“愉快なオトナたちのリアル講義”〜西尾大介〜✠
高校生によるオトナたちへのインタビュー第6講
器用貧乏を超越し、マルチタスクを発揮し続ける”マスタリングエンジニア兼ミュージシャン”西尾大介さんによるリアル講義
ALOHAで自分を磨き続け、去年からPeach Peach Peachで腕前を発揮する西尾さんの思考を聴き解く今回のインタビューは〜西尾大介〜。音楽を自己完結させる稀有なプロフェッショナルの思考法をここに書き留める。
1,マスタリングエンジニア:Kirin🦒
ALOHAっていうソロユニットと、Peach Peach Peachってユニットで音楽を作ってます。あと、マスタリングエンジニアっていうのもやってて。
作詞、作曲、録音、アレンジ、ミックスを経て出来た音源を、製品化するために最終的な調整をするのがマスタリングエンジニアの仕事なんよね。それを去年から本腰入れて始めたところ。マスタリングをするために、自分の作業部屋を結構なお金を費やして大改造した。
ドラムは全部打ち込みでやってるけど、それ以外の声とかギターとかは部屋で録ってて。今は、大体の音を部屋で完結できる仕組みを作って音楽を作ってる感じ。
2,悔いなき選択ト臥薪嘗胆
もともと小学3年生から大学2年生までは、ずっとサッカーをやってて。高校1年までアビスパ福岡に入ってて、プロを目指してた。でも、挫折しちゃって諦めて。
そういえば自分の通ってた高校の軽音部の1個上に、椎名林檎先輩がいて。放課後、学校の渡り廊下とかで歌ってたんよね。部活終わりに下から眺めてて、歌い終わると拍手して。今思うとすごい環境よね。
その頃、高校の文化祭で軽音部でもないのに、軽音の友達から歌ってって言われたんよね。音楽好きだし、やってみるか〜っていう軽いノリで引き受けて(笑)。それが始まりだったかな、音楽をやることになったキッカケは。
それまで音楽の道なんて考えたこともなかったけど、大学に入ってから、周りの音楽仲間たちがメジャーデビューしだしてから意識し始めたんよね。教師になろうと思ってたけど、自分で何かをやってる方が教えるより性に合ってるような気がして、音楽活動を続けてた。でも、そんなにうまく行かなくて。ずっと中途半端な感じやったな。
やっぱり20年前はまだまだメジャーデビューが強い時代で、デビューしてないと周りの人たちからも認めてもらえなくて。それでも地道にずっと続けてたんよね。サンセットライブ(福岡・糸島の音楽フェス)に出たりもしたけど、それも地元枠って感じで出れただけで……。
このままじゃダメだ!と思って、29歳の時に東京に出ることにしたんよね。福岡も好きだけど、進化できない感じがして。
でも、上京してもあまりうまくいかず。それでも、もがきながら曲を作り続けて出したのが、ALOHAの2ndアルバムだった。
今振り返ると、何やっても地味だったし、まさに地道に積み重ねてきた感じかも。
3,そしてまだもがく:Multitasking
マスタリングエンジニアを名乗ってるけど、ALOHAとかこれまでやってきた活動の中で、作詞、作曲、録音、アレンジ、ミックスっていう作業も一通り経験してる。だから、曲を作る工程の一つひとつをある程度理解できてるっていうか。そういう経験もあって、自分がマスタリングエンジニアに向いてるんじゃないかと思ったんよね。
それもこれも、音楽に関してはもがきにもがいてきて、ちょっとずつやれることを増やそうと努力してきたから。もし売れてたらそういうこと全部やる必要もなかったし、意識もしてなかっただろうけど。結果、いろんな経験ができてよかった。
今も売れてるわけじゃないけど、裏方の仕事だけじゃなくて、活動のベースにミュージシャンとして表に立ってステージに立ってやってきたからこそ、マスタリングエンジニアもやれると思ってて。マスタリングだけを専門にする方もいるけど、作詞・作曲やアレンジとかをする人の気持ちもわかるから、自分ならもっと丁寧なアプローチができるはずだって。
もちろん、パソコン・電気とか通過しなくちゃいけない知識が本当にたくさんあるけど、普段からやってきた仕事もPC関係だったりして、意外と役に立ってる。
4,Peach Peach Peach
Peach Peach Peachができたキッカケは、もともと相方のヒロシと17歳の時から友だちだったからなんよね。高校で一緒のクラスにいたやつがヒロシとバンド組んでて、音楽繋がりで知り合って。
でも、ヒロシは22,23歳でメジャーデビューして東京に行っちゃって。自分がまだバンドもバイトもしてた頃に。
23歳でALOHAを1人で始めて、そこからメンバーが増えたり減ったりして、2011年にまた1人になった。5年前くらいからヒロシとたまに飲んでて。その時にヒロシが、「音楽やりたい」って言ってたから、じゃあ俺がトラック作るの手伝えるよって。
で、2021年の夏くらいかな。とりあえず1曲作ろうってなって動き始めた。「どうせなら一緒にやろう」ってヒロシが言ってくれて、1人より2人の方が楽しいよねってユニット組んだのが、2021年の10月。それが結成秘話っていうか。
どちらかというと自分がやろうと思って作ったものじゃなくて、サポートでやろうとして、意図せずできたユニット。
4,5年前まではただの飲み友だちだったのが、1年も経たないうちにMVまで作ったからね。やっぱり、予期せぬことが起きる状況の方が、自分をちょっとずつ高めてくれていってる気がするな。
中毒性がものすごいMV↓
5,友だち:AOHARU
去年の秋頃に、自分達でイベントをいくつかやったんだけど、そのうちの一つの福岡では、同い年の人を出演者にするっていう縛りを作って、お世話になったライブハウスで開いたんよ。その時に出てもらったDJも高校の同級生。175R(イナゴライダー)のSHOGOも10、20代のたぎってる時からの仲間。
大人になってからも友だちができたけど、高校の友だちが自分にとっては1番ずっと仲が良いね。地元に帰った時も一緒に飲むしね。
だから、濃ゆい青春時代に仲良くなった人を大事にしてもらいたいな。
6,変という他ない:KIDZⅠ
Peach Peach Peachの曲作りは、作曲は相方と2人で、作詞はヒロシに任せてる感じ。アレンジは話し合いながら。
MVにした『KIDZ』っていう曲のミックスは信頼出来る人に頼んでて。ある程度人の手が入ってた方が、客観性が出るかなっていう思いがあるから。マスタリングは自分でやる感じ。
お酒飲みながら作ってるから、あ、じゃあお酒の氷のカランカランって音を入れてみようとか、普段身の回りにある日常の音も入れようとか、そういうことをしてたから『KIDZ』は変な曲になった。
『KIDZ』に関しては、みんな普通っていう枠の中で窮屈になっちゃってる気がしたから、あえてそこをはずしたくて。元からあるキットでグルーブ作る必要もないと思って、葉っぱを叩く音、擦る音で代用できたり。とはいえ、全部変わったことをしても奇妙の度を越えすぎちゃうから、キックとスネアだけは既存のやつを使って。ハットの役割を刻んでるのは、鳥のチュンチュンていう鳴き声だし。
7,発想法:KIDZⅡ
作詞に関しては、”響き”を大切にしてる。最初はリズムに乗って、言葉にもなってない「ゥエラシャキユー」とかで歌ってみて、そこにヒロシがテキトーな日本語を当てて。”響き”をそのままに作ってるから、逆にいい感じになってるのかも。
たとえば、「カッサー」だったら”傘”ってつけたり。”響き”によってグルーブとノリが変わる。始めから日本語にしちゃうと、モッサリしちゃうから。なるべくモッサリしないようにって作り方かな。
Aメロのところで3,4個歌ってみて、じゃあ次はアフリカンっぽくとか、誰々っぽくしようとか、自由に。その中でこれがイイね!って選んでいって。
こんなふうに、自宅でリラックスして楽しみながら作れるのはラッキー。だから、最近はこのスタイルで作り続けてるんよね。
8,恩返し:Smart
去年開いたイベントのコンセプトは、自分達がお世話になった人たちへの恩返しが根底にあって。今まで手伝ってくれた人や、何度も行ったライブハウスへのね。
そうしようと思ったのは、コロナ禍でここ何年かライブハウスがかなり痛手を負ってたから。ライブハウス側がTシャツとかを売って、それを買ってもらえたらなんとか営業が持ちこたえられますみたいな動きがあったけど、Tシャツ全部買ったところで、自分も生活苦しいし。だったら、周りのミュージシャンにもお金がまわるような形で何かできないかなって。
コロナ禍の初年度は、国がアーティストに補助金を出してたんだけど、翌年からは個人じゃなくて団体のみが対象っていう縛りができた。でも、普通のミュージシャンは団体なんて入ってない。だったら自分等で作ろうと思って、仲間数人で任意団体を立ち上げたんよ。半分会社を作るようなもので、税金も手続きも負担が多いから、いろいろ難しいんやけどね。
書類書くのは時間がかかって大変やったけど、そこをなんとか頑張ったおかげでイベントもできた。国の制度はややこしいけど、利用できるものは利用すべき。
9,共通点:musician
去年は制作や補助金申請のあれこれで根詰めて動いたけど、今は一旦やるべきこともやれることも、一応やり切った感じ。
そういえば、去年は合間の息抜きに音楽仲間と定期的にバスケ始めたのも、いいリフレッシュになってたかも。
ミュージシャンって結構スポーツ好きな人が多い気がする。運動神経いい人多いし。演奏するのに筋肉とか運動神経が大事でもあるしね。
あと、意外と料理してる人も多いんよ。それもやっぱり音楽作るのと似てて。準備して、整えて、調理して。最後の盛り付けがマスタリングの作業、みたいな。
自分もたまに料理するけど、作ると頭がすっきりするし、割と好きな方かも。
コロナとかいろいろあったけど、去年からいい感じで自分のペースが出来てきたから、この先はさらに自分の経験を活かした制作をしていきたいなって思ってる。
10,ALOHA:コンニチハ&サヨウナラ
ALOHAっていうユニット名は、アーティスト「UA」の名前の由来を知ったのがきっかけ。UAには、スワヒリ語で”花”と“死”っていう2つの意味があって、一つの言葉に真逆の意味が含まれてるのがイイなーと思って。
それで、いろんな言葉を探っていくうちに、ハワイの挨拶「ALOHA」には、”コンニチハ”っていう意味のほかに、発音の仕方によっては”サヨウナラ”っていう意味があるのを知ったんよね。それでALOHAって名前に決めた。
11,影響
今の自分にすごく影響を与えてくれた、音楽家の三浦康嗣(□□□/クチロロ)っていう“親方”みたいな人と、20代の頃に出会ったんよね。いまだに音楽面で受けた影響は1番デカいかも。作ったものに対してボロクソ言ってくれるし、評価もちゃんとしてくれる。
最近はやってないけど、コロナ禍前は月1で三浦さんの家に集まって、テーマを決めて「作曲スタート!」で それぞれ曲を作ったり、歌詞に縛りをつけて書いてみたり。“作曲キャンプ”みたいな感じでやってたのが、今の制作にかなり生かされてる。だから本当に感謝してるんよね。
12,音楽観
自分と音楽の趣味がすごく合うっていう人は、そう簡単にいるとは思えないし、実際に数人しかいない。
ちょっと話せば「ああ、あれね」ってわかり合えたり話が弾んだりする人は、やっぱりそうそういないから。だからこそ、そういう人たちとの縁を大切にしたいって思う。
これまで触れてきた音楽を振り返ってみると、ジャズ、レゲエ、カリプソやブルースも通って……って感じで、どちらかというと結構土臭いところを辿ってきてて。そういうのがありつつも、Hip-Hopとか他の感じの音楽にも触れてきた。
音楽の中にはたくさんジャンルがあって、ずっとその道ひと筋でやり続けてる人もいる。一つのことに注力し続けるのは、ホントにすごいことだと思う。
自分はちょっとずつかじってて全部に深く入ってはいないけど、いろんなジャンルがミックスされてるのが好きなんよね。それが『KIDZ』にも表れてると思う。ちなみに、Hip-Hopでは音や歌詞を引用する文化があるけど、Peach Peach Peachの音楽は直接的な引用はしてなかったりして。
もちろん、言葉遊びで軽く固有名詞を引用するくらいはあるんだけど。
そういう点でも、Peach Peach Peachに関してはどこにも属せてない気がする。ある意味、目指すものがないってことが、自分たちの強みなのかもしれない。
13,Music Video:総力戦
聴くのも作るのも、ジャンル気にせずやってきたのが、今身になってる気がする。
でもそれは、売れてなかったからできたことなんだろうとも思う。
音楽を聴く時間も、暇な時間もいっぱいあったから。映画もマンガも好きだから、その間にかなり吸収してたしね。
特に映画鑑賞は、ミュージックビデオ(MV)を撮る時の考え方の糧としてすごく役立った。それもあって自分たちのMVにはこだわりたくて、感覚を分かち合える人に頼もうって、相方のヒロシと話し合ってたんよね。
今回、『KIDZ』のMVで監督・撮影を依頼したKohei Yonahaは、ヒロシが元々チェックしてた人で。彼の作品を初めて見せてもらった時、「あ、これ(北野)武だ!」って思ったんよ。棒立ちで無表情、静止してる感じとか、場面を切り替える時の撮り方も。
その感想をKoheiくんに伝えたら、「そうなんですよ!」って、3人で盛り上がってさ。そういうコアの感覚的な部分を共有できると、信頼ができていくんよね。ヒロシも俺も、これまで好きなものを楽しんできたことが、こうやってMVに生かされた気はする。
14,やりきりたいようにやりきれ!
みんな頭では分かってはいるんだろうけど、やりたいようにやったほうがいい。
強い意志で、「できる!」って狂信的に思い込むことから、まずは始めてみて。自分は今でも誰に評価されなくてもいいとなるべく思うようにしてる。
もちろん評価してもらえたらうれしいけど、別に業界的な評価じゃなくても、どこかの誰かに引っ掛かってくれたらそれでいいし。だから、大きな力や資本に頼らず、自分たちで制作から発信まである程度できる、インディペンデントな環境を作ったんよね。
だから、もし何かを作りたい・発信したいと思ったら、誰かに頼らず、まずは1人でやってみればいいと思う。
誰でも突然できるようになるわけじゃないから、いつまでもぶつかってくる壁と向き合い続けてる人だけが、日の目を浴びるんだと思う。
人に聴かせよう、魅せようと思うから変に丸くなっちゃうんだと思う。
尖ったままのマインドを持てば、意図せず本当に聴いてほしい誰かに刺さるはず。先が見えないのは怖いけど、周りの目は気にせず、やり切った方がいい。
15,リミッターを超えるのはどんな規模であってもヤバい奴らである。
何をやるにしても、想像の1、2コ上をいくと、自分も周りも納得できるものになる。
人の想像を超えてやってる人って、最初はヤバい奴だと思われるだろうけど、歳をとると結局気にしなくなるから大丈夫。だから、若さの勢いでみんなガンバレ!
若い時って元から軸が変で、青春エネルギーがみなぎってるから。そのままガンガン突っ走ってくべきだと思う。
てことで、
リミッターを超えていこ!
インタビューを受けてくださった西尾さんにここで謝辞を述べさせていただきます。
今回のインタビュー、通常の本では読めないようなマルチタスクな生き方を知れたのがすごいタメになりました。思い返してみると、今まで読んできた本では一つのことだけを突っ走ってきた人ばかりだったなぁと。でも、結局真逆の生き方でも紙一重というか。道のりは一本でも多数でもずっとやり続けるべきで、尖る必要があるんだね。今回も素晴らしい講義だった。
次のインタビュー記事も近日公開予定なんで、フォローよろしくね!
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