っていた。ナチ兵は「神と共に」とのベルトバックルを着用していた。大体KKKだって「キリスト教徒」なのだ。
キリスト教の教えに(資本による帝国主義につられて)ユダヤ差別を助長してしまう要素があった事、それがキリスト教ベースの文化に深く食い込んでいる事。これをはっきりと認識、自省する努力をしない限り、問題の根本は野放しのままなのだ。ホロコーストの礎になったユダヤ差別の文化は今でも欧州から消えていない。それは米国にも染み出し、またアラブ各国にも伝播してしまう。
「イスラエルに戦艦を提供したので私たちは反ユダヤ主義ではありません」
これでは話にならないのだ。
現在ドイツでシオニズム支持が増加している。同時に反ユダヤ主義も増加している。シオニズムと反ユダヤ主義は実はパラレルなのである。
パレスチナ人の友達でさえ例えば「イスラエルのやった事を見たか!?」と言う時「Yahud(a jew, ユダヤ人)」を主語に使う時がある。慣習でそう言ってしまうのだが、はっきり言って問題あるだろう。だって、主語がユダヤ人なら、彼の糾弾の対象は私も含んでしまうのだ(オマラ先生は米国ユダヤ人)。
小さい事だが、このように慣習となってしまっている反ユダヤ主義のかけらでもそれを指摘しないでいると危険なのである。それがそこら中にあれば「ほら、世界はユダヤ人にとって危ない所だろう。私たちにはイスラエルが必要なんだ。」というシオニストの意向が米国や欧州のユダヤ人にとって飲み込みやすくなってしまう。
イスラエル国外(ディアスポラ)のユダヤ人の方が国内のユダヤ人より多いのだ。イスラエル国内にも自政権のプロパガンダ、情報統制を見抜きアパルトヘイトを批判するユダヤ市民はいる。しかしその声は文化や政策により消音されている。イスラエルは内側からは変われない。我々ディアスポラのユダヤ人は、イスラエルのアパルトヘイトを毅然と批判しないといけない。そのためには、ディアスポラのユダヤ人を怖がらせてはならないのだ。
今、これから
パレスチナの権利を叫べばあっという間に沈黙させられるマッカーシズムがこの国にはある。私は長年パレスチナ支援の活動を続けているからそれを実感している。しかし、今ほど親パレスチナの声が消されずに増幅していったことは無い。
親パレスチナの活動家の間で「反ユダヤ主義を絶対に許してはならない」という理解が深まったから、というのが要因の一つにあるだろう。前述だが、ハマスの88年憲章は反ユダヤ主義を多く含み、パレスチナ解放の活動の大きな足かせになった。2017年にその要素を憲章から削除したのは大きな進歩であったが、今でも反ユダヤ主義を唱える幹部がハマスにいない訳では無い。
差別の文化は一度根付いてしまうと中々払拭できない。長く無批判で存在し続けることによりその爪を深々と文化に落として行く。欧州の文化から反ユダヤ主義を取り去るのは生半可な努力では出来ないだろう。それを許して来た時代があまりにも長すぎる。
ユダヤ人は世代を超えたトラウマを持っていて、いつでも恐怖を抱えている。パレスチナを解放したいなら、その恐怖の原因を取り除く努力をするべきだ。最近のパレスチナ連帯運動ではそれを心得た人が多数いると言った。
例えば、アメリカ人は幼い頃から「パレスチナ人はテロリスト」とのイメージを何度も見せられて育つ。
でも、パレスチナ連帯運動が自らのユダヤ差別文化をここまで払拭できたなら、アメリカ人だってイスラム恐怖やパレスチナ人の非人間化の呪いから脱出する事ができるはずだ。
(自分を含む)パレスチナ連帯運動は今後もユダヤ差別を徹底的に監視して行く。それは小さな言葉だったり慣習だったりする。本人は悪意なく使っている単語だったりする。それを指摘する事を怠らずディアスポラ(イスラエル国外)のユダヤ人を安心させれば、シオニストのプロパガンダは崩れ去る。なぜならシオニズムはユダヤ人の恐怖がその礎だからだ。