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「価値観を知る」とは何なのか。

デザインやビジネスの世界でよく耳にする「価値観を知る」という言葉。顧客の価値観、従業員の価値観、組織の価値観など、様々な文脈で使われています。

しかし、立ち止まって考えてみると、そもそも価値観とは一体何なのでしょうか?そして、何をもって「価値観がわかった」と言えるのでしょうか?


価値観とは、物事を解釈するレンズのようなもの

価値観とは、最も基本的な定義では「何に価値を見出すかの考え」と言えるでしょう。もう少し哲学的な言い回しをすれば、「人が何に善悪や真善美を感じるのか」ということになります。

しかし、これだけでは少し抽象的すぎるので、より実践的な観点から、今回は価値観を「何らかの事象を目の当たりにしたときの反応や判断の方向性を決定するもの」と定義します。

たとえて言うなら、価値観とはレンズのようなものです。私たちは皆、自分独自の「価値観レンズ」を通して世界を見ています。このレンズを通すことで、同じ出来事や状況でも、人によって全く異なる反応や判断が生まれるのです。

よくある間違い:価値観は願望ではない

よくある間違いが、価値観と願望を混同してしまうことです。これは、価値観に対する具体性が乏しいことが原因で発生します。

たとえば、私たちが「一人暮らしのビジネスパーソンのための外食」をテーマに新規事業を立ち上げるとします。ターゲット像をより具体化するために、ターゲットの外食に対する価値観を明らかにするよう、リサーチャーに依頼しました。

後日、渡されたリサーチ結果に目を通すと「ターゲットは美味しくて安くて健康的なものを食べたいという価値観を持っている」と書かれていました。

この結果を元に新規事業をドライブできるでしょうか。正直ピンとこないと思います。「そりゃそうだろ」「だから何?」と言いたくなるはずです。

なぜピンと来ないのか。それは、具体的なペルソナを用意せず、最大公約数的な考えで価値観を捉えようとして、一般的に大勢が持つただの願望を捉えてしまったからです。不味くて高くて不健康なものを食べたいと思う人はいないですよね。これでは価値観を知ったとは言えません。

価値観を「知った」と言えるのはいつか

その価値観には異論の余地があるか

では逆に、私たちは何をもって「相手の価値観がわかった」と言えるのでしょうか。残念ながら、定量的で明確な基準はありません。しかし、ビジネスの文脈で考えると、「異論の出る余地が十分あること」が一つの目安になるでしょう。

人はそれぞれ異なる価値観を持っています。ある人の信じるものが、別の人には理解されないことは往々にしてあります。特に、ビジネスの文脈で価値観を扱うのであれば、その人以外にとっては反論可能性があるくらい尖っていた方がシャープな課題設定や解決策に繋がりやすいです。

先ほどの例に戻りましょう。

私たちはさらにリサーチを進めると、あるターゲットから「仕事帰りで疲れていても、なるべく外食したくない。何が入っているか分からなくて健康に悪いから。もう社会人なんだから、無駄に外食するのは恥ずかしい」という発言がありました。

この発言を分析すると、価値観がいくつか見えてきます。例えば、「外食は健康に悪い」「食事は栄養バランスが優先されるべき」「立派な大人は自炊して然るべき」といった価値観です(本来はもっと精緻に分析するのですが、今回の趣旨とズレるので雑に進めます)。

これらの価値観には異論を唱える余地が十分にあります。「外食でも健康的なものはたくさんある」「栄養バランスを気にせず、好きなものを食べるのも大切だ」「たまの贅沢で豊かな時間を過ごすための外食もあるはずだ」といった反対意見が十分に成り立ちます。

このくらいのエッジが効いていて初めて「その人ならではの価値観」と言えるでしょう。

価値観の正しさを問うのではなく、受容と共感と理解を

また、ついやってしまいがちですが、その価値観の正しさや善悪を議論する必要はありません。あくまで「その人は世界をそう見ているんだ」と価値観そのものを受容することです。

重要なことは、それぞれの価値観の背景にある思考プロセスや経験、感情を深く理解することにあります。

先ほどの例で言えば、「外食は健康に悪い」という価値観を持つ人の背景には、過去の不健康な食生活への反省や、健康志向のメディア情報の影響、あるいは家族の健康問題など、様々な要因が考えられます。

そして、その要因一つ一つに対してまた別の価値観が形成され、相互に関わり合ってまた一つの大きな価値観を形成しています。

価値観の理解に終わりはない

価値観は変化し続けるものである

さらに、価値観は固定的なものではなく、時間とともに変化する可能性があります。新しい経験や情報、社会の変化によって、個人の価値観も少しずつ変化していくのです。

価値観が変化する以上、価値観を理解しようとする営みに終わりはありません。価値観理解とは、個人や集団の思考の根底にある複雑な信念システムを理解する継続的なプロセスなのです。

このプロセスには、注意深い観察、深い共感、そして時には自分自身の価値観を一旦脇に置く勇気が必要です。しかし、この難しさこそが、価値観理解の重要性を物語っています。

そこまでやって、相手を深く理解してこそ、ターゲットの行動や選択を想像し、よりシャープなコンセプトを持つ製品やサービスを提供できるのです。

価値観を理解する価値は事業開発に留まらない

今回は新規事業を例に話を進めましたが、もちろん価値観理解の効果は事業開発に留まりません。部下の仕事に関する価値観を捉えられば、その価値観に応じた業務アサイン、モチベート、気付きの機会提供も可能になります。クライアントのこのプロジェクトに関する価値観を捉えれば、より芯を食った提案ができるでしょう。

次回以降、相手の価値観に近づくための具体的な方法を紹介していきます。

この記事が皆さまの価値観探求のお役に立てれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

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