角川武蔵野ミュージアムの印象

「角川武蔵野ミュージアム」見学記

我輩は先日、「角川武蔵野ミュージアム」を見学してきたのだ。2020年にオープンした所沢にある図書館・美術館・博物館が融合した文化複合施設なのである。そういえば昨年末の紅白歌合戦で、2人組ユニット「YOASOBI」がここからライブ中継していて驚いたな。
この建物は、新国立競技場の設計で一躍有名となった隈研吾が建物のデザインをしている。大地から巨大な岩石が突き出してきたようなユニークな外観が印象的だ。館長はなんと松岡正剛。「編集工学」の創始者であらゆる学問に精通した碩学の学者が、このミュージアムを企画し館長だというのだから行かねばならないのだ。
このミュージアムのコンセプトは「想像する。連想する。空想する。」。現代美術と文学、アニメやマンガなどのポップカルチャーを融合させたユニークな文化施設である。1階は「マンガ・ラノベ図書館」と企画展向けの「グランドギャラリー」、2階は「エントランス」とショップ、3階は「アニメミュージアム」、4階は「本棚劇場」がメインで、「荒俣ワンダー秘宝館」と「アートギャラリー」もある。5階は「武蔵野ギャラリー」となっている。有名なのが、4階5階と吹き抜けになっている「本棚劇場」だ。

まあこんな情報ならHPに載っているのだが、聞くと見るのでは大きく異なる。ミュージアムと銘打っているが、印象としては図書館。1200円のスタンダードチケットでは、図書館部分と小さな常設展しか観ることができないからだ。しかも3時間という時間制限付き。ゆっくりと企画展なども観るには、3000円の1DAYパスポートが必要となる。我輩はもちろん1DAYパスポートだ。京都国際漫画ミュージアム館長であり、妖怪研究家としても知られる作家の荒俣宏が監修した蔵書に、大いに興味があるからだ。
実際の館内の雰囲気は、シュートムービーを観ればわかると思うが、メインとなる展示の「本棚劇場」は迫力がある。ただ手に取れる範囲での本は、それほど珍しい本でもなく、分類もバラバラなので探しようもない。ここは、現実の図書館ではないので、目についた本を無作為に手に取ってパラパラと眺めるためのものなのだろう。1階のマンガ・ラノベ図書館の方は、ある程度分類されているので、じっくり探して読むようなコンセプトだった。ただマンガは非常に少なく、京都国際漫画ミュージアムとは比較にもならない。ラノベの方が充実しているのは、角川が運営しているからだろうな。なお、別料金の「アニメミュージアム」には入っていないので、内容は全くわからない。

最も印象的だったのは、実は企画展の「荒俣宏の妖怪伏魔殿2020」だ。ほとんどお化け屋敷の雰囲気なのだが、妖怪研究家としての荒俣宏の面目躍如たる展示だった。妖怪絵図はもちろん、「河童のミイラ」まで展示してある。さらに妖怪が出てこない妖怪作家である京極夏彦の本は、文庫本でも自立できるほどのぶ厚さを誇るが、その奇怪な表紙絵の一覧が素晴らしい。
我輩は平日に行ったのだが、事前予約制の割には入場者が少なかった。当日券でも簡単に入れそうだが、大半の入場者は「本棚劇場」止まりのようだ。企画展への入場者はほとんど誰もおらず閑散としていた。なお各階ごと入場時にスマホの入場用QRコードを表示しなければならないのが、かなり面倒。スマホがQRコードを保持してくれないので、毎回ログインが必要だった。まあ専用アプリではないので仕組み上は仕方がないのだが、最初にQRコードをスクリーンショットしておくのがコツだな。

我輩の見学記としての感想は、いかにも現代日本らしいコンセプトが面白かった。一昔前だったら大人が眉をひそめるようなマンガ・ラノベ・アニメ・妖怪・怪奇幻想ものなどのサブカルチャーを、ポップカルチャーとしてモダンアートと融合させようとしている心意気が素晴らしい。
歌舞伎や能、文楽や狂言などの日本の伝統文化は、現代でも生き残っているが、世界的みると稀有なほうだろう。今でも上演されている歌舞伎は、現代では古典芸能と言われているが、元々「かぶき者」とは派手な身なりをした異端児だった。そんな非行者を舞台に登場させたものが、次第に洗練されて歌舞伎になったといわれている。漫画も最初は子供が読むものだったが、やがてサブカルチャーとして定着し、今ではクールジャパンの代名詞にまで進化してしまっている。アニメ「機動戦士ガンダム」は生誕40周年を機に、18メートルの「等身大」で動く巨大ロボットとして、横浜埠頭に建造され大評判となっている。

文化は、人が生きていくために必須というわけではないだろう。文化は「遊び」の延長線上に生まれるものだから、生活に余裕がなければ育たないし続かない。世界の著名な美術館は、巨万の富を持つ大富豪が収集した美術品をどこもベースにしている。角川武蔵野ミュージアムも、角川の会長が設立したものだ。このような「不要不急」の文化施設こそが、これからの日本には必要なのだろうな。

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