「全知全能」は「無知の知」の極み
松田語録:LLMは世界を理解している2~2D画像から3D空間をイメージできる? - YouTube
帰納バイアスが、生物では環境適応で獲得した情報であるとなれば、漢字の意味では機能バイアスと書いた方が適しているくらいですね。機能バイアスを獲得する過程で帰納バイアスが作用する、という事態でしょうか。
自然科学的研究以前なら、カントの先験性哲学や、マックス・シェラーの人間学の論議の思考法に通じているとも言え、さらに古くはinclinatio naturalis自然的傾向性の論議における、法則、決定性、自由意志、…、そうした古代・中世の論議から続く問題になると思います。まさに「帰納バイアス」をアブダクションやアパゴゲーとして捉えていいのか、という問題に繋がると思います。
松田先生の仰る「認知バイアスの逆説」の極限を考えると、宇宙がエントロピーとネゲントロピーとの現象を示している状態の様であると思いました。散逸構造における自己組織化が情報を生成していく過程。 「0ポイント・エネルギー・フィールドとしての真空」の「ゆらぎ=差異=情報」、ここまでの状態は仮説理論だとしても、ビッグバーン以降の宇宙の生成過程は現状宇宙から推察される。電磁力・重力・弱い力・強い力というエネルギー様態の多様相化から物質の多様相化の過程が進展して天体構造の宇宙も現れ、その現象の中で生成された鉄などの物質を含めて生命現象も現れた。以後、分子作用で展開する生物細胞から電子作用を含んだ神経細胞も登場し、脳という構造が発生したというのは、現に在る事象です。
J.ホイーラーの「単一電子仮説」で示される電子のエネルギー状態、波動一様性と粒子固有性の様態を、E.シュレーディンガーも立脚する「知性単一説」の普遍知性と個体知性の様態に重ね合わせると、「宇宙の自己認識」の過程が「ノエシス・ノエセオス」として純粋・完全現実態エネルゲイア(エネルギー)の展開過程に結びついて理解されると思います。神学者はこの過程を「三位一体論」に表現しました。
その展開過程は宇宙自体が再帰・回帰性を示すとも観られることになり、ペンローズ宇宙観が想定されると思います。
先回のコメントにも書きましたが、今回の松田先生の「逆説」は、上で眺めた極論を知性・精神観で眺めると、上位の知性ほど本能的な反射・自律「認知バイアス」を持たず「帰納バイアスによる推理」もしないということになります。神学でもそれは理解されており、そもそも上位の知性は、そうした機能(能力)・作用(働き)を必要とする存在様態にないとされます。「ノエシス・ノエセオス」に近くなればなるほど、時空の運動様態は捨象されるわけで、「直知・直感・単純把握simplex apprehensio」の様態となります。 これは「初めに本能など遺伝的に(分子情報)で書き込まれている情報に当たるものなどは全く無く」、しかし「永遠の相において即ち決定論的に一切の情報を把握し、普遍的様態の現実態=エネルギーの働きを現す」、つまり「無からの創造ex nihilo creatio」という事態を想定させもします。「全知全能」は「無知の知」の極みでもあることになると思います・・・・。
追伸
静的な情報の側面から観想したプラトンはイデアに到り、動的な作用の側面から推論したアリストテレスはノエシス・ノエセオスに到りました。
イエスと同時代人のアレクサンドリアのフィロンもこうした思考モデルを『旧約』に編集された古い創造神話にすり合わせる作業をして世界創造の理解をしました。
A.D.200年代のプロティノスは「一なる故に全であり、全なる故に一である」ト・ヘン一者τό ἕνに、情報と作用を融合したという観方もできると思います。
こうしたイメージを人間知性は持つことができるわけで、ブラフマン‐アートマン・モデルの集合集積知の精神観や、単一電子仮説も単一知性説も、浮かんでくるのではないかと思います。
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