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古びた鏡

桜井健太は、古びたアンティークショップで一枚の大きな鏡を見つけた。鏡は美しい彫刻が施され、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。部屋のインテリアとして完璧だと思った健太は、その鏡を購入して自宅のリビングに設置した。

「これで部屋の雰囲気がガラリと変わるな。」

健太は満足げに鏡を眺めた。鏡に映る自分の姿もどこか新鮮に見えた。しかし、その鏡には何か不思議な力が宿っていることに、健太はまだ気づいていなかった。

ある夜、健太はリビングでくつろいでいると、鏡の中の自分の姿が一瞬変わったように見えた。驚いて目をこするが、再び鏡を見たときには元の自分が映っていた。

「気のせいか…」

そう思い直し、健太はそのまま眠りについた。

次の日、仕事から帰宅した健太は、再び鏡に目を向けた。すると、鏡の中の自分が微笑んでいるのに気づいた。しかし、実際の健太は微笑んでいなかった。

「これは一体…」

健太は驚きと恐怖を感じながら、鏡の前に立った。鏡の中の自分は、まるで別人のように動き始めた。

鏡の中の健太は、現実の健太に向かって手を伸ばしてきた。恐怖に凍りついた健太は、何とかその手を振り払おうとしたが、鏡の中の自分は強引に彼を引き込もうとした。

「やめろ!」

健太は叫んだが、その瞬間、鏡の中に吸い込まれるようにして意識を失った。

目が覚めると、健太は見知らぬ場所にいた。周囲は暗く、冷たい空気が漂っていた。彼は立ち上がり、周囲を見渡した。そこには無数の鏡が立ち並び、どれも彼の姿を映していた。

「ここは…どこだ?」

健太は恐怖と混乱に包まれながらも、歩き始めた。すると、鏡の中から囁き声が聞こえてきた。

「ようこそ、鏡の世界へ…」

健太はその声に導かれるように進んだ。鏡の中には彼の過去の記憶が映し出されていた。楽しい思い出や辛い出来事が次々と映し出される中、健太は自分の過去と向き合うことになった。

「これは…俺の記憶…」

健太は懐かしさと同時に、何か恐ろしい予感を感じた。彼は鏡の世界から抜け出す方法を探し続けた。

その時、彼の目の前に一枚の鏡が現れた。その鏡には、現実の世界にいるもう一人の健太が映っていた。鏡の中の健太は、不気味な笑みを浮かべていた。

「お前は誰だ?何が目的だ?」

健太は叫んだが、鏡の中の自分は冷たく笑っただけだった。

「お前の人生を乗っ取るためにここにいる。」

その言葉に、健太は愕然とした。彼は必死に鏡の中の自分を追いかけ、現実の世界に戻ろうとしたが、鏡の中の自分は巧妙に逃げ続けた。


健太は鏡の世界を彷徨い続け、様々な記憶や幻想に惑わされながらも、ついに一つの真実にたどり着いた。彼の人生には、常にもう一人の自分が存在していたのだ。鏡の中の自分は、彼の心の闇や欲望の具現化であり、ずっと彼を監視していた。

「お前は俺の一部だったのか…」

健太はその事実に驚きながらも、自分自身と向き合う決意をした。

「俺は現実の世界に戻る…。」

その瞬間、鏡の中の自分が不気味な笑い声を上げた。

「それはできない…お前はもう戻れない。」

健太はその言葉に怯えながらも、鏡の中の自分に立ち向かった。彼は全力で鏡を破壊しようとしたが、その瞬間、強烈な光に包まれた。

目が覚めると、健太は再び自宅のリビングにいた。彼は息を切らしながら周囲を見渡した。鏡は元の場所にあり、何事もなかったかのように静かに佇んでいた。

「夢だったのか…?」

健太はそう思いながらも、鏡に近づくことを恐れていた。しかし、現実の世界に戻れたことに安堵し、日常生活に戻ろうとした。

しかし、数日後、彼は再び鏡に異変を感じた。鏡の中の自分が、微妙に違う動きをしていることに気づいたのだ。まるで、彼を監視し続けているかのように。

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