ガザ、解説。part 1
“Hamas Contained: The Rise and Pacification of Palestinian Resistance.”著者のTareq Baconiインタビューが包括的でタイムリーで、更に私にとって新たな見解も提示してくれたので2パートに分けて抄訳します。
背景
ラファはガザの南端のエジプト国境の街。
4ヶ月間ガザ全土で「ここは爆撃する。南へ退避せよ。」とのイスラエル軍の警告に従い避難したもう何処にも行く場所のないガザ市民140万人がいる。そこを毎日のように空爆するイスラエル。ガザ北部から侵入したイスラエル軍は南に侵攻を続けており、ラファにも地上侵攻をする意図をちらつかせている。
これまでガザの死者、発表されているだけで28000人。数えられていない瓦礫の下の犠牲者は数千人。死者のうち12000人が子供。人口の80%が住居を追われ人道危機に直面している。
人口1/4が飢餓状態、記録される限り史上最大の食糧難。ガザの大半はあまりの破壊にもう人が住める状態では無い。
イスラエル首相ネタニエフはそれでも「ハマスへの完全勝利まで武力行使をやめない」と誓う。
エジプトはパレスチナ人の入国を防ぐため国境に有刺鉄線をはり戦車を配置する。
米国大統領バイデンはイスラエルのラファ侵攻に難色。10/7以降米国がイスラエルに批判的になるのはこれが初めて。しかしそれもリップサービスで政策上では今までと何も変わっていない。何も紐がつかない経済的・政治的支援に変わりない。
1月末、国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルに集団殺害防止の暫定措置を命令。更に今回のラファの攻撃もその範疇にあり、「イスラエルはジェノサイド条約と暫定措置を守る義務がある」と2月中旬に改めて強調した。
以降バコーニ氏の解説。
これまでの経緯
ラファの状況は「人口移動(population transfer)」の文脈で見る必要がある。イスラエル政権の大きな目標で、イスラエル全土でユダヤ人の多数派支配を達成する事。「ハマスへの攻撃のため、退いてくれ」との名目で市民を移動させて来た訳だが、実の目標は人口移動そのものである。戦時のどさくさ(fog of war)に紛れて人口移動を決行するため、イスラエル軍がラファに地上侵攻する可能性は非常に高い。それで140万人のガザ市民を人口移動するとなると、1948(イスラエル建国時)のナクバのほぼ二倍の規模の人口移動となる。
米国含む国際コミュニティーはイスラエルの地上侵攻を支持しないと表明しているが、それはリップサービスであり、実際はイスラエルを100%支援している。イスラエル政権はラファの難民をガザ内の他地域に移動する意図も発表しているが何処まで本気で言っているかは分からない。
ガザ全土から140万人がラファに集結していると言うが、大体彼らは元々現イスラエルから住居を追われガザに移った難民だ。75年間ずっと家に帰れず次々と移動させられている。
植民地主義により隔絶されたガザ
ガザ地区にあるガザ市。現在もう破壊され無人となったが元パレスチナ(現イスラエル)からあった都市の1つ。ハイファ、アクレ、ラマラ、ヘブロン、などと同様の都市だった。
イスラエル建国(1948)に際して先住民の大多数(75万人)は民族浄化された。そのうち多くはガザ地区へ追われた。現在ガザの人口は約240万人、その2/3は現イスラエルとなっている地域で住居を追われた難民。
2006年にガザでハマスが政権を握ったため、ガザの隔離が始まったとの間違った理解が浸透しているが、本当の所は1948年の建国時からガザはイスラエルにとって悩みの種であった。ガザはイスラエル建国以降12度の戦争をイスラエルから仕掛けられている。要人暗殺、経済封鎖、スパイ介入など様々な方法でガザ市民の「家に戻りたい」と言う希望を鎮定して来た。
後のハマスの台頭は都合の良い建前の理由(国防)になったが、ガザの封鎖は基本的にイスラエル全土でのユダヤ人多数支配が理由であり、それは建国からの目的である。
ガザの破壊
(10/7以降のイスラエルのガザへの空爆は近代史上最も苛烈なもので、人の営みの全ての側面、家屋、教育機関、医療機関、ベーカリー、農地、上下水道などが破壊された。今日停戦があったとしても、ガザはもう人の住める場所では無くなった。これに関して。)
現状はシオニズムの論理的帰結。パレスチナ人の排除。これはシオニズムに限ったことでは無い。すべての入植型植民地活動は同様にジェノサイドを行う。新しい現実を創造するためだ。生きたパレスチナ人を消去する。もし明日停戦があってももうパレスチナ人が戻る場所は、無い。2007以降の17年の封鎖で、10/7が起こる前から国連は「ガザは居住不可能になる」と予測していた。ガザに入る食糧・人道支援・燃料はイスラエルに完全管理され、崩壊ギリギリの量しか通さない。成長を許さず、殺さず生かさず。青空監獄の状態だった。
パレスチナ人をギリギリ生かしておく事で保たれていた均衡が10/7に壊れた。そうすればイスラエルとしてはパレスチナ人を抹消するしかない。それは数万人単位の殺人でもあるがそれ以上に「ガザでのパレスチナ人の生を不可能にする」ことである。今停戦しても、飢餓と疫病で更に死ぬ。そうして「ここでは生きられない」と残りのパレスチナ人が「自主的に」去る。自主的に去ったのだからイスラエルは責任を取らなくていい、という訳だ。
ジェノサイド、の目的は「何人殺すか」ではなく、その結果「ある民族をそこからすっかり消去する」ことである。
ハマスの内情、停戦交渉、ネタニエフのエンドゲーム
(停戦交渉においてハマスの提示した条件---3段階の人質交換---に対しネタニエフは「あり得ない。ハマスに対しての完全勝利でしか戦争は終わらなせない」と宣言。ハマスの意思決定は誰が行っているのか、ガザ内のリーダー、パレスチナ外のリーダー、様々なブランチがあるが。)
ハマスは「シュラ」アプローチで意思決定をしている。
ガザ、西岸、イスラエル監獄内、国外、それぞれのブランチのリーダーが話し合い民主的に案件を決定していく。なので非常に時間がかかる。しかし一度決定されればすべてのブランチはそれに従うようになっている。
もちろん10/7以降ガザ内ブランチとの連絡は困難になっておりこのアプローチが難しくなっていると予想されるが、ドーハ(カタール)ブランチ受け持つ停戦取引で、彼らの提示するカウンターオファーはハマス全てのブランチの承認を得ていると言っていい。
ネタニエフは「ハマスの殲滅」を掲げるが、ハマスに詳しいアナリストの大半は「不可能だ」と最初から言って来た。組織を崩壊させたとしても、ムーブメント、イデオロギーが消え去ることは無い。それは圧政を受けるパレスチナ人の政治的要求であるからだ。
(因みに米国諜報機関によるとイスラエル軍はハマスの戦闘員20ー30%しか倒せていない。)
なのでこの不可能な「ハマスの殲滅」というゴールはジェノサイドの隠れ蓑であると理解した方が良い。
国際司法裁判所の「ジェノサイドの可能性あり、本格的な調査に入る」との暫定措置判決を受け米国は「何がなんでもイスラエル支持!」から「パレスチナ市民の安全は確保するように!」と態度を多少変えている。これは米国が自らのジェノサイド幇助の批判を恐れているからだろう。4ヶ月間イスラエルを無批判で言われるままに大量軍事支援をして来た。今になって「イスラエルが勝手にやってる事だ」とでも言いたいようだ。そしてそれはただの体裁であり、政策として大規模経済軍事支援に変化は無い。
二か国解決
(米国はサウジなどと協力してこの紛争後、パレスチナ地区の確保ーーいわゆる二か国解決、の再構築を提唱している。)
二か国解決をまたやろうとしているのを見るのは、30年間の大失敗を早送りで再度見ているようなものだ。「パレスチナ独立地区」など不可能なことは明らかだ。
パレスチナ人を一つ所に集める。そうするとそれがどんな形の境界線であれそのシステムはイスラエルによるアパルトヘイトの礎になる。人口構成操作、パレスチナ人排斥の正当化、ーー現在の西岸地区がそれだ。だから「二か国解決」とは言い換えれば「イスラエルのアパルトヘイトの合法化」である。どんなアパルトヘイトだったら国際社会に認められるのかを模索しているに過ぎない。
想像して見て。東エルサレムを首都にぐるっと囲んでさあそこをパレスチナ にしましょうと決める。その瞬間からイスラエル側から条件が色々出される。その国は軍隊を持てない。その国は国境のコントロールを持てない。などなど。そしてあっという間にそれは「国家」ではなく国境をイスラエル側から軍事的に制御された「地区」になる。
なので二か国解決の焼き直しは過去30年間の失敗の使い回しに過ぎない。
大体ネタニエフ政権は「パレスチナ国家などあり得ない」と公言しているのだ。国際社会は「そうは言ってるけど真意で無いはず」と政権の真意を批判する事なく体面取り繕うだけの二か国解決を提唱する。ネタニエフ政権は入植活動をフルスピードで行って来た。西岸入植者は100万人近く、ガザ北部はもう人の住める土地では無い。この政権をして、「パレスチナ国家」ができるというのは世迷言。
では国際社会はどうすればいいかと言えば2点。1ーイスラエルのアパルトヘイトを正当に取り締まること。2ーパレスチナ人の自己決定権を保証すること。
(パート2に続く)
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