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ガザ、解説。part 2

“Hamas Contained: The Rise and Pacification of Palestinian Resistance.”著者のTareq Baconiインタビューが包括的でタイムリーで、更に私にとって新たな見解も提示してくれたので2パートに分けて抄訳します。

パート1はこちら。


エジプト

【背景】ガザと国境を共有する唯一の国がエジプト。今回の紛争でガザからの難民受け入れを拒否している。大統領シーシーはパレスチナ人の人権を守れとイスラエルを批判はするが、実は過去15年間ガザ国境の制御をイスラエルと協力して行っている。もしイスラエル軍がラファに地上侵攻し、パレスチナ難民を無理やりエジプトに送るようなことがあれば79年のイスラエル=エジプト平和条約(キャンプ=デイビッド合意)を取り消すと脅している。ネタニエフは「ガザーエジプト国境(フィラデルフィア回廊)はイスラエルがコントロールする」とつっぱねる。

ガザーエジプト国境のフィラディルフィア回廊


まず一点。10/7以降エジプトは救援物資をガザに搬入するのを拒んでいる。開けようと思えば開けられるのにそれをやらない。飢餓によるジェノサイドに加担していることになる。それがエジプトの一存でできない、という事実が、ガザ=エジプトの国境をイスラエルがコントロールしていることの証明だ。

シーシー政権は国内のイスラム同胞団などのムスリム系反対勢力の拡大を恐れている。なので、何十万人ものパレスチナ人が流入するのは政権にとって都合が良く無い。もう一点。エジプト市民の大半はパレスチナ人の民族自決を望んでいる。エジプトが彼らを受けいれることはイスラエルがパレスチナ人を追い出す事を許してしまうことであり、市民から大きな批判を受けるだろう。シリア、レバノン、ジョーダンの例を見れば、一度国を出たパレスチナ人はもう帰ることは出来ない事は明らかだ。

パレスチナ人難民受け入れの見返りとして、国際社会から経済援助が大量に見込めるとなると態度は変わるかもしれないが、基本的にエジプトは「人口移動は許さない。強要するならキャンプ=デイビッド合意は御破算だ」と言う。

ただ同じように米国も「人口移動は許さない」と言うし、イスラエルも「人口移動させる気はない。ガザ内の他の場所に移動してもらうだけだ」と言う。しかしfog of war(戦争の霧=暴力のどさくさ)の中で何が実際に起こるかは歴史が証明している。結局人口移動をするのだ。だから各国のリーダーが公言することがどれだけ真意なのかはあまり分からない。


10/7からのパラダイムシフト

(2006のハマス台頭以降2008、2009、2012、2014、2018、2021とイスラエルは度々ガザを攻撃して来たがその度最後には何かしらの取引がなされ攻撃が終わる。しかし大きな変化がある訳でなく暴力による均衡が恒久的に続いていた。今回の紛争ではそう言うことはなさそうだが。)

各年のイスラエル攻撃によるパレスチナ人犠牲者の数


その通りで、現状維持パラダイムは崩れた。まずガザはもう住める土地ではなくなった。復興はまず無理。そしてイスラエル国内の世論がもう変わってしまった。

10/7は「自国の安全がパレスチナ人へのアパルトヘイトにより未来永劫保たれる」というイスラエル人の妄想を打ち砕いた。パレスチナ人をこの先ずっとコントロールできると思っていたがそれが不可能だと気づいてしまった。その国民感情のシフトを政権も認識している。だからこそ今までのような「現状維持」ではなく、ジェノサイドを選んでいる。

壁の中に閉じ込めておくだけでは足りない、という訳だ。48年に始めたプロジェクトを完結させる時が来たと。

パラダイム崩壊に暴力で応えるイスラエルの傾向は西岸で特に顕著。イスラエル市民によるパレスチナ人への西岸での恫喝、加害、拘束、殺人が10/7以降急上昇している。10/7以降西岸で17の村が無人化されている。植民地化にターボがかかっている。

西岸でのパレスチナ人への殺人などの暴力が急増しているとアムネスティ

https://www.amnesty.org/en/latest/news/2024/02/shocking-spike-in-use-of-unlawful-lethal-force-by-israeli-forces-against-palestinians-in-the-occupied-west-bank/


パラダイム崩壊に対する可能なもう一つの対応。民族自決を要求するパレスチナ人の政治運動に対し、それを鎮圧するのでなく対話をすることでしか、本当の意味での安定は得られないと国際社会が気付くことだろう。イスラエルの責任を追及しアパルトヘイト解体する。しかし個人的にはそれが近い将来起こるとは思えない。理由は以下。

理由1。イスラエル社会は10/7日に何が起こったのか知らされていない。報道が規制され、政府メッセージにあそこまで偏りがあると、「暴力で、独裁政治で肩をつけよう」という動向に歯止めが効かない。イスラエル国内から変化が起こる可能性は非常に低い。

理由2。国際社会はいまだに失敗が分かっている二か国解決にすがりついている。(二か国解決についての解説はpart1に)「10/7の前に戻れればいい」と言っている。それでは根本的解決にはならないのに。


米国の反応

(バイデンから数日前ついにネタニエフに批判的な言動が出た。しかしイスラエル支援政策に変わりはない。国連の停戦要求条例案に反対し、国内議会の承認を得ずに弾薬をイスラエルに援助する。この米国の態度は今までと少しは違うのか?)

このバイデン政権の意見のシフトが政策の変化にはつながるとは思えない。アメリカのイスラエルへの政治的、経済的、軍事的の全開支援はこれからも続くだろう。

意見だけを少し変えた理由は以下。

国際社会、世論において米国の共謀性が日増しに明らかになっていることを憂慮している。もちろん国際司法裁判所の暫定判決(イスラエルはジェノサイドをしている可能性あり。そして米国はそれを止めない罪を犯している可能性あり)もあるが、米国内での政権相手の訴訟が注目された事もある。(「国際的な子供のための防衛」や「憲法権利センター」などの権利擁護団体がバイデン政権を訴えた。案件名Defense for Children International - Palestine v. Biden。バイデン政権がイスラエルのジェノサイドを支援した罪を問う裁判)



結果米国連邦裁判所は「管轄の違い」により案件を棄却したが、判事はイスラエルの行為がジェノサイドに値する可能性は非常に高いと言及している。民主主義国家である米国のその政権が、ジェノサイド加担の罪を国内で問われる事態になっている。4ヶ月間パレスチナ人の非人間化に勤しんできた。パレスチナ側の死者数発表を疑ったり、


現場の惨状に一縷の同情も見せなかった。それを今になってやっと恥じているように見える。

もう一つ、大統領選挙がある。

【*】ご存知の通り、アメリカの大統領選挙は直接選挙だが、各州にポイント(選挙人)が割り振られており、その州を勝ち取った候補がそのポイントを全取りするという選挙人制度が採用されている。要は、ニューヨーク州やカリフォルニア州など、人口の多いリベラル州で大量票差勝利してもあまり意味がなく、「ギリギリ勝てる州=スイング州」が選挙結果を左右する。ミシガン、ペンシルバニア、アリゾナ、ウィスコンシン、ネバダなどがそれ。

バイデンはミシガンを落とすことを恐れている。なのでリップサービスだけでもやってご機嫌を取ろうという訳だ。

【*】ミシガンは米国最大級のムスリム人口(20万人)を擁する。前回の選挙ではバイデンが勝ったが票差は1万5千。10/7以降のバイデンのパレスチナ人へのあまりの仕打ちに、ムスリム・アラブ有権者は怒り心頭だ。ムスリム票を獲得できなければ民主党はミシガンを落とす。バイデンは先日選挙キャンペーンでミシガンを訪れたが、ムスリム人口率一のディアボーン市長は「市のムスリムコミュニティーではガザに親戚がいる有権者が多数いる。政策で自分たちの親戚を殺すジェノサイドを支援している政権との選挙キャンペーンの話などお門違い。停戦を。」とインタビューに答えていた。


メディア

(ニューヨークタイムズ、CNN、、、米国のメインメディアはその親イスラエルの偏向を昔から批判されてきたが)

今SNSによって市民はメインディアを介さない情報にアクセスできる。そこが今回のイスラエル=パレスチナ紛争の一番違う所だ。我々は史上初めてライブストリームでジェノサイドを閲覧している。

その情報を得た時、メインメディアのイスラエルとの共謀性が浮き彫りになり、そのレベルの高さに人々は引いている。MSNBCからはあっという間にムスリムのニュースキャスターが降板させられたし、イスラエルのプロパガンダがそのまま流された。メディアでのパレスチナ人の声の遮断は、はっきり言って見ていて辛かった。メインメディアの偏向の対処としてSNSが重宝された。


西岸

(10/7以降、西岸で累計380人のパレスチナ人が武装入植者やイスラエル軍に殺害され、7000人が理由も告げられずadministrative detentionとして逮捕・拘束されている。以前も同じようなことが起こっていたが急激に加速した。ジェニンでは医者に扮装したイスラエル兵が病院に潜入し患者を暗殺した。)

収奪、恐喝、威嚇、入植者の暴力が西岸で急増している。バイデン政権は加害者の入植者数名に経済制裁を与えると発表した。

この対応を前例ない素晴らしいものだという人もいるが、根本的な所が間違っている。入植者の暴力は個人のものでなく構造的なものであり、この運動の頂点には政府高官がいる。末端の加害者だけを糾弾し、一方でこの政権に膨大な経済支援をしているのでは本末転倒。西岸の植民地主義暴力はイスラエル政府の政策である。個人や独立した暴力団体が独自にやっているものでない。

https://www.nytimes.com/2023/11/05/us/politics/israel-us-weapons-west-bank.html
【*暴力扇動の罪で有罪になった事もある極右安保大臣のベン=グヴィルはイスラエル市民の銃所持規制を大幅緩和、アメリカから武器を大量購入、市民に配っている。】

そしてこのような暴力がイスラエル国内右派の問題であり、ネタニエフすら排除できればよい、といったような甘い認識は間違い。48年以降、入植を「どこかで止める」などという世論は生まれていない。イスラエルという国は入植型植民地運動が基盤でありその政策はずっと続いてきた。


希望

起こっている暴力の規模が尋常ではないので希望を持つことは難しい。しかしパラダイムは移行した。

10/7以前のパラダイムとは「誰もパレスチナのことを語らず、パレスチナ人はずっと殺される。」

これが、パレスチナ人の苦悩の根本の理由を多くの人が語るようになった。植民地主義、ジェノサイド的暴力行使、民族浄化、入植型植民地主義としてのシオニズム。。。。これらが見えていたのは今までパレスチナ人だけであったのが、10/7により壁が弾け飛び、米国の一般プラットフォームで語られている。

この破裂はパレスチナ=イスラエル問題の公正を語る上で大きな変化をもたらすだろう。

私は今NYに住んでいるが、草の根運動の力強さに感銘を受けている。多人種、そして超世代の活動家たちを見ていると、時間はかかるだろうが変化は必ずくると思える。


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