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スノーピークが見落とした中古市場が示したLTVの重要性。GDPに現れない個人流通が可能にする私的循環経済において企業が提供する便益は時間軸の観点を見逃すな。

企業活動において顧客との関係を時間軸で捉える必要性が増しています。
中古市場を充実させる仕組みを理解した上でプロモーションが何をすべきか、スノーピークを題材に考えましょう。


Z世代が気にするリセールバリュー


Z世代の登場は再販価格・リセールバリュー、再販を意識した買い物行動を後押ししています。

オンラインでの個人間の売買や中古リサイクルショップの充実などが背景にあります。

若者は買い物を控え、中高年が高額消費を支える――。そんな定説が物価高を背景に中古品市場では覆りつつある。19年と23年の12月を比べると、コメ兵の世代別の客単価の伸びは40歳以上でバッグが9割、時計が4割に対し、29歳以下ではバッグが3.2倍、時計が7割と中高年を上回る。

同社の調査で買い物時に全世代で「価格が安いこと」を重視する回答は減少し、Z世代で再販価値(リセールバリュー)を意識した買い物の機会が増えたとの回答は4割を超えた。諏訪弘樹・マーケティング部長は「Z世代は新商品を買う前に中古価格を調べに来る」と話す。物価の上昇はコストパフォーマンスの認識を安さから将来価値に変えつつある。

Z世代のコスパ変化 中古活況、安さより将来の買取価格物価を考える 好循環の胎動(2)

しかし中古市場の拡大は大事な経済指標でもあるGDPに寄与しません。

中古市場の拡大は、国内総生産(GDP)の増加にあまり寄与しない。それでも第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「個人の満足や波及効果などGDPが捉えない変化をもたらしている」と話す。

Z世代のコスパ変化 中古活況、安さより将来の買取価格物価を考える 好循環の胎動(2)

日経の記事でも取り上げられているリサイクル通信のレポートを読むと流通の仕組みの充実を背景に中古市場は大きく成長しています。


リサイクル通信 リユース業界の市場規模推計2023(2022年版)


リサイクル通信 リユース業界の市場規模推計2023(2022年版)

リサイクル通信が独自にリユース市場規模の推計を行なったところ、2022年の市場規模は前年比7.4%増の2.9兆円となった。調査対象とした2009年以降13年連続での拡大。新型コロナの影響で成長は一時的に停滞したものの、人流回復の影響もあり店舗販売(BtoC)の市場規模が1兆円を超えた。

リサイクル通信 リユース業界の市場規模推計2023(2022年版)


コスパやタイパ以上の価値が存在する

コスパやタイパという言葉に目が行きがちですが、個人売買や中古流通の充実により、自分が気に入った製品を手にするにあたり、新品や中古品という考え方が減っています。自分らしさが価値だったり、循環することが価値であったり、売買できることに加えて将来値段が落ちないことが価値になっています。

中古品の売却益が新品の購入を後押しする経済効果も明らかになってきた。メルカリ総合研究所の調査では、Z世代の63%が「売ったお金で欲しいモノを購入するため」に、フリマアプリを利用すると答えた。

リサイクル通信によれば、22年に2.9兆円と10年で倍増した国内リユース市場は30年に4兆円に伸びる見通し。リセールを意識した消費は自動車から日用品まで裾野が広がる。

長期的に価値が下がらない商品は、新品時に多くのお金が支払われる。メルカリと山本晶・慶応大教授の共同研究によると、再販時の価格が10%上昇すれば、消費者が新品に支払える価格がジーンズとタブレット端末で1500円前後、それぞれ上昇する。

山本教授は「物価高で中古品が見直され、値崩れしない商品は新品時に高く値付けされていく」とみる。

Z世代のコスパ変化 中古活況、安さより将来の買取価格物価を考える 好循環の胎動(2)

ライフスタイルを優先する私的循環型経済を考えるヒント


先日キャンプ用品のスノーピークの決算が発表されました。

スノーピークの2023年12月期連結決算は、売上高が前期比16.4%減の257億円、営業利益が同74.3%減の9億円、純利益は同99.9%減の100万円だった。売上高と各利益全てで業績予想を下回った。過剰在庫のアウトドア専門店が増えたことで、ホールセールが伸び悩んだ。国内全社員のベースアップなどにより、販管費も膨れ上がった。さらに国内既存店と米国現地法人の固定資産について、特別損失4億2800万円も計上した。

スノーピーク純利益99%減 キャンプ失速が如実に

その後、ベイン社によるMBOによる事業の立て直しのニュースも出ました。

株式の非公開化を検討し始めたのは、会社の業績や国内市場が想定を上回るペースで落ち込んでいることにありそうだ。市場関係者は「非公開化で仕切り直すことで国内事業を立て直し、コロナ禍前から力を入れたいと考えていた海外事業に集中したいからでは」とみる。

海外は中国と米国を中心に事業拡大を狙う。山井氏自身、19年から米国に移住して本格化させる構えだったが、コロナ禍の一時帰国中に急きょ社長に復帰することになり手が回りきれていなかった。米国ではキャンプが文化として根付き、日本より20倍以上の市場規模があるといわれている。24年3月には米国初の直営キャンプ場の開業を控える。

さらに、成長市場として重視する中国では、開業予定も含めて20店舗超を展開しており、大都市を中心に全土への出店を掲げる。富裕層を中心にキャンプ需要の開拓を進める。

スノーピークがMBO 1株1250円、米ベインがTOB


MBOについては日経新聞からも複数の記事が出ています。
微妙にコメントが違うのですが、以下の記事にはスノーピーク山井会長のコメントをもとにした気になる内容があります。

23年12月期の連結純利益は前の期比99.9%減の100万円と、事前の見通しから大幅に悪化した。売上高は18期ぶりの減収となる、同16%減の257億円。キャンプ好きの客層が多い直営店の売り上げは微増だったものの、エントリー層が中心の卸売りチャネルの売り上げが同37%減と大きく落ち込んだことが響いた。

スノーピーク、急成長のひずみ 初心者離れ在庫効率悪化

市場と顧客を読み違えていないと良いのですが…。

キャンプをする生活はライフスタイル


スノーピーク関連記事になりますが、キャンプ用品の中古マーケットが好調のようです。
コロナ・パンデミック環境で起きたブームが終焉したように見えますが、実はキャンプを体験したことで、キャンプの面白さに気づき、生活の中でキャンプを楽しむ人たちが増えているように読み取れます。

ブックオフ八尾永畑店スポーツ主任・井上朝日さんは「新品はだいたい売り上げが1割減ぐらいしたって言われてるんですけども、中古の市場に関しては逆に昔ブームの時に手に入らなかったものが今だったら手に入るっていうところもあって、だいたい(毎年)2割増しぐらいで(売り上げ)伸びています」と話し、中古市場から見ると依然としてキャンプ用品の需要が伸びていると言えそうです。

【キャンプブーム終焉か】大手メーカー「純利益99.9% 減」の衝撃 
中古市場は活況 ブームから定着へ

スノーピークは何を売っている会社だったのか?

スノーピークのミッションステイトメントです。

Mission Statement
The Snow Peak Way

私達スノーピークは、一人一人の主体性が最も重要であると自覚し、
同じ目標を共有する真の信頼で力を合わせ、
自然指向のライフバリューを提案し実現するグローバルリーダーになろう。

私達は、常に進化し、革新を起こし、時代の流れを変えていきます。

私達は、自らもユーザーであるという立場で考え、
お互いが感動できる体験価値を提供します。

私達は、地球上の全てのものに良い影響を与えます。


理念について

私達、スノーピークの社員一人ひとりが真北の方角へ向かうために最も大切にしていること、それは私達のミッションである“ The Snow Peak Way” の実現です。私達の事業の目的は、自然指向のライフバリューを提案し実現することです。私達は、私達が現在行っている Outdoor Life Value Creator としての事業、そしてこれから行っていく全ての事業を、人間と自然が豊かにふれあえる人生価値の創造ととらえ、徹底的にユーザーの立場に立った体験価値を提供したいと考えています。

スノーピーク HPより

こちらは同社のCSV(Creating Shared Value)

スノーピークの使命である

人間性の回復は、

地球の未来につながっている。

一人でも多くの人間性を回復する。
それこそがスノーピークのCSV。

スノーピークが考えるCSV(Creating Shared Value)は、私たちの使命である人間性の回復という言葉に集約されます。人間性を回復した人であれば、自然の大切さや未来への持続可能性に気づくことができると信じているからです。

私たちが提供するキャンプ、そして野遊びは、地球という惑星が育んできた自然がなければ成立しない事業です。

だからこそ私たちは自らの製品や活動において、常にサステナビリティを意識し、より良い未来に貢献しなくてはならないのです。

スノーピーク HPより

参考までにトップコミットメントはこちらです。

スノーピークの原点は、創業者山井幸雄の若い日の想いにあります。日本が誇る名峰、谷川岳を愛したクライマーだった幸雄は、命をかけて自然と向き合う歓び、ザイルで仲間とつながる幸福、その先に究極の理想社会を夢見て、山岳日誌に純粋な想いを綴りました。自然と人をつなぎ、人と人をつなぎながら、キャンプを中心に衣食住働遊へ領域を広げる私たちの活動は、その夢の実現を目指しています。私たちの理念The Snow Peak Wayは、こんな一文で締めくくられます。「私たちは、地球上の全てのものに良い影響を与えます。」責任ある重い言葉ですが、全社員がこの理念を胸に、日々活動を続けています。

スノーピーク HPより

CSVを読む限り、キャンプを通じて地球で生活することを享受する、そして顧客と共創する人間性の回復という価値を循環させていくことが彼らが販売しているものです。

価値の共創は売ってから始まるビジネス

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