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「自分らしさ」を見つけるための「対話」の場をいかに作り出すか──大木浩士さんインタビュー(2/3)

主体性とは何か。混沌とする今の時代に主体性がますます重要になってくると感じた私たちTOIは、主体性をテーマにした哲学対話の開催などを通じてこの問いに向き合い、それは「自分らしく生きること。自分の意志で自分の未来に向かい、一歩進むための行動を起こしていくこと。」と考えました。
では、その主体性はいかに生まれ、発揮されていくのか。問いと対話の場の提供を通じて参加者の方が自分自身の内面に向き合い、前向きになる様子を目の当たりにしてきた私たちTOIは、対話には人の主体性を引き出す可能性があると考え、この仮説を対話の場づくりのプロにぶつけてみることにしました。
今回お話を聞いたのは日本全国の中高生を対象に対話型授業を提供してきた大木浩士さん。大木さんが対話の場づくりを通じて考えてきた「主体性と対話の関係」について、全3回に分けてお届けします。
第1回に続く今回は、大木さんが「自分らしさ」と向き合う中でどんな行動をしてきたのか、主体性を発揮する上ですぐに実践できるアクションを伺いました。
(interview by tagai, nakada, taninaka, photo by kyoichi)

■ 「言語化ノート」で瞬間的に思考を言語化する習慣を作る

──「主体性」を発揮するためにも、「対話」が重要だということはわかったのですが、日常で「対話」や「主体性」を実践するために、できることってありますか?

大木:中学生って本当に上手く話せないんですよね。息子も中学生なのですが、何か聞くとすぐ「うぜぇ」とか無視なんですよ(笑)でも、友達同士だと楽しそうに話していて、暗黙の了解がいっぱいあるから、会話のボキャブラリーが少なくても成り立つんです。
ただ、他の人とは話せない。というのも、まだ「言語力」が養われてないからなんですよね。抽象的なことを言語化できないから、喋られないってなるんですよね。
なので、息子に「言語化ノート」っていうのを作らせたんですよ。

──へえ!「言語化ノート」とは?

大木:7分間なんでもいいから書いていくノートを作るんですよ。本当になんでもよくて、「お金が欲しい」とか「お小遣い上げて!」とか。とにかく7分間書き続ける。
人間の集中力って7分が最大らしいんです。なので、その7分間で頭に浮かんだことを言語化していく。そうすると、日常でも頭に浮かんだ考えとかを瞬間的に言語化していけるようになるんです。

──面白いですね。それをやると、結構変わりますか?

大木:うちの息子は作文が全然ダメだったんです。だけど、2ヶ月間この「言語化ノート」をやったら、作文も書けるようになったし、日記も書けるようになった。頭に浮かんだことをそのまま書けるようになると、ひらめき力がどんどん身に付いてきますよ。

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■ 「自分で決めたんだ!」という気持ちが「主体性」を生む

──中学生で親の言うことをちゃんと聞いて、習慣化しているの偉いですね!

大木:いやいや、やっぱりうちの息子もゲームばっかりでしたよ(笑)
ただ、このままだといかんと思って、「勉強した時間の分だけ、ゲームをしていい」って取引をしたんですよ。ここでも「対話」が役に立っていて、相手の話も聞いて、しっかり話し合ったから実践できたんです。

──本人が意思決定できているから、いいんですかね?

大木:子どもとか大人とか関係なく、意思決定プロセスに参加できているから、やる気が生まれるんだと思うんですよ。そこに「主体性」が発揮される要因があるんです。

──逆に「主体性」が損なわれる瞬間は?

大木:それは、「頭ごなしの命令」ですね。
相手が何に興味があって、どんな個性を持っているのかを無視して、命令をしてしまうと、機械の歯車のように「モノ扱い」になってしまう。そうすると、「自分らしさ」を発揮する「主体性」は上手く力が発揮できないでしょうね。

──相手の個性を加味した命令や指令なら、上手くいくことも…?

大木:その場合は、僕もなかなか出来ていないんですけど、相手の状況を確認するだけでなく、「なぜお願いしなきゃいけないのか」「どれだけピンチなのか」とか自分の状況というのも相手に開示して理解をしてもらわなければいけなくて。コミュニケーションが大事ですよね。

──感情に訴えかける、みたいな…?

大木:やっぱり人って感情で動くじゃないですか。だから、「この人、大変なんだ。私、ひと肌脱いじゃおうかしら」って思わせるのが重要。そうやって、自己開示しつつ、相手の話もちゃんと聞いていく。そのために、雑談とかも大事ですね。

■ リモート下でも、大切なのは「他人」の存在

──今、リモートで仕事する環境になり、雑談する機会も減ってきていますよね。

大木:リモートワークだと、話を脱線させにくいですよね。
自分の個性を確認するために、他者の存在って絶対に大事なんですよ。なのに、コロナの影響で、他人と関わりたくなくなってしまって、自分らしさとか個性とか意義とかを感じにくくなっていて、ゲームやSNSの世界に行ってしまう。

──SNSではダメ?

大木:SNSだと、対話が一方的になってしまい、思考があんまり深まらないんです。ツイートして終わり。リアクションに対しても「いいね」で終わり。非常にもったいないですよね。

──「他人」との対話で主体的に行動できる、ということでしょうか?

大木:ええ、やっぱり自分らしい主体的な活動をするには、絶対「困っている人」の存在って大切だと思うんですよ。誰かが困っている、〇〇さんが困っている、その困り事や悩みに答えられる経験や知恵を持っているってなった時こそ、動きたくなるもんなんです。

──リモート下でも「雑談」はした方がいい?

大木:しづらいとは思いますが、やっぱりリモート下でも「雑談」はした方がいいと思います。
 物事って自分ひとりで自己満足で形を作っていくのではなく、困っている人の存在がいて「その人のために何ができる?」「俺、これ出来ないか?」っていうことを見つけるのがすごく重要だと思うんですよ。こういうことがないと、行動って生まれないと思うし、雑談から色んなことが生まれるんですよね。

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■ 他人との「対話」が「自分らしさ」とその先の行動を作る

──他人の「困っていること」と「自分のやりたいこと」って乖離があるんじゃないでしょうか?

大木:自分がやりたいことを見つけるには効果的じゃないかもしれませんが、自分がやりたいことを行動に移す時にはすごい原動力になると思うんですよ。
 「やりたいことを見つける」と「やりたいことを形にする」では、全然ハードルが違うので、行動に移す時にターゲットが鮮明な方が良いものができるし、行動する力になるんです。

──確かに。そのうち、「やりたいこと」が見つかれば、すぐ形にできるようになりそうですね。

大木:そうそう、それにそうやって他人と関わってくる中で、「自分らしさ」がわかって「やりたいこと」っていうのも鮮明になってくると思うんですよ。
 私自身、自分のことが本当にわかんなくて、「何のために生まれてきたんだろ」「何が得意なんだろ」「俺は人のために何ができるんだろ」とかすごい悩んでいました。

──そうなんですか!そこから、どうやって自分の存在意義や得意なこととかを見つけられたのでしょうか?

大木:「自分年表」とか書いてみましたね。

──自分年表?

大木:自分が生まれた時から現在まで「どんなことをしたのか?」、それから「これから何を年表に入れたいか」っていうのを書くものです。

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──「自分らしさ」を事実から、考えてみたんですね。

大木:あとは、身近な人たちに「僕らしさっていうか、他の人とは違う何かってあるだろうか?」って結構聞きましたね。
 「自分らしく動きたいけど、動けない。なんで動かないだろうか?」っていうのも人と話しながら解明したり、「5年後や10年後の自分は何をやっていたらハッピーなんだろうか」 とか、人との対話の中で「自分らしさ」を探してましたね。

──これまでのお話からも、「自分らしさ」を突き詰めていくと、「行動のしやすさ」に繋がりそうですね。

大木:そうなんですよ。こういうことをしていると、「自分はこんな時に楽しんだ」「こんな時に役に立てるんだ」とか自分のことを知りながら、迷いなく「自分らしさ」を発揮して行動に移すことができるようになるんですよ。

──やっぱり大変でしたか?(笑)

大木:そりゃ、大変ですよ!ただ、本当に色んなつらい経験をしてきましたけど、私もその経験から抜き出したものとか気づけたこととかたくさんあるんですよね。当時は、本当につらかったですけど(笑)

──振り返ると、良い経験だったという感じでしょうか?

大木:そうですね。
色んな角度から、自分自身の気づきでもいいし、占いでもいい。ただ、やっぱり他の人からの指摘って本当に参考になるので、そういう情報をいっぱい持っておくようにするのが 重要だと思いますよね。
それをやればいいんですけど、結局恥ずかしくできない。だから、第三者が仲介してくれる「対話」っていう場だと、「自分探し」って途端にやりやすくなるんですよ。

──やはり日常で「主体性」を発揮するには「対話」をしていくことが重要?

大木:ええ、できればその中でも「相手の良いところ」を見つけてあげたり、PR合戦とかでお互いに「相手の良いところ」を伝えてあげるとかは効果的でしょうね。ただ、身近な人だと恥ずかしいんですけどね(笑)(第3回に続く)

─ INTERVIEWEE PROFILE ─

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大木浩士(おおき・ひろし)
株式会社博報堂 H-CAMP企画推進リーダー。大学卒業後、経営コンサルティング会社を経て、2001年より博報堂勤務。マーケティングや広告制作等の業務を経て、2013年に中学生・高校生を対象とした教育プログラム「H-CAMP」を立ち上げる。7年間で600回以上の対話型授業を開催。2016年に経済産業省が主催する「キャリア教育アワード」で、経済産業大臣賞と大賞を受賞。とちぎ未来大使・交流企画プロデューサー/独立行政法人 中小企業基盤整備機構・人材支援アドバイザー/都市と地域の人をつなぐ 里都プロジェクト・代表/羽黒派古修験道 山伏、などの顔も持つ。

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