ヒョウたち Leoparden(レオパーrデン)

 動物を分類するための体系としては、動物界(ラテン語の学名:animalia)から下降して、「門、綱、目、科、属、種」という区分の仕方をする。今回のテーマであるヒョウ(豹)に絡めると、まずは、これは、分類体系の下から三レベル目の「ネコ科」に分類される。その上の分類のレベルである「目(もく)」は、「食肉目」となり、これに対応するドイツ語を直訳すると、「強奪動物」、日本語的には、「猛獣」という感覚で訳される名称である。さらに、「食肉目」の上位のレベル「綱(こう)」は、「哺乳綱」となる。これは、学術名では、「mammalia」であるが、ドイツ語名を直訳すると、「授乳する動物」ということで、鳥類や魚類などと同レベルである脊椎動物の一分類であるが、哺乳という特性を持つ動物ということになる。因みに、ドイツ語での、「食肉目」の中での大まかな分類には、「ネコ的な種類のもの」と「イヌ的な種類のもの」の二つしかないことも興味深い点である。

 さらに調べていて面白かったことであるが、ハイエナも「ネコ科」に分類される動物であること、ネコ科のさらに大まかな分類として、かつては「吠える」か「吠えない」かで区別される「大型ネコ」と「小型ネコ」の区別があるが、この「小型ネコ」に、プューマやチーターも含まれることであった。

 ヒョウに関しては、これは、もちろん「大型ネコ」に分類され、「百獣の王」と言われるライオンもこの部類に入るのは、当然として、他に、トラ、ジャガー、ユキヒョウがこれに数えられる。これらをまとめて、「ヒョウ属」と称し、学名では、「Panthera」という。形質学的および遺伝子学的研究によると、Panthera属の中では、先に、トラ種が分岐し、その後に、ジャガー、ライオン、そしてヒョウの順序で種が形成されたという仮説がある。そして、分子遺伝学の最近の研究によると、ユキヒョウは、一方でヒョウに近い親戚関係にあるという説があるが、他方では、トラに近いという説もある。

 それでは、ヒョウ属の中の「ヒョウ種」について説明しよう。ヒョウは、トラ、ライオン、ジャガーに次いで四番目に大きい「大型ネコ」である。ラテン語の学名は、「ヒョウ属のヒョウ」ということで、「Panthera pardus」であるが、棲息する地域などにより、さらに命名で補足が付く。学名で、「Panthera pardus japonensis」というものもあるが、これは、「豹」が日本に棲んでいた訳ではなく、中国北部に棲息している「中国」豹を指している。「豹変」という漢語からもこれを容易に想像できるのであるが、この「豹変」という言葉は、今は否定的な意味で使われているが、ウィキペディアによると、元々は、「君子豹変、小人面革(君子は豹変し、小人は面を革むる)」に由来し、豹変とは、豹の毛が抜け変わって、その後に鮮やかな花模様が現れることを言い、「君子」ならば、誤りを全く改めるのに対して、小物は表面だけしか変えない」という意味なのであるそうである。

 ドイツ語で「ヒョウ」に当たるのが、der Leopardで、これは男性名詞である。発音では、r字は、前のpa-と合わせて、「パー」と、あっさり発音してもいいのではあるが、もう少し細かく言うと、「ー」と延ばしている時に、喉の奥を狭めて、若干「枯らす」ように発音するとよりよい。また、単語の末尾の-dは、濁音ではなく、t音になるが、この単語が複数形になると、die Leopardenとなるので、この時は、-denは、濁音になって、「デン」となる。なお、普通の男性名詞Aで、「Aの~」となる時には、語尾に-s字が付くことが多いのであるが、この名詞では、複数形と同型の、Leopardenとなることも、この名詞の面白いところである。

 der Leopardの言葉自体は、元々は、古ギリシャ語のLeopardosがラテン語に引き継がれて、Leopardusとなり、ドイツ語に入ったものである。「leo」が、ジャングル大帝ならぬ「レオ」で、「ライオン」を意味し、「pardus」が「パンサー」を意味する。つまり、Leopardとは、「ライオン・パンサー」と直訳できるのであるが、実は、パンサーのドイツ語は、Pantherパンターであり、ドイツ語では、LeopardとPantherは、同じ意味の言葉である。

 では、LeopardとPantherは、どこが違うかと言うと、まず、アメリカ英語との関連で言えば、Pantherは、ピューマのことを意味する。また、Pantherという言葉自体が、ヒョウ属を表す学名「Panthera」から来ており、これは、古エジプト語では、ヒョウかチーターを意味したと言う。Pantherは、古代エジプトでは、太陽神的で神聖な動物であり、故に、ファラオは、その神聖性を身に付けるために、Pantherの毛皮をまとったと言う。

 さて、軍事史家に「Pantherパンター」と聞かせたら、彼は直ぐに第二次世界大戦中の、あのドイツ国防軍の戦車パンターを思い出すであろう。その軍事史家は、同時に「ティーゲル」のことも言い出すであろう。「パンター」や「ティーゲル」は、戦車の「愛称」なのであった。「パンター」は、今まで述べた通り、Panther、「ティーゲル」もドイツ語で、「Tiegerトラ」を意味する。昔は、音節の〆となるr字も表記化して、「ル」としたので、「ティーゲル」と書いたが、今であれば、「ティーガー」と表記・発音するところである。

 第一次世界大戦でドイツ帝国が協商国の連合軍に敗北すると、ドイツは、ヴェルサイユ条約体制の中、軍備が制限された。戦艦、Uボート、そして戦車などの兵器の製造は禁止されていた。ヴェルサイユ条約からの「自由」を唱えるナチス政権になって、再軍備が強化されると、ドイツ製の戦車の製造が早速始まる。第一次世界大戦中に、イギリス軍側から塹壕戦の膠着状態を解消するために1916年に初めて戦線に投入された「Tankタンク」は、ドイツ軍側に強烈な印象を与え、「戦車」の開発にナチス・ドイツは躍起になる。

 こうして、34年にはI型戦車の生産を始める。この「戦車」のドイツ語の正式名称は、「Panzerkampfwagenパンツァー・カンpフ・ヴァーゲン」であり、直訳すると、「装甲戦闘車」となる。Panzerとは、元々、中世の騎士の甲冑の胸当てであり、これを小文字で書き、語尾に-nを付けたpanzernという単語で、「装甲する」という意味の動詞ができる。Panzerwagenが、装甲車両全般を指し、Kampfpanzerで、日本語で意味するところの「戦車」となる。

 型式から、I型、II型まで来た段階で、III型に50㎜砲を搭載させて、対戦車用の戦車とし、IV型(その初期型)をIII型戦車を支援する戦車と構想する。こうして、機械化された装甲師団、略して「機甲師団」の発想が出てくるのであるが、これは、これまで、歩兵連隊の補助的武器と考えられた「戦車」を歩兵部隊から独立させ、その機動性を生かした戦車部隊を以って、敵の前線に「くさび」のように打ち込んで、敵の前線を突破する画期的な戦術に、さらに、歩兵自体も装甲擲弾兵として戦車の支援に装甲車両に乗せて機動させる方式を加味したものであった。ナチス・ドイツ軍が、第二次世界大戦初期における、ポーランド戦や対仏戦において圧倒的な強さを見せたのは、この機械化戦車戦術の採用にあったのである。

 V型戦車より、そのそっけない名称に付け加えて、いわゆる、「Suggestivnameズゲスティーフ・ナーメ」という、対国内外用のプロパガンダとして、その威力がイメージできる名称を国防軍の重要な兵器や新兵器に付けられるようになる。現在のドイツ連邦軍のサイトによると、それは、1942年のことと書かれてあるが、ウィキペディアによると、宣伝省大臣J.Goebbelsゴェベルスがその指示をしたのは、1944年のことであると言う。何れにしても、ソ連製戦車T-34に対抗すべく、75㎜砲を持たされたV型戦車には、上述の「Panther」の「愛称」が、また、対空高射砲88㎜砲を搭載した、57トンの重戦車、VI型戦車には、「Tieger」という「愛称」が付けられ、これらの戦車が、ネコ科の「猛獣」のイメージを持つべき、あるいは、与えるべきということになったのである。

 第二次世界大戦を敗戦で終えたドイツは、東西に分裂される。冷戦構造の中、1949年に相次いで成立した東ドイツ、西ドイツは、それぞれ、ワルシャワ条約機構、北大西洋条約機構(NATO)に組み込まれ、この過程で、再軍備化する。西ドイツで言えば、1955年に連邦軍が成立する。その成立の過程は、日本の再軍備化が、最初は「警察予備隊」、次いで、「保安隊」、さらに、「自衛隊」へと展開していったのとほぼ同様であるが、ユダヤ人虐殺などの重大な戦争犯罪の罪を歴史の重い十字架として背負うドイツ連邦共和国は、ナチス国家とドイツ国防軍との歴史的峻別にも厳しく当たらねばならず、連邦軍は、「議会軍」として位置づけられる。ここで何が連邦軍の、新しい「伝統」となるべきかが精査される。ゆえに、日本において、大日本帝国軍の旭日旗が、そのまま無批判に戦後の自衛隊に引き継がれるなどということはドイツでは考えられないのである。

 とは言え、戦車にナチス時代と同様にネコ科の「猛獣」の名称を付ける伝統は、連邦軍にも引き継がれている。連邦軍の初期にはアメリカ軍的な呼称がなされていたが、例えば、戦車に付いては、自国で1964年以降製造され、翌年に正式採用された、戦後第一号モデルに「Leopard」という呼称が付けられた。これには、105㎜砲が搭載され、その重量は、約43トンである。この戦車Leopard1(アインツ)は、2003年に完全に「退役」したが、それに代わって、1978年以来生産され、翌年から正式採用されているLeopard2(ツヴァイ)が、現在の連邦軍主力戦車となっている。この型式の戦車には、120㎜砲が搭載され、その重量は、62トンと、戦前のTieger並みの重量になっている。

 120㎜砲の破壊力、平均時速70kmの機動力、第三世代複合装甲の防御力と、戦車の三要点において、バランスが取れているとの評判を持つLepard 2は、約20ヶ国で採用されている。本戦車は、西ドイツで採用されて以来約45年が経ているが、これまでに、改良型(ドイツ語で「verbessertフェアベサート」)がA1からA7まで出ている。専門家によると、その中でもA4モデルが最良のものであろうと言われている。(ちなみに、「A」とは、Ausführung:仕様のことで、Loepard 2の、今の最新ヴァージョンは、「A7V」である。この型式のコンビネーション「A7V」は、歴史的な記号の組み合わせで、実は、1917年に開発された、ドイツ最初の戦車の型名がこれだったのである。イギリス側が戦車を極秘名で呼ぶために、水を入れる水槽Tankを語ったのと同様に、当時の「A7V」とは、「交通部門(V)第7課(A)」の略である。)

 その技術が開発された当初には物珍しかったものに、一旦射程に据えたら、戦車の車体自体が不整地を高速で移動しても、その的を外さないという技術がある。この技術を分かりやすく見せるために、120㎜砲の砲身にお盆を据え付け、その上に飲み口までビールをいっぱいに注いだビールジョッキを置き、その状態で、デコボコの不整地を数分間走って、戦車を止めると、戦車長が戦車から降りてきて、なみなみと注いであるジョッキを自分の手に取る。置かれてあったお盆には一滴のビールもこぼれておらず、それを確認した戦車長は、ほころんだ笑顔で、視聴者に向かって、「Prositプローズィット!」と乾杯して、ビールを一口飲むというビデオ・クリップが当時あったと言う。事程左様に、120㎜砲の命中度は高く、5km離れた標的でも100%の命中度であるという。ゆえに、当時のソ連のT-72戦車は、Leopard戦車一台に対して、三台で取り掛かるという戦術をソ連側では想定していたと言う。

 このような、ワルシャワ条約機構軍とNATO軍が実際に戦火を交えるという事態は幸いには起こらなかったが、2022年2月24日以来の、ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシア軍とNATO軍の代理戦争の様相を呈し、ウクライナ兵がNATO軍の兵器を以ってロシア軍に対抗するという図式が、開戦以来約一年が経つ23年2月の現在も続いている。

 今年23年の一月下旬には、回りのNATO国からウクライナにLeopard戦車を供与するようにと、「攻め立てられていた」ドイツが、遂に、USAが同様に重戦車をウクライナに送るという条件が満たされるという前提で、Leopard戦車を供与することに腹を決めた。Loepard2A6型の、戦車一個中隊分の14台をウクライナに送ると言う。さらに、二月上旬には、既に現役を退いていたLoepard1も、約170台をドイツは提供すると言う。「Leopardたち」が実際にウクライナに送られるのがいつになるのかは、未だはっきりしていないが、それが、春先となれば、ウクライナの大地はぬかるみとなり、戦車の、とりわけ重戦車の使用は難しくなる。となれば、あの、第二次世界大戦中の独ソ戦におけるドイツ軍の敗退を思い起こすのは、筆者だけではないであろう。

 同様に、戦車だけを前線に送り込んでも、戦争には勝てない。それは、ウクライナ戦争の緒戦において、ウクライナの首都キーウ北方において、ロシア戦車がウクライナ歩兵の対戦車ミサイル砲弾によって大量に破壊された運命を見れば明らかである。ゆえに、戦車は、第二次世界大戦当時の戦術の「機甲師団」の一部としてのみ、その効力を発揮するのであり、21世紀においては一層、制空権を確保した上で、あるいは、制空権確保が叶わなければ、せめてもの「対空防衛兵器」が必要である。

 その「対空防衛兵器」として、既に退役していた装甲車両ではあるが、ウクライナに送られたものが、「Gepardゲーパーrト」である。Gepardとは、訳して、「チーター」で、捜索レーダーを砲塔後部に、追尾レーダーを砲塔前部に備え付けて、飛行物体を追跡し、これを二挺の35㎜対空機関砲で撃ち落とそうとする兵器である。

 装甲擲弾兵の移動には歩兵装甲車「Marderマーrダー」が、ドイツからウクライナに送られた。Marderとは、食肉目という点では、これまでの名称とは同じであるが、それ以外は「ネコ的な種類のもの」とは異なり、「イヌ的な種類のもの」に分類されるイタチ科(テン属)の動物である。ドイツでは自動車のエンジン部分に入り込んで、その周りの配線を好んで食いちぎるせいで嫌われている動物である。

  この歩兵装甲車としてのMarderは、Gepard同様に1970年代に就役したもので、6名から7名の装甲擲弾兵を輸送でき、22㎜機関砲を一挺装備し、道路を時速約65kmで走行できる装甲車両である。このMarderの後継機種が、再び「ネコ的な種類のもの」から命名された「Pumaプーマ」である。ドイツ連邦軍では、2010年代からこのPumaへの移行が徐々に図られているが、開発に難航して、就役が22年12月に一時停止された。

 一方、主力戦車Leopardに付いても、後継機種が設計されており、それが、第四世代主力戦車として22年夏に発表された。その名称は、KF51 で、KFとは、ドイツ語で言う「Kettenfahrzeug無軌道車両」の略であり、このKF51に、「愛称」としての「Panther」が付けられている。ナチス時代の1942年に、主力戦車に対して最初に付けられた「イメージ名称」が、Pantherであったことを顧みると、「歴史は繰り返す」ではないが、80年後に、Pantherという名称が再び登場したのである。しかも、それは、安全保障のパラダイムの転換を促した22年2月のウクライナ戦争の勃発を以って、ドイツの連邦首相Scholzショルツが「時代の転換」を語ってから数ヶ月後のことであった。

 プーチン・ロシアがウクライナに勝たないためには、NATOからのウクライナに対する武器供与は必要である。しかし、供与される武器の性能が上へ上へと高まる、軍事の論理では、最初の援助品供与が戦闘ヘルメットであったものが、今では重戦車にまでなっている状況である。これは、冷戦時代の核競争と同様であり、さらに脅威・威嚇論では、日本でも現在かまびすしい、日本国憲法第九条第二項に規定されている交戦権の不行使に抵触する「敵基地攻撃能力」もしかり、結果的には、スパイラル効果を生む。このスパイラルに吸い上げられないためには、外交の優位、したたかな外交能力が必要である。

 ショルツは、SPDドイツ社会民主党出身であり、そのSPD党内左派には、平和主義勢力が強い。ゆえに、重武器供与には慎重であるショルツは、ドイツの国益を考量し、ドイツを含めたNATOがウクライナ戦争に引き込まれないようにしつつ、党内左派からの批判が出ないようにウクライナに武器供与を行ない、同時に武器供与でプーチンを追いつめて、ロシアに戦術核を使わせないようにするという、極めて微妙なバランス感覚が必要なのである。この意味もあってか、ショルツは、フランスの大統領マクロンと共に、プーチンとの、直接的な外交交渉の可能性を残していると言う。

 22年11月、ショルツは、中国を訪れた。彼が連邦首相になってからの表敬訪問であったが、これには、対ロシアへの牽制の意味が込められていた。その訪中に付いて、ドイツ国内では、権威主義的中国の、国内での人権侵害を容認するものであるとの批判がないわけでもなかったのであるが、この2022年の訪中は、また、中独国交樹立50周年を記念するものでもあった。

 翻って、日本も、この2022年は、日中共同声明発表50周年の年であった。筆者は、この年に現岸田首相が訪中したという報道を、寡聞にして、聞いたことがない。ナポレオン戦争との関わりで、その戦争論を実地で作り上げ、1815年以降のウィーン体制の中、妻の手を借りて、その著述を発表した、プロイセン王国軍の少将Carl von Clausewitzカーrル フォン クラウゼヴィッツ(1780 – 1831)は、「戦争とは、政治の単なる延長に過ぎない。但し、(政治とは)別の手段による。」と言ってのけた。とすれば、戦争もまた「政治」なのであり、対外関係であれば、「外交」であろう。つまり、戦争とは、戦時の「外交」であり、本来的意味での「外交」とは、平時の政治外交である。換言すれば、平時における軍備増強を唱え、平時の外交交渉を怠る政治とは、要するに、片輪の「政治」であると言わざるを得ないのである。

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