対話の中で「自分らしさ」に気づくことができる──大木浩士さんインタビュー(1/3)
主体性とは何か。混沌とする今の時代に主体性がますます重要になってくると感じた私たちTOIは、主体性をテーマにした哲学対話の開催などを通じてこの問いに向き合い、それは「自分らしく生きること。自分の意志で自分の未来に向かい、一歩進むための行動を起こしていくこと。」と考えました。
では、その主体性はいかに生まれ、発揮されていくのか。問いと対話の場の提供を通じて参加者の方が自分自身の内面に向き合い、前向きになる様子を目の当たりにしてきた私たちTOIは、対話には人の主体性を引き出す可能性があると考え、この仮説を対話の場づくりのプロにぶつけてみることにしました。
今回お話を聞いたのは日本全国の中高生を対象に対話型授業を提供してきた大木浩士さん。大木さんが対話の場づくりを通じて考えてきた「主体性と対話の関係」について、全3回に分けてお届けします。
第1回では、大木さんが「自分らしさ」を引き出す場づくりをする中で発見した対話の重要性についてお話を伺いました。
(interview by tagai, nakada, taninaka, photo by kyoichi)
■ 「小さな目標」をクリアしていくことが先入観や抑圧から解放してくれる
──本日は、『対話型授業のつくり方』を上梓された大木浩士さんに「主体性」というテーマでお話を伺っていこうと思います。大木さん、宜しくお願いします。
大木:宜しくお願いします。
事前にいただいた資料を拝見したのですが、そこに「主体性とは何か」って書いてあって、「なるほどなー」と思ったんですよ。というのも、2011年に東日本大震災が起こって、「自分らしく生きる」には何か行動しなきゃいけないって思って、同年に「里都(さと)プロジェクト」 というのを立ち上げたんです。
──「里都(さと)プロジェクト」?それって何ですか?
大木:これは、東日本大震災の時、東京は電気が止まって物流も止まってコンビニやスーパーから食べ物とか水が全部なくなったんですよね。それがすごく怖くて、東京は食べ物も水もない。でも、お金と仕事はあるんですよね。地方は食べ物と水がある。でも、お金と仕事がない。
じゃあ、お互いに交流することで補完関係になるんじゃないかと思ったのが、そもそもの始まりでした。
──すごく面白くて、素敵なプロジェクトですね!
大木:ありがとうございます。
そうそう、地方で活動しているユニークな人達を東京に連れてきて「場づくり」をしたり、地方に出掛けていって東京の人たちでツアーみたいなのをしたりしていましたね。
──地方にいる人たちの活躍の場にも繋がる活動ですね!
そんな風に行動できるの、羨ましいです(笑)
大木:いやいや、ほとんどの人が行動ってできないんですよ。
私が若い人に何かやりたいことがあるか聞くと、アイデアは出るんですけど みんな行動に起こさない。じゃあ、「なんで実現しないの?」って聞いたら、「やり方がわからない。最初に何から始めていいか分からない」って言われて、 「企画書書くんだよ」って教えたら、今度は「書けない」って言われて(笑)
だから、「じゃあ、俺が企画書の書き方を教えてやるよ」となって、同じく2011年に全国で「やりたいことを一歩進めるための企画書講座」っていうのも始めてみたんですよ。
そこで企画書一枚にまとめるのに、話し合いを通して自分の考えを整理して、言語化して文章にしてもらう。そうして、やっと自分がしたいことが形になるって感じですね。
──「自分がしたいこと」を実現するための支援をされてきたんですね。
大木:ええ、そうなんです。
やっぱりみんな心の中に何かやりたいなって気持ちはあっても、行動に起こせない。じゃあ、どうしたらいいのかを考えた時にこのやり方を考えました。
やっぱり、「自分らしく生きる」ためには、何か行動をしないとダメなんですよ。
僕の根底にあるのは、「自分らしく生きる」とか「自分らしくありたい」なら、やっぱり 行動しないといけなくて、その最初の着火ポイントと言いますか、それをどう生み出すのかが重要だな、と資料をいただいた時に昔のことが記憶に蘇ってきましたね(笑)
──お話しを聞いていて、面白いなと思ったのですが、地域と自分らしさって関係があるのでしょうか?
大木:やっぱり人のアイデンティティーとか原点って故郷の中にあると思うんです。
私は栃木県出身で、高校までしか栃木にいなかったですけど、高校野球は栃木県を応援しちゃいます。小さい頃に育った環境とかで価値観って形成されると思うので、やはり自分が生まれ育った地方と自分らしさは切っても切れない関係だと思います。
──なるほど。たくさんの人の「自分らしさ」を引き出してこられたと思うのですが、引き出す際に大切なことってありますか?
大木:モデルが誰かいるっていうことが凄く重要だと思います。どんなモデルが必要かっていうとバカなことをやっている、何か無茶している感じの人ですね(笑)
──バカなことをしている人?ですか?(笑)
大木:「ここまで動いていいんだ!」って思わせてくれる人がいると自分自身も行動しやすくなるんですよ。あと、アイデアを形にするための企画書やイベントをする時のマニュアルを作るためにも、やっぱり誰かの背中を見ながら学んで実践するのが良いんだと思います。
だから、本を読むだけじゃなくて、誰か行動している人の近くで一緒にやってみるのがオススメです。
──そういう行動する人の近くにいないと、行動できない理由ってなんでしょうか?
大木:「やりたいことがあるんだけど、高校や大学に行かないといけない」「世間体がある、常識的に」とか言って、お金や時間を理由に我慢している人がとても多いと思います。けど、ソレを取り払って動かないといけない。
──そういった先入観や抑圧から抜け出して、行動するにはどうしたらいいのでしょうか?
大木:やりたいことを自分らしくやるためのコツっていくつもあって、まずは「小さいこと から始める」ってことがすごく重要なんです。できて当たり前の小さい目標を1つ作ってやってみる。
■ 「対話」が「主体性」を引き出していくきっかけになる
──今のお話やこれまでの活動から、「対話」と「主体性」の関係ってありそうですが、どうですか?
大木:ありますね。「主体性」を「自分らしく生きる」とするならば、世の中で「私」って存在は私ひとりしかいないんだっていうことに気づかないといけない。そのために、自分の個性に気づく「対話」が必要なんです。10人と対話をすることによって、私には私の感じ方とか考え方があるって思うし、ソレに気づくための場が対話の場なんだと思います。「Aさんと違う、Bさんとも違う私」っていう自分の「独自性」が 鮮明になってくる感じってありませんか。
だから、講演会ではダメで、話を聞くんじゃなくて、お互いに質問をし合うことで、思考のレベルをグッと掘り下げて、通常の頭の中にある思考ではなくて、自分の奥にある本音とか欲求とかの本質的なものに気づいていく。
──やっぱり、そういう問いかけがお互いにできるってことが重要なのでしょうか?
大木:はい、主催者とか進行者からの問いも重要だし、そこから発展して自分でも考えて、他の人の意見を聞きながら、ちょっとずつ深まっていったりするのも重要ですね。
──大木さんは参加者同士で対話を深めていくのに、気をつけていることってありますか?
大木:そうですね、ありますね。
対話の場の問いの言葉を何にするかは、いまだに悩んだりしますね。これがとても難しいし、大切なんですよ。
いきなり深い問いをしちゃうと、みんなの思考がストップするので、段階的にする。最初は簡単で楽しい問いから始めて、そこから発展してちょっと深くて、気付きがあるような感じにするのがいいですよ。
──結構その場にいる人によって、問いも変わっていきそうですね。
数多くの経験の中で、自分の言葉を発言しづらい人もいたかと思いますが、この理由はなんでしょうか?
大木:100人いたら100人の感性があって、行動の理由があるので、まとめて「こうだ!」というのはなかなか言いにくいですけど、自分が考えてることとか自分のことを他人にバレたくないじゃないんですかね。
僕も、実は若い頃そういう人間だったんですけど、自分の弱さとかそういうのが知られてしまうと、ちょっとこう悲しくなるっていうか、見下されるんじゃないかって恐怖があったりしました。
──そういった場合には、どうしたらいいのでしょうか?
大木:人前で話すのに絶対慣れることはないと思うので、①安心できる場を作る、②人と話すことの成功体験を増やす、この2つを作っていくしかないですね。
本当に僕も人前で話すのが苦手で、ずっと言葉が出てこないこともあるんです(笑)
──そうなんですね(笑)
ちなみに、話すっていっても何から話せばいいか分からない人もいると思うのですが、どんなことを話すのがいいのでしょうか?
大木:なんでもいいんですよ。自慢話とか昔話とか、 話してて楽しくなるような、とめどなくどんどん話せるような話から、まずは成功体験を増やしていくっていうことが大切なのでね。
■ 個性の違う人間が集まれば、良いチームができる
──なるほど。逆に、他人の話を引き出したい時に工夫されていることはありますか?
大木:できるだけ1対1の関係を作りながら、カウンセリングをしますね。
「この時はこうだったんですね」って相手の状況や言いたいことを“告げ返す”という聴き方の技術があるんですけど、相手の目線と波長に合わせて、ちゃんとキャッチボールをする。
こうやって聞いていくことで、相手が話しやすくなるんですよね。
──逆に、喋らないけど、主体的っていう人はいるのでしょうか?
大木:いるんじゃないですかね。そういう人は物書きといいますか、ブログとかで発信をしているんだと思うんです。
──必ずしも、主体性を発揮するのに「対話」は必要ない?
大木:そうですね。なくても大丈夫な人もいると思います。
ただ、何かSNSだったりで発信して、それに対してリアクションをもらうと、話のネタになるので、そこで「対話」が生まれると思うんです。自分と違う人間と対話するのは、特に大事ですね。
──それは、なぜでしょうか?
大木:人それぞれ個性があるので、目標が近いところに目標設定すれば、目標はちゃんと共有できていながら、違う特技がある人同士が集まって、良いチームになりますよね。(第2回に続く)
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─ INTERVIEWEE PROFILE ─
大木浩士(おおき・ひろし)
株式会社博報堂 H-CAMP企画推進リーダー。大学卒業後、経営コンサルティング会社を経て、2001年より博報堂勤務。マーケティングや広告制作等の業務を経て、2013年に中学生・高校生を対象とした教育プログラム「H-CAMP」を立ち上げる。7年間で600回以上の対話型授業を開催。2016年に経済産業省が主催する「キャリア教育アワード」で、経済産業大臣賞と大賞を受賞。とちぎ未来大使・交流企画プロデューサー/独立行政法人 中小企業基盤整備機構・人材支援アドバイザー/都市と地域の人をつなぐ 里都プロジェクト・代表/羽黒派古修験道 山伏、などの顔も持つ。
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