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チーズナン

今日も祖母と夕食を共にする。
祖母の家は東京から僕の自宅に帰る途中の駅付近にあり、持て余した部屋でよくくつろぎに行かせてもらっている。

祖母は滅多に料理をしない。
いつも昼の料理番組を見ながらレシピを必死にメモ帳に書き写しているからやる気がないわけではないんだろうけど。
案の定その日の夜も2人で外食をすることになった。

僕は本格インドカレーとナンを食べたい気分で、駅前にインド料理屋があるのでそこへ行こうという話になった。
21時過ぎに入った店内にはインドやネパール風の外人が3人いるだけだった。いくら平日の21時過ぎのとはいえそこそこ広い店内に他の客が全くいないというのは大丈夫なのだろうか。余計な心配をさせられる。
それでも店員は笑顔と片言の日本語で僕たちをもてなした。
席に案内され、メニュー表に目を通す。
居酒屋のような気になる一品料理が沢山目に飛び込んだが、少食な僕はあれこれ頼むことなく、ナンとカレーとミニサラダのセットを頼んだ。
祖母はセットに付いてくる飲み物をどれにするかで1番悩み、結局どこでも飲めるウーロン茶を頼んで、料理を待った。
こういう店のナンは大きくて食べ応えがあって時々無性に食べたくなる。

しばらくしてテーブルに料理が運ばれてきた。
すると目の前に出されたものを見て違和感を感じた。大きく薄く伸ばされたあの大きなナンではなく、ピザのように4つに切り分けられた黄色いナンだった。僕はそれがチーズナンであることがすぐに分かった。
店員さんは「チーズスキ?」と片言の日本語で僕に尋ねた。
僕の勝手な憶測だが、店員さんは客が全く来ない中、僕らが来てくれたのが嬉しく、他に客もいないので本来普通のナンを出すところサービスでチーズナンを焼いて出してくれたんだと思う。
そんな事を考えたら僕は「チーズが苦手」だなんて言えず、
「はい!」と笑って答えた。
それを聞いた彼は屈託のない笑顔を見せ、祖母は「よかったねえ」と僕にほほ笑んだ。
なぜか苦手なはずのチーズが少しだけおいしく感じた。

会計を済ませ僕たちは帰路についた。
僕はあの店でまた同じ注文をするだろう。
もしかしたら、チーズナンが出てくることを少しだけ期待してしまうかもしれない。



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