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日本の魚類多様性を魚釣り情報で地図化する(アングラーズサイエンスの可能性)

日本は海洋生物多様性ホットスポット

日本の領海は海洋生物多様性のホットスポットとして知られています

しかし、海の生物多様性の地理的パターンは十分に分析されていません。海洋生物多様性パターンの把握は、海洋保護区の配置デザインを検討する場合の基本になります。

日本の魚類多様性を地図化する

そこで、私の研究室では、日本領海に生息する魚類3193種について約35万件の分布情報を収集し、沿岸魚種の分布のビッグデータを整備しました(下の左図)。そして20km×20kmグリッドの精度で種数の地図を作成しました(下の右図)。

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日本の沿岸海域の魚類の種数のパターンと環境データを重ね合わせたのが、下の地図です。太平洋沿岸の黒潮が流れている海水温が安定している海域で、魚類の種数が豊かなことがわかります。

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この魚類の種数の地図を元に、魚類多様性の説明因子を検証しました。具体的には、現在の環境要因と歴史的な環境要因の相対的な重要性を、統計モデルで定量しました。

魚類の多様性と環境要因

下の図は、左から順に、現在の海水温、沿岸海洋環境の異質性、最終氷河期の古地理を示しています。

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その結果、魚類の種数は、海水温とその安定性と環境の異質性と相関しており、現在の環境要因が、魚類の種多様性パターンを形作っていることが明らかになりました。

海と陸の生物多様性ホットスポットの違い

日本の陸上生物の多様性には、古地理のような歴史的要因がとても大きな影響を与えていることがわかっています(以下の記事)。

海洋生物多様性の形成メカニズムは、陸上と随分異なるようで、興味深いです。

日本は魚釣り情報の宝庫

最後に、日本の沿岸魚類の種多様性の分析で、強調しておきたい点は、データのユニークさです。他の生物分類群と同様に、標本情報は魚類分布の重要な情報源でしたが、。それに加えて、魚釣りの情報がとても膨大でした(約35万件の分布情報の約6万件が魚釣り情報でした)。

日本では魚釣りはとてもポピュラーなレジャーで、膨大な釣り情報が存在します。

例えば、防波堤や磯で、どのような種類の魚が釣れるかとか、日本のほぼ全ての(海のある)地域で、雑誌や図書が編集出版されています。以下の地図は、北海道の沿岸で釣れる魚の情報を電子化して作成した魚種多様性の地図です。

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このような、魚釣り情報を日本中で電子化すると、どういう魚種が?どこに?あるいは、どの年代・時期に?分布しているのかも把握できるのです。

シチズンサイエンスならぬ、釣り人アングラーズサイエンスと言えるのではないでしょうか。これを海外で話すと、とても面白がってくれます。

生物多様性ビッグデータの危機を別記事で述べましたが(その1その2)、アングラーズサイエンスは、日本の沿岸魚類生物多様性のビッグデータ整備に貢献するアプローチかもしれません

注)この記事の内容は、日本学術振興会の 頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラムで実施した”海洋生物多様性の進化生態学的形成プロセスと保全に関する国際共同研究”の成果を基にしています。



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