思い出の割れる音
何気ない日常のひとコマ。
昼食の準備をするために、たまっていた食器を洗っていた時だった。
落としたわけでもないのに、シンクの中で、グラスが1つ、割れていた。
同期がくれたペアのグラス。
同棲し始めた時から使ってきたグラス。
引っ越す時も大事に包んで一緒にここに来たグラス。
共に過ごし、時を重ね、あまりにも日常の景色に溶け込んでいたものが、壊れてしまった。
贈り主は、同期の中でもコミュニケーション下手で、誰かにプレゼントをするなんて最も苦手そうだったのに、とてもセンスが良く、もらった時はすごく嬉しかった。だからこそ、思い入れが強かったのかもしれない。
彼が辞めてからは音信不通になってしまっていたけれど、元気にしているだろうか?地元に帰ったと聞いていたが、今は何をしているのだろうか?
胸がざわつく。
ものは、いつか壊れる。
分かっているけれど、儚い。
大切に扱ってきたはずなのに。
音もなく割れてしまった。
思い出の割れる音はしなかった。
お気に入りの食器を使うことで、日常の中で、ちいさなしあわせを感じられる。そんな気がする。
グラスは他にも持っているし、割れればまた新しいものを買えば良い。
でも、それがいつかお気に入りのグラスになったとしても、壊れてしまった思い出のグラスにはかえられないと思う。
残された片割れの相方は他の誰にもつとまらない。
【18/100】
・お気に入りの食器を買いたい
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