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広田照幸(2019)『教育改革のやめ方』岩波書店

 っというわけで、「一日一冊主義」はあっけなく終わっていた九頭龍です。本1冊といっても、新書や実用ポエムから分厚い研究書までいろいろありますから、あたりまえですが1冊の内容の濃さも読むのにかかる時間もちがいますよね。なんでも一日一冊読めばいいってわけでもないので。

 それにつけても、最近の教員向けの、いわゆる「教育書」の薄っぺらさといったらないです。ツイッターで何千フォロワーやら自称教育系YouTuberらの出す本の、中身のないこと。 教育についての理念も信念も全くあったもんじゃない。M治図書・G事出版という教育書シェアの両雄の本が、とくにひどい。よく出版するよね。売れりゃいいんだね。まあ、チャラい教員著者も自分が売れたいだけだから、両者はWin-Winなんだね。っていうか、そういうチャラい本を買っちゃう全国の教員がいけないのですが。

 そうした中で、この本は、やさしい言葉づかいで読みやすく一日かからずに読めるのにもかかわらず、深く考えさせられるテーマが満載でした。

 本書には、

Ⅰ 中央の教育改革
Ⅱ 教育行政と学校
Ⅲ 教員の養成と研修

の3部に分けて、15の論考が収められています。1つ1つの論考は短めですが、それぞれ示唆に富みます。

 九頭龍が最も印象に残ったのは、
Ⅲー12 教員の資質・能力向上政策の貧困
です。「育成指標」については教職大学院で、各講義・演習についての細分化された項目についての評価等をやらされました。「教員養成・採用・研修の一体化」についても、いろいろ講義を聞かされました。それぞれ、ばかばかしくてたまりませんでした。なぜばかばかしさを感じたのか、この本を読んでわかりました。それは、広田先生が指摘するように、教員の成長モデルが一元的だからです。けっきょく、すべての項目について◎になるような、型にはまったオールラウンドパーフェクト教員が求められているからです。

 でも、そんなの、おかしいよね。人が人を育てる学校で、いろんな人がいる社会に出ていくいろんな人を育てる学校で、教員だっていろんな人がいるもの。いわゆる「使えない人」もいるけれど(ワタシもそう思われてるかも!)、そうした人も含めてみんなでやっていってる。それが学校のよさでもあるんだ。
 いろんな人がいるんだから、同じ研修を受けたって、そのときすぐにヒットする人もいればヒットしない人もいる。いろんな人に、それぞれいろんな学び方があるはずでしょう。それを、初任から10年目の若年層、10年目以降のミドルリーダー層、25年目以降のトップリーダー層、と単純に経験年数で輪切りにする研修は、実態に合わなすぎます。

 教員の「養成と採用と研修にはズレが必要」(p.180〜)という指摘にも、深く共感しました。現場の即戦力を大学で学ばせたとしたら、そりゃ受け入れる現場教員側は当初は使いやすくてラクチンかもしれませんが、その人は将来的に伸びにくいでしょう。実際、「本当にこの人、学校しか知らないで、学校に何の疑問も持たずに今までずーっと優等生できたんだろうなァ」、という教員は多いです。教職大学院でも、大学の一端であるならば、もっと教育学や教育哲学、教育社会学を学んで、当たり前に思っていたことに?マークをつけたり、根本的なことを考えたりしたほうがいい、とわたしは思います。

 本書の副題に「考える教師、頼れる行政のための視点」とあります。たぶん、著者の広田先生は、わたしたちのような一般教員や教育委員会に務める職員に読んでもらうことを想定していたんだと思う。広田先生は、日本教育学会の会長というとってもエライ先生ですが、教育学者として教育の本質的なところや教育行政について熟知し、よりよい教育について真摯に考えてくださっているうえに、わたしたち現場の一般教員を応援してくださるあたたかいお気持ちにあふれていると感じます。

 そういえば、以前、「教員の働き方改革」についてNHKの朝のニュース解説か何かに出演されたときに、広田先生は
「教員の人員増から始めないと話にならない。」
というようなことをお話しされていました(うろ覚えですみません)。教育改革について、教員のやる気・熱意・意識向上だけを問題にするのはずるいです。まあそれがいちばん金がかからないから、教員のマインドばかり言うんでしょう(と、教員自らがそれを指摘するのはタブーにされている現状)。


 本書の最終章、
Ⅲー15 教育の複雑さ・微妙さを伝えたい
も印象に残りました。医療とか法律とか、専門の先生に全面的にお願いしたい分野とちがって、教育はだれもが一家言ある分野です。「シロウト教育論と狭い生徒体験」が声高に語られ、絶対化されがちです。そのことで最も歯がゆい思いをされているのは広田先生かもしれません。それでも広田先生は教育学をしっかり学ぶことの大切さをあきらめずに説き続けます。

「大学で教えられる教育学は、確かに現場との間に距離がある。でも、だからこそ「日常にない知」「日常を見つめなおす知」として重要だ。現場にない知が、新しい発想や反省的な思考の足場になるということである。」(p.229)

  みなさん、買うんだったらチャラ本ではなく、本書のような本を買って読みましょう。そして、みんなで話し合いましょう!
 みなさんのお考えをお聞きしたいです。

(・・・といって、今気づきましたが、わたしは本書を図書館から借りていたのでした・・・買います!! 笑)

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