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主体性を巡る冒険|TOI Magazine 003|Postface

「主体性」とはいったい何でしょうか。そして主体性はいかに生まれ、消えていくのでしょうか。

2020年に改訂された教育指導要領では「主体的・対話的で深い学び」という項目が追加され、書店のビジネスコーナーでは「部下の主体性を引き出す」といった言葉が多く見られます。
ビジネスの現場で「主体性が無い」という言葉は、その人を評価していないことと同義になるし、「ウチの子、主体性が無いんだよね」と親どうしの会話で出てくればそれは心配のタネとなります。

「主体性」について、世の中の関心の高まりを感じる一方で、私たちTOIは自らが主催する問いと対話の場を通じて参加者の「主体性」らしきものが高まっていく様子を目の当たりにしていました。

対話には主体性を引き出す力がある。

この仮説を着想した私たちTOIは、「主体性とは何か」そして「主体性と対話の関係は何か」という問いを携えて、いくつかの試みをはじめました。

このnoteでは、TOIの一員である私タガイの視点で、その一連の活動と活動を通じて得た「主体性」についての発見を伝えていきたいと思います。

「主体性」とは何かを探して

まず私たちが最初に取り組んだのが、「主体性」についての問いを出すこと。問いを出し続けるトレーニングでは、77の問いが生まれました。

この中で、個人的に「いいね」となった問いをいくつかご紹介します。

32  最も国民の主体性が強い国はどこか
68  お酒に酔っている時に主体性はあるのか
70  主体性をうまく保った人間関係とは

主体性を考える際に、具体例をもって考えると良さそう、というのは問いを出し続けて得た気づきでした。そのひとつが、主体性の強い国を考えるというものでしたが、その国の主体性は政権から来るのでしょうか、もしくは国民から来るのでしょうか。主体性が何に由来するのか、いくつかの源泉がありそうです。

また、お酒に酔った時の主体性という問いからは、主体性と身体性の関係について考えさせられました。主体性は肉体から生じるものなのか、精神から生じるものなのか。やる気が無い時に「とりあえず手を動かしてみる」というライフハックがありますが、これは身体から生じる主体性なのでしょうか。

そして、主体性をうまく保った人間関係という問いからは、主体性と関係性ならびに継続性について考えるきっかけとなりました。

主体性についての問いを出し続けた次は、出てきた問いをもとに、参加者どうしで意見を交わす問いと対話の場を設けました。

参加者からの主体性に関する様々な問いと意見が飛び交い、ここでも、主体性についての視野が広がりました。特に、このレポートで参加者のほりほりさんが書いていたように、主体性は必ずしもいいのもではない、という視点は慧眼でした。

主体性と対話の関係とは

そして、今回のTOI Magazineでは大木浩士さんへのインタビューを実施。

「主体性と対話の関係を教えてください」と唐突な取材依頼に対して快く応じてくださった大木さんは、事前の打ち合わせで「主体性をどう定義されていますか」と質問されました。

確かに、そもそも「主体性とは何か」を決めていない、とはっとした私は、それまでの主体性とは何かを探してきた活動を通じて改めて取材依頼書の冒頭に次の文章を追加して、再度大木さんへお送りしました。

私たちの考える「主体性」とは(今回の特集における定義)
自分らしく生きる。人に言われるのではなく自分の意志で自分の未来に向かい、その未来に向かうための行動を起こしていく。それが「主体性」であると考えています。
では、その主体性はいかにして発揮されるのか。そのきっかけのひとつに「対話」があると思います。私たちTOIは問いと対話の場の提供を通じて、参加者の方が自分自身の内面に向き合い、前向きになる様子を目の当たりにしてきました。対話には人の主体性を引き出す可能性があると考えています。

そして取材当日。
インタビューの開始と同時に大木さんは「事前にいただいた資料を拝見したのですが、そこに『主体性とは何か』って書いてあって、『なるほどなー』と思ったんですよ。というのも・・・」と、ご自身が携わられてきた「自分らしさ」に関する活動のお話を始められました。

詳しくはぜひインタビュー記事をご覧いただければと思いますが、対話のプロとして活動されている大木さんが、元々は人々が「自分らしさ」を見つける(=主体性を引き出す)お手伝いをされていて、その過程で対話に巡り合ったというお話は、対話の場を通じて対話と主体性の関係に気づいた私にとって、非常に不思議でありながら運命に近いものを感じました。

主体性と対話、対話と主体性は出会うべくして出会った、とでもいうのでしょうか。

とにかく、今思い出しても非常に気づきの多い、楽しい時間でした。

「他者は対話を通じて自分を映す鏡となる」

これは今回大木浩士さんへの「対話と主体性の関係」についての取材を通じて、最も印象に残った学びです。

主体性を持って自分らしく生きるにはまず、自分に何ができるか、自分だからできることは何かと、自分のことを知らないといけません。

しかし「自分は何者か」という誰もが気になるこの問いの答えに、ひとりでたどり着くのはとても難しいというのもまた事実です。

だからこそ、他者と対話をする。

議論でも、雑談でもなく、対話をする。

対話を通じて他者の声に耳を傾け、自分自身との違いに気づくことで、自分にしかない考えが見えてくる。

そして、自分にしかない考えから、自分にしかできないことが見えてくる。

その「自分にしかできないこと」を少しでもいいから行動に移す。それが、自分らしさであり、主体性を発揮するということ。

だから私は自分自身が主催する問いと対話の場で人々が「自分らしさ」を取り戻し、生き生きとする様子を目にすることができたんだ。そしてそれが面白いから、この場をつくることを続けられているんだ。

これは、主体性を巡る一連の活動を通じて私自身が得た、主体性と対話についての発見でした。

改めて、この発見に至るお話をいただいた大木さんと、この取材のきっかけを与えてくれたTOIのナカダさん、膨大な取材内容を非常に読みやすくまとめてくれたTOIの谷中さん、そして素敵な写真を撮影してくれたフォトグラファーのきょーいちさんに感謝をして、終わりにしたいと思います。本当に、ありがとうございました。
(text by tagai)

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