マーケティングの為のデザイン思考
認知されるようになってきているデザイン思考ですが、誤解されている部分もります。
その誤解を生み出す最大の問題は、デザイン思考は2つ目的で使われているということにあります。
2つの使われ方とは
「イノベーションの為のデザイン思考」
「マーケティングの為のデザイン思考」
というものです。
「イノベーションの為のデザイン思考」は文字通りデザインの視点からイノベーションを起こす為のフレームワークです。ではもう1つの「マーケティングの為のデザイン思考」とは何か、それはデザイン思考を広める為のフレームワーク(ワークショップパッケージ)のことを指しています。
2つの使われ方のデザイン思考が混同されてしまっている結果、デザイン思考は短期間のワークショップで、誰でもイノベーションを起こせるというイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
確かに「イノベーションの為のデザイン思考」を使えばイノベーションの再現性を高められる可能性はあると思いますが、習得には時間がかかるので、短期間のワークショップでは行うことはできません。
このように異なる目的で行われているデザイン思考が混同されてしまっていることが、デザイン思考の誤解を生み出してしまっていると思います。
それでは2つのデザイン思考をそれぞれ説明したいと思います。
マーケティングの為のデザイン思考
デザイン思考を広めることを目的としており、短期間で行うワークショップパッケージになっていることが多いです。一般的に広く行われているワークショップはこちらではないかとおもいます。これは言わばデザイン思考の体験版のようなもので、顧客中心で考えたことがない方や、普段クリエイティブと言われる領域と関わりがないような方に対して、デザインの視点から考えるきっかけとして使われます。ワークの内容も時間や参加者の理解度に合わせ、カスタマイズして行なっています。
イノベーションの為のデザイン思考
イノベーションを起こすことを目的としており、時間やリソースをコミットできるチームを組んで行われることが多いです。マーケティングの為のデザイン思考とは行うワークのボリュームも多く、実施期間も長くなります。
そのため「マーケティングの為のデザイン思考」で行うワークショップのやり方を熟知したから、「イノベーションの為のデザイン思考」もできると考えている人も多いと思いますが、「イノベーションの為のデザイン思考」と「マーケティングの為のデザイン思考」では目的が異なるので、構成するワークやかける時間にも違いがあります。
「イノベーションの為のデザイン思考」の本質
顧客中心発想やイノベーションを起こす方法の本質と言うと、異なる部分もあるかもしれませんが、デザイン思考に絞った場合、本質はエスノグラフィー調査によって得られたことを、身体を使いbuild to thinkしながらデザインしていくことにあります。
build to thinkと言ってもただアイデアを出してとりあえず作ってみることではなく、エスノグラフィー調査を元に作られたペルソナに対し、アイデアの提案する価値がペルソナのコンテキストの中で価値として受け取られる状態を共創するということです。
もちろんエスノグラフィー調査や、調査結果の分析方法、ペルソナの作り方、build to thinkの考え方や進め方などの手法はありますが、本質は「エスノグラフィー調査」と「身体を使ったbuild to think」にあります。
※よくある誤解
デザイン思考では様々な方法でアイデアを出させるワークがあります。その結果、デザイン思考は強制的にアイディアを出させるツールのように思われていることがあります。
このように「イノベーションの為のデザイン思考」と「マーケティングの為のデザイン思考」には違いがあるのです。
2つの見極め方
「イノベーションの為のデザイン思考」か「マーケティングの為のデザイン思考」かを見極めるポイントはエスノグラフィー調査と身体を使ったbuild to thinkをやるかだと思います。エスノグラフィー調査自体習得に時間がかかるため、省かれることも多いですし、build to thinkの際に身体を使いながら価値を作り出すスキットやあを行わないケースも多いです。ワークを省くことで、ワークショップ自体をやり易くすることはできますが、同時にイノベーションに必要な要素をなくしてしまうことになってしまいます。
デザイン思考はツールである
「イノベーションの為のデザイン思考」の本質という話はありますが、そもそもデザイン思考はツールなので使い手の理解度や習得度によって成果は変わってきます。
例えるなら自転車のようなものです。自転車に乗れる人は歩くよりも早く移動ができます。しかし乗れない人から見れば、乗れるようになるまで時間がかかってしまうため、短期的には歩いた方が早いと思ってしまうかもしれません。
そして厄介なことに、習得できていなくてもあたかもできるかのように装うことが可能でます。自転車に乗れない人でも「地面を蹴ったあと、左右の足で交互にペダルを漕ぐ」というように乗り方の説明はできるのと同じ状態です。ただこの状態は理解しただけで、自転車に乗れる状態とは言えません。
また補助輪(できる人のサポート)がある状態だとできてしまうので、自力でできたと勘違いしてしまうことも多いです。しかし使えるようになるためには、その後何度も何度も練習して自転車に乗れるようになるように、デザイン思考も何度も何度も体が覚えるまで回数をこなし、ようやく習得できるのです。
まとめ
2るのデザイン思考についてまとめてきましたが、デザインから何かを作り出すアプローチをやったことがない方や、ペルソナを作って顧客中心で考えたことがない方に、「マーケティングの為のデザイン思考」が提供する短期間のワークショップを通し、視点を変えるキッカケを作ることは、とても意味があると思います。
ただそこでやることがデザイン思考の全てではないので、あくまでデザインから考える入門ワークショップだという認識をもっていただければいいのではないでしょうか。
もしそこでデザイン思考の可能性を感じていただけたら、「イノベーションの為のデザイン思考」に挑戦してみてはいかがでしょうか。
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