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Amazonシンガポール上陸あれこれ

去る7月27日に東南アジア地域で初となる、シンガポールでサービスインされたAmazon。ポイントはPrime Nowのサービスだけをモバイルアプリ限定で提供してる点。いわゆる通常配送すら存在しないのは都市国家ならでは。配送は10〜22時の間の注文に限り、最速で1〜2時間以内を保証している。考えてみれば島の端から端まで車で1時間なのでさほど無茶している訳ではないのか。

(2017年8月21日時点)月額会費不要で、40ドル以上の注文なら送料無料。ローンチ直後には10ドル・20ドルのクーポンコードも配布する大盤振る舞い。

ユーザーにとって嬉しいのは配送オプションとして「不在時玄関前放置可」があるところ。一応一定額まで盗難保証ある模様。これは米国方式準拠と思われる。そもそもシンガポールは住宅・路上に夥しい数の監視カメラが設置されているので、荷物を窃盗するリスクの方が高すぎると、個人的には思う。しかし国民の多くが住むHDB(公団住宅のようなもの)であれば、各戸の玄関まで配達員が訪問できるものの、他方コンドミニアムの場合はロビーのインターホンで呼び出した結果不在であればその先に進入できないのでは?この点の運用を知りたい。

ところが、筆者がアプリをインストールした28日木曜日の朝から夜まで一度も注文可能状態にならず。これも東南アジアクオリティの平常運転か、と思いきや、想定を大幅に上回る注文が殺到し、処理不能になっていた由。木曜夜には早々に、日曜日に再度アクセスされたしとの案内が。これには現地紙もPrime "Now"なのに、全然Nowじゃないぞ、との風刺も。

土曜もやはり注文できない状態が続いていたばかりか、アプリにはDelivery is currently sold outという不可解なメッセージが。クーポンコードもいつの間にか使い果たされており、本当に翌日復旧するのか怪しい状況に。

Amazonは早速ドライバーの追加雇用を決定したと発表、素速い動きを見せるも、サービス再開を予定していた日曜日も結局カートに入れた商品は終日チェックアウトできず仕舞い。断続的に空きスロットが発生しては、それが一瞬にして注文で埋まる状態であったとのこと。

明くる月曜日になり、平日だったこともあって漸く注文可能に。他方で配達可能なスロットは4時間後以降。結局受け取り可能な翌日20-22時のスロットで注文。働く人は20時以降の夜間配達を指定できるのはありがたい。

翌日20:15ごろに商品が無事到着。配達状況をマップでリアルタイムで追跡できるのを見ると、スロット内の配達完了時間は西部Jurongの物流センターからの距離の依存する模様。

値段は格安スーパー以上、高級スーパー以下といったところ(現地でいうと、GiantとCold Strageの中間、Fair Priceくらいの価格帯)。当地では生鮮食品を取り扱うREDMARTや家電雑貨の取扱が多いLAZADAなどの競合ECサービスはあるものの、取り扱うジャンルの幅広さはAmazonに軍配か。

その後の記事を見ると、爆発的な需要に対応するため、Amazonは配達に民間のタクシーやウーバーの車両を利用していたとの報道が。確かに配送キャパシティが明らかに不足していたにもかかわらず、注文不能状態が解消したのは早かったといえば早かった。

なお日本の国交省にあたるシンガポールのLand Transport Authorityによると、タクシーやUBER, Grabの車両を貨物輸送に利用することは、配達員を「乗客」としている限りにおいては法規制に抵触しないとの見解。

日本では運送業者に価格交渉力を存分に振るうAmazonが、シンガポールでは割増料金(通常S$25→S$30/時)を払い、ライドヘイリングを使ってまでなりふり構わず荷物を届けるあたり、東南アジア初上陸に懸ける意気込みを感じた次第。

皮肉にもシンガポールのAmazonに訪れた「宅配危機」によって、昨今にわかに議論されている、シェアライドならぬシェアデリバリーの実証実験が期せずして行われてしまったわけであり、興味深い。UBERやGrabのドライバーもシンガポール国内で人を乗せるだけではパイも限られていることから、新たな「メシの種」にもなり得るのか。ただしAmazonによる今回のような配達員が同乗するような形でのライドヘイリングの利用は、輸送能力増強までの言わば緊急避難的措置であるため、当然ながら大幅なコスト割れなのは明白であることからも、持続的ではないとの見方が大勢。

一方でシンガポール以外の東南アジアの都市部では真っ当な交通状況の国など他に見当たらず、今後どのような形態でAmazonが各国に足場を固めていくのか、次の一手に注目したい。また代金決済に関しては、クレジットカードはおろか銀行口座すら持たない人々も東南アジアには多い中で、シンガポールのAmazonで対応していない、各種代替決済手段を提供できるかが、鍵となるだろう。その点は先日、日本にも上陸したアリペイ擁するアリババなど中国系に一日の長か。


以下所感です。

今回のAmazon進出を間近で見て、体験したことを通じて、ECはそのインターフェースやロジスティクスセンターなどのハードの構築の巧拙もさることながら、配送のラストワンマイルというソフト面が優劣を分けると強く感じた次第。それ故にシンガポールのようなインフラの整備された域内の先進国であっても、現場のサービスの担い手を新興国出身の移民労働者に頼っている以上、導入には相当に慎重だったのではないか。

シンガポールはITを活用したサービスやインフラは極めて便利で優れていると感じる一方で、人手に頼るサービスの部分は周辺新興国と価格の差ほどの質の差を感じられず、割高感が否めないことが多い。それは前述の通り、労働の担い手がシンガポール人ではないことにも多分に起因していると考える。

個人的にはまだ1回しか利用をしていないため、サービスの質について判断を下すことは避けるものの、その1回の利用体験が、「また使ってみよう」と思わせるには充分な感動を与えてくれた。他方で現在はお試し期間につき無料の会費が、今後一体いくらに設定されるのか、非常に気になるところ。そのプライシング如何では、需要がある程度間引きされることで、本来想定している機動性を存分に発揮する可能性もある一方、引き続き衰える事のない需要に配送が逼迫するのか、はたまた会員登録が伸び悩み閑古鳥となるのか、非常に難しいさじ加減になると想像する。




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