工場バイトでカップ麺のちぢれ具合を見極めるスキルが右肩上がり
知られざる工程:麺のちぢれチェック
みなさんがおいしく食べているそのカップ麺、製造元にて数えきれない程の工程が踏まれているのをご存知でしょうか。
その名も「麺のちぢれチェック」
カップ麺の乾麺が正しくちぢれているかを瞬時に見極め、世に出せる商品かどうかを判断する大切なポジションです。
この記事では、カップ麺製造工場で働いて「ちぢれ麺マスター」として名を馳せた体験をご紹介します。いつもは失敗話ばかりですが、今回は誇りを持ってお伝えしていきます。
ぢぢれポジションに任命された日
大規模なカップ麺の工程ってのは、麺を製造⇒加熱⇒乾燥⇒包装⇒梱包⇒出荷とライン作業が続いています。それまで調理済の麺がゆっくりラインを流れていく様子を死んだ目で見守るポジションにいた私は、ある日、工場長に呼び出されました。
工場長「今日からちょっとポジション変わってもらうよ。」
そして連れていかれたその先には…今までのポジションの倍速で機械が動き、ガチャン、ガチャン、と一定のリズムでスープの袋と一緒に包装されていく乾麺たち。その一歩手前のポジションでした。
私「あの、ここはどんな作業をするんでしょうか…?」
急に時間の流れが変わり、ちょっとドキドキしていた私に工場長がキリッとした顔で答えました。
工場長「ここで麺のちぢれを見極めてもらうから。」
私「!!」
この日から、私のちぢれと向き合う日々が始まったのでした。
極上のちぢれの条件
1日24時間あるうちの8時間も、世間に出しても恥ずかしくない麺のちぢれ具合を真剣に吟味する日が来ようとは。
同じポジションを担当する人は他にはいません。右側のラインから止まることなく流れて来る乾麺を瞬時に見極め、条件に満たない麺はバシッとはじいて作業ラインの外の箱へ。
無事、私の目を潜り抜けた麺たちは、そのまま1m先までシューッと流れ自動的に包装されていく。それ以降のライン作業では麺の中身が確認できなくなります。私のちぢれチェックが重要喚問だといういうことにお気づきだろうか…。
気になる良いちぢれの条件はシンプルで、全体的にバランス良く統一されてちぢれていること。乾麺になる工程で一部分だけビローンと伸びていたり、欠けていたりするのはNG。腹の中に入ったらみんな同じだろうとは思いますが、実際にクレームとかくるらしい。
見えない場所も美しく!これぞジャパンクォリティ。
苦戦したのは麺が移動するその速さ。1秒に3個くらい目の前を通り過ぎていくため、動体視力と反射神経の良さが求められます。ちょっと気を抜いていたらあっというまに数十個通り過ぎてしまう…
やってやんよ。そこで本気出して戦闘態勢を取ることにしました。不適切なちぢれを見つけたら即はじけるように右足半歩前へ。近くで麺を見分けるため中腰を保ち、右手は肘を貼ってアゴの下へ。
百人一首の全国大会出場並みの気迫で迎え撃ちます。
(来るなら…来いっ!)
目の前を秒速で通る麺のちぢれに全神経を集中させます。ずっと見ていると、他のちぢれと違った形の麺がフッと目に入り、一瞬スローモーションになりました。開眼!!
(見えた!!!ココだーっ!!)
パーン!!!(麺を右手ではじく音)
危なかった。真剣勝負をする剣士が、間合いを見極め剣を振り下ろす瞬間を疑似体験できました。
その気迫も最初の数時間だけで、中腰もキツくなってきたので普通に立ちながら出来るようになりました。
麺の詰まりから日本を救う
数日後、「麺のちぢれと言えばししゃも(筆者)さん」と言われるまでに成長していた私。手首のスナップをきかせて、どんなちぢれでも思いのままにはじける様になっていました。
しかし、その頃よく噂話が流れていたのが、機械の不調。24時間365日稼働させているので、定期的なメンテナンスは必須です。
特に私の作業ラインは、流しそうめんのような狭い一本道を乾麺が1玉ずつ通るように作られています。スムーズに行けば何の問題はありませんが、1玉でも上手く流れないと…大変なことになります。
そしてある日、事件は起きました。
いつものように、手練れた右手でダメなちぢれをあしらっていたら、その先の工程で不審な音が響きました。
ビーーッ ビーーッ ビーーッ
よく見ると、流れて行ったはずの乾麺が機械に詰まって溢れまくっています。後から流れてきた麺たちも行き場が無く、どんどん追突して詰まっていきます。
これは…マズい!!そこへ小走りで近づいてくる工場長、キリッとした顔で私の方を向いて指示を飛ばしました。
工場長「詰まりが取れるまでそこで麺を箱に流して時間を稼いでくれ!機械の電源は止められないんだ!麺を無駄には出来ない!!」(海猿の司令部をイメージ)
私「ハイ!!!」
1日の予定製造量は決まっています。怪我など危ないことが無い限り、大規模な機械を1度止めてしまうと全ラインの工程が止まってしまう!ということで、麺たちの命を預かった私は急いで空箱を集めてもらい、とめどなく流れて来る乾麺たちをひたすら捕獲。
(1つ残らず…全員助けてみせる!!うおおおお)
とは言うものの、機械のスピードに人間は追い付けないのでヒーヒー言いながらやってました。早く直してぇぇ。
20分後、もうじき活動限界突破…と思ったその時!
工場長「直ったぞ!包装フィルムを使い過ぎる前に麺を今すぐこっちに流してくれ!!」
私「ハイ!!!」
そこからは釜ジイのごとく箱から麺を流しまくります。この時だけはきっと手が6本あったに違いありません。うおおおお。
10分後、通常稼働に戻りました。麺の廃棄も抑えることができ、一安心。そして数日後、また工場長に呼び出される私…
乾麺への熱意が評価され、昇進(ポジションチェンジ)しました。笑
昇進先の作業はまた次の機会に…!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?