見出し画像

クリームと文化

飼い猫が冬毛になりつつあります。こんにちは、Threebread店主です。今回は小さな素敵なお客様のお話です。随筆風に綴ってみました。


いつもパンを買いに来てくださる常連のお客様。そんな方との会話も店主の楽しみです。
その常連さんから、お子さんがスリブレのパンに挟んであるクリームが大好きで、クリームだけ販売してもらえないかと相談されました。

パンやお菓子に使われている素材で、このチョコレートが好きとか、このアーモンドの食感がたまらないってことはよくありますよね。どの素材にしても、作り手がなんらかの理由で選んだものが商品になっています。その1つのクリームのファンがいたことが、私にとっては思ってもみない朗報でした。

実はこのクリームはネットの情報から作らせてもらっているものです。パクリと言われてしまえばその通りなのですが、作り手のこだわりを述べさせてもらえるなら、ネット上にある数多のレシピから私のパンに合うと選んだクリームではあります。

目立ちすぎず、パン生地に寄り添ってくれて、それでいて主張もしてくれる、というと大袈裟に聞こえますが、選ぶ基準はそれなりにあります。
そのクリームのファンがいたこと、それがお子さんであることは、とても嬉しかったです。
クリームを通じて、パンのことに少しでも興味を持ってくれているのかと思うと、その子の未来の膨大な時間に想いを馳せる自分がいます。

Threebreadには、盛岡のパン文化の向上という壮大なテーマがあります。文化は人が作って育てていくものです。それができるのは若い人たちだと、大人になって随分たった私は強く思うようになりました。
ハード系、食事パン、風味や味の強いパン。今の盛岡に足りないパンたちです。一人一人に大きなきっかけはなくても、そんなパンたちがなんとなくそこにあって常識になるのが私の夢です。

1人の人間ができることは限られていますが、もし私の小さな願いの種が誰かに渡せるのであれば、結果がどうあっても、今私が懸命にパンを作っている意味が生まれるのかなと思います。それは大きな人間の歴史の中の点みたいな出来事ですが、きっと大昔から人々が紡いできた営みなのだと思います。

とにかく、お子さんに興味を持ってもらえるのはとても嬉しい出来事です。


私が高校生のとき、司馬遼太郎さんの『21世紀に生きる君たちへ』という随筆に出会いました。あの時は託される側で、読み終える時には大変緊張していた思い出がありますが、今は託す側の気持ちも少しづつ分かり始めています。
お子さんや若い方が大人になった、その記憶の隅っこに私の作るパンの思い出があれば、もうそれ以上望むことはないのかもしれません。

もう少し、というかまだまだ自分の技術は磨いていくつもりです。文化を作れるかは分かりませんが、色んな世代の方に食べてもらえるようなパンを作っていきたいと思います。
ウチのパン、お子さんのファンも多いんですよ。もっとたくさんの方に届きますように。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?