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Rational Choice?

DHCが出版業務をやめたことで,たくさんの書籍が絶版になるということに対して英語学習者らしい人たちが,色々とネット上で書いているのを見ましたが,自分の本が絶版になる状況下にあるのにそれほど共感する気にはなれないんですよね.こんなことを書いてよいのかわからないけど.

1つは基本的なレヴェルでの勘違いが多いからです.「創業からの…」という批判があったけれども,創業の翻訳事業は出版事業とはいちおう別です.過去は文芸翻訳などでDHCの通信教育講座の卒業生がここから本を出していたというのは結構あったようでしたが.それに,あの創業者は社にはいないんですよね.自分の本を出してくれるという話をもらったときもその人のことが頭にあり,正直ちょっと迷ったのですが,去年の11月だったかオリックスに買収されて経営トップの座から引きずり下ろされました.すでに執筆中だったので校正をしてくれたネイティヴの友達と「正直,あのアメリカかぶれの金融ブローカーみたいな人も好きじゃないけど,レイシストよりはいいかな」と話していたのを覚えています.

絶版になった本を食品や電気製品を買い取って別の店で売るような感覚で「他の出版社が引き取ってくれればいいのに」というコメントもたくさん目にしましたが,著者としてはそういうコメントを見ても勇気が湧くどころか,軽い苛(いら)立ちを覚えはじめました.でも,普通の人が出版のしくみについて知らないことは普通だし,もしかするとぼくたち著者もよく知らないから不幸な目に遭うのかもしれないと思い,著者・読者両者が少しでもそのしくみを理解することで不幸を減らせるのではないかと思い,記事にまとめました.だから,それはここでは繰り返しません.

もうひとつ気になるのは,DHC絶版に文句を云っている英語学習者の人の多くが一般的な日本人の基準からすればかなりの上級者であることです.そのレヴェルの人なら生の英語素材を自分が工夫した学習方法で教材にしていくことを考える段階に入っているのではないでしょうか.それに,その段階に達すると,ネイティヴ向けでも英語学習者(ノンネイティヴ)向けでも洋書でいいものがいくらでもありますよ.だから,とりたててその層に親切にする必要はないと,ぼくはそう思っています.

でも,残念ながら,あまりうまくはないけれどもすでに話せる人のためが洗練された表現を使えるようになるためのスピーキングの本や英語論文をバリバリ書く人のためのライティングの本やTOEICで900点以上の人が990点をとる教材がどんどん出て結構売れている.どちらかといえば,英語学習者が英語ユーザー(言語使用者)になるのをわざと妨(さま)げているような気がしてあまり肯定的には見ていません.逆に入門者・初級者・中級者向けには中学・高校の参考書の焼き直しみたいな本ばかりで,学校を卒業した社会人にはもう少し別の「やり直し」があっても良いのではと常々考えています.

今回絶版になるベストセラー『即戦力がつく ビジネス英会話』(ついでに云うと賭けてもいいですが,この本なりデイビッド・セインさんの『英語ライティングルールブック』なりは心配しなくてもどこかから復刊されると思います.騒がないで待っているか,今欲しいなら買えばいいだけです)を書かれた日向清人さんは,近年はビジネス英語ものよりも初級者対象の語彙の本を出しています.でも,今回のDHC出版事業撤退のニューズが流れる前にDHC以外から出ている単語関係の本(語研から出ているイディオムや句動詞の本は除く)は上(↑)に載せた去年復刊されたGSL本(ただ最初の版元からはGeneral Service Listに乗っている語ほぼ全てが収録されていたのに対してこれは最頻出の1000語です.残りを出すにはいまの本が継続的に売れていることが必要です)を除いてはぼくの知る限り,全部絶版になっています.ある出版社(いちおう情けで社名は出さないであげることにします)からたくさん出ていますよね.ご本人があまりにそこがひどいので出版権を引き上げたのかもしれませんが,でもこの本たちを英語学習者の皆さんは救おうという動きは全くないようです.少し残念だな,誰だって最初は初級者なのに,英語上級者って勝手だなとちょっと感じます.

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