あんずの花#2

居酒屋から出て、タクトと歌いながら、アパートへと戻る。

アパートへ戻ると、ミナツとハヅキとすれ違った。

「お、女子ーズもお出かけ?」

タクトが声をかける。

「そうそう。ソヨナとジョンファにお使い頼まれたの」

「へー。宅飲みでもすんの?」
僕がそう聞くと、ハヅキが
「それは、秘密です。」
とニヤリと笑って答えた。

「宅飲みだってよ。お前行って来いよ」

タクトがニヤニヤしながら、僕にそう声をかけた。

「なんでだよ、もう飲めないよ…。しかも、秘密って言ったろ…」

情けないが、僕はもう、飲めなかった。

ソヨンの前で醜態をさらしてはいけない。
そんな理性だけは残っていた。

でも、ソヨンには会いたい、という気持ちがある。

―悩んだ末、結局ソヨンたちの部屋にはいかなかった。

タクトから、「なんで行かなかったんだよ」とメッセージが来たが、既読スルーで対応しておいた。


翌日、職場でソヨンとすれ違った。

ソヨンは心なしか、しょんぼりして見えた。

僕が声をかけると、そそくさと通り過ぎてしまった。

何かしたっけなあ…と考えていたら、ミナツヌナが隣に来ていた。

「あ、ミナツヌナ、お疲れ様です。」

「ヌナって…。ここ職場だよ?」

「いや、いいじゃないすか。ヌナでしょ?」

そういうと、ミナツヌナは
「まあ、どうでもいいんだけどさ、そんなことは。」
と言った。

「どうしたんです?何か話でも?」

僕がそう問いかけると、ヌナは
「そうそう、それだよ。あんたこの頃、ソヨンと話してないでしょ?」
と、聞いてきた。

僕が
「まあ、そうっすねえ。機会がないんで…」
と答える。

すると、ぼそりとヌナから
「ソヨンが寂しがってるわよ。」
と聞かされた。

「とはいえ、機会がないのは事実ですし、声かけても逃げられちゃいますから。」

僕は笑って、そう答えた。
いや、苦笑いだったかもしれない。

「それは、「照れ」ってやつよ。あんたに話しかけられると、ソヨナはどうしても、照れちゃうのよね。」

そうなのか。

しかし、積極的に話しかけに行ったところで状況が変わるとは思えなかった。

でも、ミナツヌナにそれを言うと、ぶん殴られそうだったので、それを言うのはやめておいた。
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―その日は、職場で涼介とすれ違った。
声をかけられたけど、無視して通り過ぎてしまった。

最近は、涼介とほとんど話せていない。
仕事の都合やなんやかんやで、機会がないのだ。

でも、私は、涼介のことをもっと知りたい、もっと話したいって、そう思うようになっていた。

だから、この前の宅飲みの時は、少し期待をしていたのだ。

しかし、涼介は来なかった。
まあ、仕方がないのかもしれない。

その日はタクトと飲みに行っていたらしいから、さらに飲ませるのはかわいそうだと、私はあきらめた。
というよりも、誘わなかった、が正しい。

でも、宅飲みが終わってから、ミナツオンニ、ハヅキ、ジョンファ、イェジンには
「なんで誘わなかったの?二人っきりにしてあげたのに」と怒られた。

二人きりになっても、多分状況はあまり変わらない気がする。

お互いに逃げてしまうからだ。

逃げていては何も始まらない、そんなことはわかっているのに、嫌われるのが怖くて言い出せない。

でも、私はもう決めた。
今度こそ逃げない。

逃げ道をなくすために、ミナツオンニに頼んで、涼介にそれとなく、話をしてもらうことにした。

そうすれば、私も逃げないで、彼に真剣に話ができる、そう思ったのだ。


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