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円熟の果て。モダンと陰影の美

大衆は正義であるけれども

インスタグラムで人気の写真について批判をするほど、若くも愚か者でもない。大衆に人気のある作品は正義であると考える。長年、編集者をしていると、人気が出る写真の魅力には敏感になるし、そういう写真を撮っているスターの方とも接触する機会がある。

しかし、それはそれだ。
スターの中には本当にリスペクトできる方もいるし、そういう方の話を聞くのも好きだ。
しかし、それはそれだ。

恩田義則のその後と現在

もう一度、恩田義則(敬称略)について述べたい。恩田は「anan」「POPEYE」「Olive」などの雑誌のカバーやファッション・グラビアなどで人気を集めたスターだった。一時期は、書店の雑誌コーナーをジャックする勢いて、勢力を拡大した。

「LEON」のカバーなどでもやんちゃぶりを発揮していたが、その後、名前を聞く機会は減った。そんな恩田とひょんなことから出会い、話を聞いてみると、どうやら「水石」(すいせき)と呼ばれるアート趣味に傾倒していたらしい。水石とは河原に散乱・埋没している石を持ち帰り、それを「見立て」により愉しむ趣味である。見立てとは想像力を働かせて、その石の形状や質感に森羅万象を観る愉しみである。

円熟のなす、モダンと陰影の美

そんな水石という古風な嗜みを経たためか否か、恩田の作風にもより深い静けさが濃く満ちているという印象だ。とはいえ、70歳を超え、枯淡な風合いも滲む彼の作品は、インスタ映えとは隔たるが、相変わらずモダンでシャープかつ、独特の陰影が美しい。

先日、リリースした写真集”Hello / Goodbye”のことは、以前の記事で述べた。われわれは次作を模索している。すでに作品は揃い、ますます抽象度を増す恩田の世界観に魅了されている。

冒頭で大衆は正義だと言った。恩田もその正義の王道を歩いてきた人物だ。王道を歩いてきたからこそある、いまの作風に私はまぶしさを感じる。


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