新潟の生物多様性：地域戦略・保全利用を考える

2020年4月10日 07:19

日本海、越後山脈の山々、信濃川や阿賀野川などの河川、新潟平野、そして佐渡島、これら地形の多様性が新潟の生物多様性を形作っています。

はじめに

生物多様性の保全や利用を考える場合、どのような生き物が、どこに分布しているのかを把握することが、第一ステップになります。地域の住民の皆さんも、自分たちの周辺に、どのような生き物が暮らしているのかを知ることができれば、生物多様性への親しみや、理解も深まるに違いありません。このような意図から、日本の地方自治体（47都道府県）の生物多様性の特徴を可視化して、保全利用に関わる科学情報を普及させていくことにしました。

この記事では、生物多様性ビッグデータを活用した、新潟の生物多様性の保全利用計画に関する分析結果をお知らせしていきます。新たな分析結果が出力でき次第、随時その内容も加えて、この記事自体を更新していくつもりです。また、この解説は、日本の生物多様性地図化ウエブサイト（保全カードシステム）と連動させて情報提供しています。生物多様性の様々な地図情報（レイヤー）を、チャンネルを切り替えて閲覧できますので、以下サイトをご覧ください。

新潟県の生物多様性を特徴づける環境条件

新潟県は日本海に面し、内陸には越後山脈が連なっています。

越後山脈の北部の山形県境には、朝日山地と飯豊山地があります。越後山脈の南部の群馬県境には、谷川岳（1977m）などからなる谷川連峰、長野県境には火山で山頂部の平坦部に湿地や湖沼をもつ苗場山（2145m）があります。

さらに新潟県南西部の長野県境には、火山の妙高山（2454m）、火打山（2462m）、火山の新潟焼岳（2400m）からなる頸城山地が連なります。

新潟には、周辺の県に源をもつ河川が流れ下っています。

千曲川は長野県から流れでて、新潟では信濃川になります。そして、谷川岳からの魚野川、あるいは渋海川と長岡市で合流して、魚沼丘陵と東頸城丘陵の間の十日町盆地をぬけ、五十嵐川などと合流して、新潟平野にいたり日本海に注ぎます。

阿賀野川は福島県の会津若松から流れでて、飯豊山地の南をぬけて、新潟平野にいたり日本海に注いでいます。

荒川は山形県の大朝日岳から流れる出て、新潟平野の北部をぬけて、胎内市で日本海に注いでいます。

関川は新潟焼岳に源を発して、妙高山の南山麓を流れ、高田平野にいたり日本海に注いでいます。姫川は長野県の白馬村に源をもつ糸魚川市をぬけて、日本海に注ぎます。

新潟県南西部の日本海沿岸には米山（993m）があり、新潟平野と高田平野を分けています。

新潟平野の沖には、佐渡海峡を隔てて、佐渡島もあります。

このような、様々な山地と、山々から流れる河川、平野、そして離島、これらの地形の多様性が新潟の生物多様性を形作っています。

それでは、新潟の生物多様性（植物・動物の種数）の地図を見てみましょう。

生物多様性の可視化：種数地図

生物種の分布予測を元にして、種数を１kmスケールのメッシュごとに数え上げて、地図化した結果を以下に紹介します。赤色のメッシュは種数が多い地域です。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種数が豊かな地域は、佐渡島、谷川連峰や苗場山の山腹、妙高山や火打山や新潟焼岳からなる頸城山地、最上川流域と日本海沿岸地域などです。また、朝日山地や飯豊山地にも植物種数の豊かな場所がパッチ状にあります。

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土地利用の変化が日本の生物多様性に与えた影響については以下の記事をご覧ください。分析方法と日本全体の傾向がわかります。

哺乳類の種数が豊かな地域は、谷川連峰や苗場山から越後駒ヶ岳や八海山にかけての山腹、奥只見や守門岳などです。また、妙高山や火打山や新潟焼岳からなる頸城山地も、哺乳類の種数が豊かです。

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鳥類の種数が豊かな地域は、日本海沿岸の新潟平野や高田平野と、それらの平野に流れこむ、最上川や阿賀野川や関川などの流域です。また、佐渡島の低地も鳥類の種数が豊かです。

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爬虫類の種数が豊かな地域は、日本海沿岸の低地、佐渡島、頸城山地の山麓、谷川連峰の山腹、奥只見、阿賀野川の上中流域などです。

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両生類の種数が豊かな地域は、佐渡島、魚沼丘陵や東頸城丘陵、頸城山地の山麓の姫川流域、谷川連峰の山腹、阿賀野川の上中流域、朝日山地や飯豊山地の山麓などです。

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淡水魚類の種数が豊かな地域は、日本海沿岸の新潟平野や高田平野などの平野部を流れる、最上川、阿賀野川、関川、姫川などの流域です。また、最上川や阿賀野川の中上流域、佐渡島の低地も、淡水魚類の種数が比較的豊かです。

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生物多様性の保全重要地域を特定する方法

生物多様性の保全重要地域はどこですか？と聞かれたら、多くの人は「生物の種類数が豊かな地域」と答えるかもしれません。その解答は、ある意味正しいのですが、他にも考えるポイントがあります。

生き物のレア度：希少性

例えば、生物の種数は少なくても、他の場所には存在しない、そこだけに分布する生き物（固有な生物種）がいたら、そこは、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所と言えます。

つまり、保全重要地域を特定する場合、生物の分布情報を基にして、レアな＝希少な生き物が、どれくらい分布しているのかを定量する必要があります。

保全政策上の重要生物：絶滅危惧種

また、生き物の種類によっては、絶滅が危惧されている種もいます。そのような生物はレッドリスト種に指定されて、重点的な保全施策が図られています。したがって、絶滅危惧種が分布しているかどうかも、かけがえのない場所を特定する上で考慮する必要があります。新潟県は2001年に「レッドデータブックにいがた」を編纂して、その後も生物分類群ごとにレッドリスト種を改訂しています。

生物の機能：人間社会にとっての生物の価値（生態系サービス）

生き物は様々な機能を持っていて、私たちは生物を資源として利用し、生物多様性や生態系サービスの恩恵に浴しています。したがって、それぞれの生き物が持っている価値も、かけがえのない場所を特定する上で重要な情報になります。

ここでもう一つ問題があります。それは私たち人間社会の都合です。

地域社会の経済活動

例えば、市街地や農地のように経済活動が活発な土地区画は、新潟県の地域社会の持続的発展のために重要なエリアです。つまり、私たち人間にとって重要な土地区画を維持しつつ、生物多様性を保全して、両者のバランスをうまく調整する必要があります。

そこで、新潟県内の１km x １km土地区画メッシュ全ての、人口・道路密度・市街地・農地など社会経済に関するデータも整備します。

これによって、地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を避けつつ、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所はどこか？を探索することができます。

具体的には、新潟県を１km x １kmの土地区画メッシュに分割して、それぞれのメッシュに、どれくらいレアな生き物がいるのか、どれくらい絶滅危惧種がいるのか、どれくらい価値ある生物がいるのかを定量して、場合によっては、利害関係者の要望を元に、例えば地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を考慮しつつ、生物多様性を保全・利用する上で、どのメッシュがどれくらい重要なのかを順位付けします。これは、生物多様性の空間的保全優先地域の順位付け分析と呼ばれます。

新潟県の生物多様性の保全重要地域

維管束植物（木本・草本・シダ植物）と脊椎動物（哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類）を統合して、生き物の種ごとの希少性・レッドリストランク・有用性などを考慮して、新潟県の生物多様性保全の重要地域を順位づけした結果が以下の地図です。

注）土地区画の社会経済的価値も組み込んだ分析結果は今後公開予定です。

新潟県の生物多様性の保全重要地域は、佐渡島、新潟平野や高田平野などの日本海沿岸地域の一部、谷川連峰や苗場山の山腹、妙高山や火打山や新潟焼岳からなる頸城山地、最上川流域などです。

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以上は植物と脊椎動物の地図情報を統合して、全生物分類群を包括して保全優先地域をスコアリングした結果でした。

次に、それぞれの生物毎に保全重要地域を見てみましょう。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、佐渡島、谷川連峰や苗場山の山腹、妙高山や火打山や新潟焼岳からなる頸城山地、最上川流域と日本海沿岸の一部、朝日山地や飯豊山地などにパッチ状に分布しています。

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哺乳類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、谷川連峰や苗場山から越後駒ヶ岳や八海山にかけての山腹の一部、妙高山や火打山や新潟焼岳からなる頸城山地や、佐渡島の一部などです。

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鳥類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、新潟平野や高田平野の一部、および最上川や阿賀野川や関川などの流域の一部、佐渡島の低地などです。

爬虫類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、日本海沿岸や佐渡島の低地、頸城山地の山麓、谷川連峰の山腹、阿賀野川の上中流域などです。

両生類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、佐渡島、魚沼丘陵や東頸城丘陵、頸城山地の山麓の姫川流域、谷川連峰の山腹、阿賀野川の上中流域、朝日山地や飯豊山地の山麓などに、パッチ状に分布しています。

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淡水魚類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、新潟平野や高田平野を流れる最上川、阿賀野川、関川、姫川などの流域、および佐渡島低地の流域などです。

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新潟県レッドデータブック（RDB）事業の検証

生物分布データを用いて、新潟県RDBにリストされている種の希少性を分析しました。分析の意図と手法については以下の記事を参照してください。

生物分類群ごとにRDBにリストされている種の分布メッシュ数（面積）を定量しました。分布面積の小ささが希少性の度合いになります。

RDBランクが高いほど（横軸の左のランク、絶滅危惧ⅠA類　CR、絶滅危惧ⅠB類　EN、絶滅危惧Ⅱ類　VU、準絶滅危惧　NT、絶滅の恐れのある地域個体群LP）、縦軸の該当種の分布メッシュ数が少ない傾向があります。種の希少性を比較的よく反映したランク付けになっています。ただし、現RDB「その他」「指定なし」にも（横軸の右端のランクに）希少種が含まれていることもわかります。

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