初めての、初めてを
ふと横を見ると、腑抜けた顔の彼が寝ていた。
昼間には映画を観て感想を言い合ったり、ハンバーグが美味しいことに感動したり、予想以上の多さの人通りにこっそり腕を組んで歩いたりした。そして今、彼が横で寝ている。
次の日には2人にとって初めての大喧嘩をすることになるなんて知る由もなく、彼はすやすやと寝ていた。明日には私にめちゃくちゃ怒られるんだぞ、そんなに腑抜けた顔しちゃって。そんなの知らないよ、とでも言っちゃいそうな顔して、彼は寝ていた。穏やかに、正しく寝息をたてて。
今年の秋に、私達は「恋人」から「夫婦」になる
これからたくさんの初めてが待っていて、良いことも悪いことも半分こしながら、人生を共に生きていくんだなあ、なんて思うと眠れなくなってしまった
ついでにものすっごい怖い夢まで見てしまって、
（追われて刺されそうになる夢なんだけど、調べたら実は吉夢なんだって！信じてるよ！！）
はらはらドキドキ、もう眠れる気は全くしない。
そわそわしてると、彼が目を覚ました
「眠れないの？」
「なんか、怖い夢とか見ちゃって。」
「ふぅん。」
ふぅんてなんだよ、ふやけてるなあと思ってたら急に引っ張られて、すっぽり納まってしまった。
「怖い夢、見たんでしょ。」
うん、と返事をする頃には彼はもう寝ていたけど、これも初めてのことだなあ。悪夢からの、突然の腕枕記念日。吉夢の予言は当たっていたのかな。
初めてのお買い物、初めての2人で引っ越し、初めての同棲生活、初めての両家顔合わせ、結納、初めての式場見学、結婚式、そして初めてだらけの2人の生活がここから始まる
2人だけのことじゃない。家族も友達も職場の人との関係も少しずつ広がって、変わって、ゆっくり築いていくんだろうなあ。
どんなことがあっても、隣で彼が腑抜けた顔して寝ているうちは幸せな気がする
だからずっとふにゃっとして寝ててね。おいしいもの一緒にいっぱい食べようね。いろんなところに行こう。たまには一緒に運動もしよう。いろんな映画を見て感想の言い合い大会を開催しよう。いつか子供ができたらたっぷりの愛情で育てよう。
そしてね、死ぬときは私よりちょっとだけ先に死んでね。私が先にいなくなったら、あなた寂しくて仕方なくなるでしょ。だからね、そこだけはお願いね。
言いたいことはたくさんある、だから
一生かけてゆっくり伝えていくからね
昼間一緒に選んだ指輪には、しなやかに咲く桜の枝のように、ゆるやかに、って意味が込められてた。ゆったりマイペースな私達にぴったりじゃん。綺麗な木目の指輪をずっと身に纏って、丁寧に暮らしていこう。
なんて、いろんなことを思っていたら、気づいたら私も寝ていた。人肌の安心感ってすごい。
朝がきたら、一緒に初めてを始めようね。