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副業・兼業について考えてみた

昨今、労働力不足や働き方改革などの文脈で、副業・兼業が注目されているようです。

個々人の志向や状況に合わせて、それぞれの働き方ができる、ということであれば大歓迎ですね。
でも、それが「単に勤務先に座っている時間が短くなる」とか「人手が足りないからもっと働け」みたいなことになってしまうと、ちょっと違うのではないか、とも思います。


先に、副業・兼業がどうあってほしいか、言いたいことを出してしまうと、

・個人が能力・スキルをフル活用するため、人的リソースを解放して潜在力を発揮できるようにして、これらを通じて人生の充実を目指すことができる
・それが実現するように、社会の制度や会社の制度が整備されて、みんなの心持ちが変わっていく
・そして、それをテコに、よりフリー・フレキシブル、イノベーティブな世の中になる

ということなんですが、以下、もう少し詳しく書いてみたいと思います。


副業・兼業とは?

まず、
「副業・兼業」と並列した言葉として使われていますが、副業と兼業はどう違うのか、また、どんな共通点があるのでしょうか。

・定義
副業も兼業も、法律などで厳密に定義されている言葉ではないようですが、一般的には、副業も兼業も、

「本業以外の仕事、主な仕事以外に就いている仕事」

とされているようです。

両者の違いについては、
兼業は、複数の仕事への時間や労力の投下が、それぞれ同じか、それぞれが相当程度以上の割合を占めている場合、
副業は、本業への時間や労力の投下が圧倒的に多く、副業への投下はかなり少ない場合、

のような捉え方で、区別して使われることがあるようです。
(必ずしも、全ての場面で明確に区別されて使われているわけでもないようです。)

いずれにせよ、「本業」の存在が前提になっている、ということですね。

それ以外に、「複業」という言葉で、「本業」がない完全に並列で複数の仕事をしている場合を表現することもあるようですが、時間や労力の投下が偏っていないという点で「兼業」に近いかな、と思われます。

・副業・兼業の状況
ランサーズ2019年度版フリーランス実態調査(日経新聞掲載)によると、副業している人は434万人、複業(≒兼業と、ここでは捉えます)は281万人、合計で715万人くらい、ということです。
(調査方法は、手元にある2018年度版と同様と想定すると、株式会社マクロミルによるインターネット調査、回答者数3000人くらいのデータから推計された数字)

一方で、総務省統計局の速報数値によれば、2018年平均の就業者は6664万人です。

これらを考え合わせると、副業・兼業合わせて10%強の人が実行している、ということになります。
結構大きい数字ですよね。ちょっと予想外でした。

ただし、もう少し深堀りしてみると、
ランサーズ2018年度版調査によれば、副業・兼業のうち、本格的な感じのする「ビジネス、IT・クリエイティブ、コンサル・カウンセラー」は4割程度に止まり、「接客・作業」と「その他」を合わせて5割程度となっていて、アルバイト程度の仕事が多いような感じもします。
収入面からみても、副業の場合は年間10万円未満が5割、50万円未満でも7割を占めるなど、大きな収入金額になっていないのも、これを裏付ける形です。

違う観点から考えてみると、
生産物を販売している販売農家は、2015年度133万戸・340万人ということですが、うち7割弱程度は兼業農家(戸数ベース)です。そのまま人数に当てはめるとおよそ200万人以上が農業による「兼業」ということになります。
(キャノングローバル戦略研究所レポート、農林業センサスなど)

また、親から相続したアパートを経営しているサラリーマン、株式などの証券売買で稼いでいる会社員なども考えると、特に副業の場合、「週末や夜の時間をフル活用して、本格的にビジネスしている」というケースはさほど多くないのかもしれません。

ちなみに、パーソルキャリアによる調査では、年収800万円以上のクラスで副業しているのは1%程度に過ぎないようです。

副業・兼業で目指すもの

ところで、副業・兼業を推進して、何を目指すのでしょうか?
その先には、どんな生活、どんな社会を展望するのでしょうか?

・個人の成長、能力・スキルのフル活用、仕事人生の充実
一定の経験を積んできた個人は、その同じ組織の中では、新しい視野の獲得、社内スキルでない世の中一般のスキルとしての磨き込み、新しいワクワクする冒険の機会などが制約されがちです。
(もちろん、会社・組織によって異なりますが、このような傾向がしばしば見られます。)

また、個人の価値観も、その会社の視点を反映して固定化されていく傾向にあります。
ピラミッド構造の組織の中で、必ずしも自分の能力・スキル・経験をフルに活用できないポストに就くこともあります。

そこで、
副業・兼業の形で、個人の「仕事に向けるリソース=時間、体力、気力など」を、同じ組織への固定化・囲い込みから解放することにより、その個人の能力・スキルを世の中でフルに活かし、それを通じて更にスキルアップしていく、ということを目指していきたい、と考えます。
新鮮な気持ちで、新しい経験に向かっていくことが期待できます。

時間・労力をあまり投入しない、完全に「副」な「副業」もダメではないですが、このような、
仕事の仕方や会社と個人の関係を、時代に合わせて変えて、個人の能力・スキルをフル活用、自己実現の充実を目指す、
という観点では意義は乏しいのではないか、と思います。

・社会として
大企業に固定化している人材を、広く活用できる、活躍してもらえるようになります。

大企業、すなわち、ビジネスの仕組み、儲かる仕組みが確立されていて、機能別に分割された組織で、自分の部署の仕事のみをしてその部署で使うスキル・経験を蓄積していけばよい、という立ち位置では、もはやさほど高い能力は必要ないのではないでしょうか。

もちろん、大企業でも、会社全体を見渡して、新しい儲け方を試行錯誤しながら構築し、創造力と人間力を発揮するような仕事もあるでしょうが、それはごく一部のポジションに限られると思われます。

就職(就社?)して、基本的な技能を身につけ、機能別部署で相当のスキル・経験を積んだ一流の人材であれば、世の中に解放してもっと難しい仕事にチャレンジしてもらうと良いのではないでしょうか。

・会社として
副業・兼業を受け入れる企業(あるいはプロジェクト、その他の組織体)は、その個人のスキル・能力・労力を活用できる、という基本的なメリットに加えて、自社とは異なる外部目線や新しい考え方を導入することが期待できます。

また、本業側の「出すほう」の企業も、従業員が外部の経験を積んで、新しい目線を養ってくることによって、自社のビジネス・商品などを見つめなおすことができるでしょう。

イノベーションが「知と知の新しい結びつき」から生まれるとすれば、
出し手と受け手、どちらの側でも、
イノベーションが生起しやすい土壌への変革、1+1=2に止まらないシナジー効果、が期待できるのではないでしょうか。


副業・兼業が一般的になった仕事環境・社会環境とは?(妄想)

では、副業・兼業が普及して、一般的に多くの人が実行するような世の中はどんな感じになるのでしょうか、妄想してみました。

・時間配分パターン
副業・兼業というからには、本業との間で「時間配分」が必要になります。
具体的には、以下のようなパターンが想定されます。

①昼・夜など、一日のうちの時間で分割
残業は、次の時間帯に他業が入っていないときのみ可能になるでしょう。
②月・水・金と火・木で分けるなど、曜日で分割
その日はその仕事・その会社、別の日は別の仕事・別の会社、ということになります。
③分割せず、ミックスして運営
9~10時はA社の会議、11~12時はB社から請け負ったプログラミング、午後はC社の仕事で出張、などのようなイメージです。
B社のプログラミング中も、A社やC社の用件でメールを見たり(スラックに書き込んだり)するかもしれません。

・プロジェクト業務(付加価値管理型)と運営業務(時間管理型)
新商品の企画・開発や、会社・部門を立ち上げる仕事、システム開発など、プロジェクト的な仕事、働いた時間の長さよりもプロジェクトへのインプットの質・量で評価されるような「プロジェクト業務型」と、
事務に8時間従事して1時間に50枚、一日に400枚の申込書を処理する、受付に8時間座っていて来客をご案内する、など、時間×時給のような(厳密には、事務は枚数×単価もできますが)「運営業務型」では、
リソース配分の考え方も異なるでしょう。

プロジェクト業務型なら、業務内容にもよりますが、本業と副業・兼業で、時間も体力も、一日のうちでまだら模様にミックスして投入するようになるかもしれません。
それを実現するような、タスク管理・時間管理の仕方や、PC・ネットワークなどの環境、などが必要になるでしょう。
また、個別のプロジェクト・タスクに、都度、個別に人材をマッチングするための仕組みや、ギグ・エコノミー化の一層の進展も展望されます。
仕事の契約形態や、会社と個人の関係も、より一層多様化するでしょう。

~この辺りは、以下のリンクもご参照ください~
マッチングで世の中はだいたい決まる、上手く行く!<ケースごとの考察>

運営業務型なら、各業務の生産性向上・効率化により、それぞれの勤務時間・勤務日数を減らして、時間分割や曜日分割の時間配分によって本業と副業・兼業を遂行する、というイメージになるでしょう。

・役職や仕事のミックス
本業と副業・兼業で、いろんなミックスが考えられますね。これを妄想するだけでも、オープンで活性化した世の中、人生の送り方がイメージできます。

①A社では課長だけど、B社では担当者として従事
②C社では社長だけど、X社では派遣スタッフとしてプログラミングに従事
③D大学の教授だけど、バーのマスター
④E社では役員だけど、大学の研究室で修士課程に取組み中

また、一生の間でも、どんどん変わっていくことになります。
「LIFE・SHIFT」や「Innovation of Life」の世界に近くなりますね。

・PC・ネットワーク環境など
個人が持ち歩くPC(あるいはタブレット・スマホなどの情報機器)を複数の業務で使うようになることが考えられます。

その一つのPCで、働く複数の会社・プロジェクトのそれぞれの環境(A社環境、B社環境、Cプロジェクト環境など)がバーチャルに立ち上がるようにして、それぞれの環境のデスクトップ、アプリ、ネットワーク、ドライブ、バーチャル会議環境などが使えるようになるでしょう。

もちろん、複数のメールアドレス、複数の名刺を、各社ごと、プロジェクトごとに持つようになります。

・オフィス環境
業務内容にもよりますが、会社のデスクは「個人オフィス」的な位置づけになる場合も多くなりそうです。

特にミックス運営型の時間配分の場合、A社オフィスに居ながらにして、B社の仕事も遂行する、という必要もでてきます。
全ての会社のオフィスがコワーキングスペース、のような感じになるかもしれません。

・組織の再定義
運営型業務については、永続的な組織として運営していくのかもしれませんが、プロジェクト型業務の場合は、案件ごとにオープン・期間限定でスタッフを集めて運営することも多くなるでしょう。

そうすると、会社組織そのもの、ビジネスのための人の集まり方も、再定義したほうが考えやすくなります。

どこまでの業務を、その会社の中の組織で行うのか、あるいはオープンなプロジェクトで行うのか、自社のみに従事する職員として囲い込みたい職種・役割にはどんなものがあるか(そもそも、あるのかどうか)など、広く考えることがありそうです。

企画・開発は自社主導のプロジェクト型業務として期間限定でオープンに人を集めて行い、ローンチしたら運営型業務はその専業会社に任せる、
といったこともあるでしょう。

管理運営部門(経費処理、労務関連事務処理、ファシリティ管理など)は運営型業務として専業に任せる、人事・HR業務も、採用や教育はプロジェクト型、人事データ管理や給与処理などは運営型として、分けて考える、などなど、いろいろ考えられそうです。

また、そもそも論的には、このように副業・兼業が一般的になってくると、個人の一日の労働時間管理をどこか一社にやらせる、とか、どこかの会社で、大学新卒で入った社員を70歳まで雇用保障しよう、など、企業に何でもかんでもやらせるのは無理になるでしょう。

従業員は企業のモノでもないし、対等なアライアンス関係に近くなってくると考えられます。


止めどなく妄想が展開していきますが、このようにして、
・学びと働き、インプット・アウトプット、がもっと充実した、
・ナレッジの共有と流通がスムーズでイノベーティブな、
・時間・場所・体力気力の投下などについて、もっと自由な、

そういう世の中になっていくような気がします。


副業・兼業本格化への課題

ここまで、概ね楽しい話に終始していますが、
副業・兼業について、認識しておくべき点、注意点には、どんなものがあるでしょうか。

・副業=片手間ではないこと
まずは、「お金をもらってやる限りは、副業・兼業でも「業」でありプロでなければならない。片手間に適当な仕事をする、ということではない」
ということだと思います。
どんな仕事でも、それなりのノウハウがあります。それを身につけて付加価値をつけていくことが必要ですね。

また、Job Discription的に、各仕事の定義をしっかりする必要が出てきそうです。
ベテランだから課長、ということではなく、管理運営のスキルや人柄の要件について、組織ごと業務ごとの内容によって整理することになります。

・リソース分割であること
個人の持つ時間は一日24時間、年間365日と限られていることを考えると、結局は、仕事に向けるリソース(睡眠ほかプライベートへ向けるリソースを除いたもの)を、どの仕事に投下するか、ということです。

副業・兼業がなければ、全て本業に投入するところ、副業・兼業をする、ということは、リソースを分割すること、であることをちゃんと認識すべきですね。

個人としては、目的は何か、二兎を追えるのか、単に分散してしまうだけではないか、体力・疲労への注意など、考えてみる必要があります。

会社側にとっても、今までは自社の社員は副業・兼業などはせずに(一部、時間・労力をあまり投入しないような完全に「副」な「副業」は除く)、自社の業務に一日中、毎日、従事していたところが、そうではなくなる、というのはかなり革命的に運営が変わってくることになります。

上記の「妄想」にあるように、オフィス環境、PC・ネットワーク環境、組織運営なども変わってきますが、それ以外にも以下に記載するような根本的な変化が求められることになるでしょう。

こうなってくると、一社一社の努力だけでは足りないかもしれません。
お題目だけの「副業推奨」「働き方改革」というのではなく、これらも含めた全面的な検討と速やかな実施がインフラとして必要でしょう。

・就業規則
「副業禁止」については削除する、ということが一般的になりつつあるようですが、それだけでは十分ではないかもしれません。

「以下の場合を除いて、副業を認める」というなかで、その「以下」に、
「労務提供上の支障がある場合」
「職務専念義務が果たされない場合」
「企業秘密が漏洩する場合」
などと書いてあることも多いようです。

「出す側」の立場として理解できなくはないですが、運用によっては副業許容が骨抜きになる可能性もありますね。

プロジェクト業務型も想定すると、もっと踏み込んで、フレキシブルな時間運営やコミュニケーション運営も規則で明確にしていきたいところです。
また、それでも情報管理が一定水準以上にできるシステム面の手当てなども検討要ですね。ただ、最後は頭の中にある情報は止められないですが。

・労務管理
労働基準法など、一日、一月など通算で労働時間を一社で管理するようになっていると思いますが、これは難しいでしょうね。

法令上の手当をしたうえで、個人ごとの自己管理の仕組みを構築して、企業側の給与計算などの仕組みと連携させていく、ということだと思います。
健康管理、労務管理を全て一つの会社に期待するのは無理になるでしょう。

・給与、納税、保険
給与計算はともかく、納税や厚生年金・健康保険、労災など、個人が一社に所属することが前提となっている制度は見直しが必要になるでしょう。
そうした業務を担うビジネス・起業もあってもいいかもしれません。

・育成・教育
副業・兼業は、既にあるスキルの活用、トラックレコードやレピュテーションを持っている仕事、あるいはすぐにできそうな仕事、
というケースが中心と考えられます。

そうすると、そういうものが未だない若者はどうしたらいいでしょうか。

時代遅れになりつつあるかも知れない大企業の、一つの良いところは新卒の若者の教育機能にあります。
副業・兼業が普及して、自由な働き方が実現すると、企業はそれを自社だけで負うことは難しくなるかもしれません。

そうすると、世の中の教育システムも再考する必要がでてきますね。
よりビジネススキル寄りのスクールの実現、育成前提の雇い方(副業・兼業の受け手も含めて)、社内教育制度のトランスフォーメーション、オープンなビジネス資格の構築など、いろいろ考えることがありそうです。

・運営型業務のシステム化・簡便化・効率化
比較的定型的な業務(製造、非製造とも)については、ロボット化、RPA化・システム化を進め、また残る手作業についても、マニュアル化やツールの充実、習得方法も動画やVRを活用した洗練などにより、兼業スタッフが遂行しやすいようにしていく必要があるでしょう。


つらつら、「妄想」を楽しい面、厳しい面ともに膨らませてみました。

もっと楽しく、もっと充実して働けるように、そしてビジネスの付加価値、イノベーションが生起しやすいように、フレキシブルでフリーな世の中にしていきたいものですね。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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